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楽園の誓い  作者: 凡 徹也
8/20

「第4日、そして第5日」

いよいよイベント本番当日!大勢の客が押し掛けていた。その中に自分を名指しで訪ねてくる若き女性達がなん組もいた。

慌ただしい雰囲気のなかで、その娘達が更に陽気にはしゃぐ。パニックのなかで、ユウイチが手配した女の娘達何だろうと気が付く。

 僕はぼんやりと天井を見ているつもりでいた。そこには、あの丘で見たユウイチの横顔が投影されていたが、その直後に僕は「ハッ」と気が付いて飛び起きた。時計を見ると6時半であり、鳴っていた筈の目覚ましのアラームのセット時刻を15分程回っていた。

 僕は急いで髭を剃り、シャワーを浴びる。バスルームから出て、髪を乾かし、ムースで撫で付け少し固めた。今日は人混みの中で長時間過ごすことになるので、汗をかいても大丈夫なように、身体には体臭を予防する試作段階のマスキングボディデオドラントで軽く香り付けをした。この香りは、僕のお気に入りである。気持ちが落ち着いたあと、今日はスーツではなく、短パンに支給されたアロハのシャツを着て、ホテル一階のラウンジに朝食を食べに降りた。昨晩、食事を摂らずに寝てしまっていたので、腹はペコペコだった。

 ラウンジの案内係が、一昨日の朝と同じ質問を繰り返したので、今朝はスクランブルエッグと、ソーセージを頼んでみた。プレートが来る前にとワゴンまで自分でフルーツにヨーグルト、それにパンを多目に取り更にサラダとスープを持った。テーブルへと戻ると頼んだメインディッシュが運ばれてきていて、着席して早速食べ始めた。。スクランブルエッグは、ふわふわで味も良くてボリューム満天。、ソーセージもとても大きく旨い。明日からもこの組み合わせがベストチョイスかなと決めた。ジュースを食事の途中で取ろうと席を立った。今朝はパパイヤをフレッシュジュースにしてもらった。レモンを添えてまあまあな味だ。でも、自分にはあのチープなグァバジュースの方がしっくり来るなと思った。コーヒーも2杯。何時もより多目に飲んだ。

 部屋に一旦戻ってズボンを今日のユニフォームの白のチノパンツに着替え、8時にホテルを出た。スーツよりはましだが、ハワイの気候的には、やはり歩く足にまとわりついてくる。汗が出始めるとチノパンツの裏地がくっついて更に歩きづらい。外では、やはり半ズボンが一番なのかもしれないな。それでも会場内はエアコンが効いている筈だ。それまでの我慢だと言い聞かせながら道を歩いてなんとか会場に到着、ゲートをくぐった。

 関係者パスを首からぶら下げて、入口脇の関係者ゲートから会場内へと入った。一般入場迄、まだ1時間以上あるが、既に入場口には大勢の人が並び、会話を交わしながら待っていた。花鐘堂のブース迄来るとスタッフや、モデル達も揃っていて準備に余念はないようだ。

 「おはよう、いよいよだね」そう僕が声をかけると皆が一斉に僕の方へと振り返った。センターステージ上にショーの舞台演出責任者がいて、彼は演出の打ち合わせを中断してステージから降りて僕を出迎えてくれた。そして、僕は導かれるままステージの上に立つ。皆が拍手で迎えてくれ、作業を中断して集まってきた。僕はマイクを通して「皆さん、今日は宜しくお願い致します。」と、片言の英語で挨拶をしたあと、1人1人握手をして回った。モデルは日本人が1人、あとはアメリカンと、ヨーロピアンが計5人。30分のショーは、午前、午後に各一回2日間で計4回行われる。僕はその間はステージ下にいて、合間に製品コンセプトの説明と質問の受け答えを行う。通訳の女性とも意志の疎通を図れて息も合っている。モデル達の製品の持ち方やポジショニングを最後に確認してステージから離れ、補助スタッフたちがパンフレットとサンプル品をスムースに渡せる段取りを確かめた。

 開場15分前になり、僕は全スタッフを集めて円陣を組んだ。モデルを含めて数十名。まるで体育会のノリだが、何故かそうしたかった。皆が良い顔をしていた。このイベントの進行に不安がない証拠だった。

 「スマート&スマイル!そして、思いっきりお洒落に行きましょう。」僕は一言述べたが、気合いの合図は若手のスタッフに任せた。僕たちは其々の持ち場に就いた。会場内のBGMは、ボリュームが上がり、曲調も変わった。いよいよオープニングだ。

 午前9時30分。ファンファーレと伴にテープカット。イベントは、スタートした。ゲートからは大勢の人達が流れ込んできた。10分もすると会場内は人でごった返し始めた。2日間の来場者は、1万人を超えると見込まれていた。当然、メイン通路に面した花鐘堂のブースにも人は押し寄せた。

 開始直後、僕はステージ脇でジャーナル誌の記者達の取材に応えていた。ブースに来た来客の中に数名の女性グループがいたのは気が付いていた。そのなかの誰かが「サトルは何処?」と尋ねる声が聞こえたような気がした。僕は、そのサトルという響きに気をとられ、その声がする方を振り返って見てみた。全く見知らぬ女性だ。スタッフの一人が僕の所へとやって来て「サトルって、尾崎さんの事ですよね?」と、耳打ちしてきたので、僕は記者達に「ちょっとご免なさい」と言って頭をさげ、女性達に近付いて「自分がそのサトルだと思いますが…?」と言ったとたんに

 「キャー!貴方がサトルね!逢いたかったわ。ステキ。」と大声を出しハグしてきた。そして、数名の女性達に取り囲まれてしまった。 僕は唯、唖然としてしまったが、正気を取り戻しとりあえず皆と握手をしたりハグされたりしながら新製品の説明をして、サンプルを渡したが、僕を訪ねる女性は次から次へと押し掛けて、一時は数十名に膨らんでしまい、ブースの一角を占拠する形になってしまった。僕は訳も判らずに一人一人対応するしかなかった。その女性達は挙って僕と判るとその度に抱きついたり陽気にはしゃぐので、その声や人だかりに惹かれて会場内の他の入場者達も花鐘堂のブースへと集まり始めてしまい。辺りは騒然となってしまった。余りにも人が集まり過ぎた為に会場内のガードマンがやって来てその人達を整列し並べ始めていた。予想外の珍事?であり、並ぶ列の中にも、まだまだ同類と思われる陽気な女性達がかなり居て、はばからくも花鐘堂のブースは会場内で最も目立つ事になってしまったのである。

 僕を訪ねる女性達は200人を超えたとおもわれた。それでも午後2時過ぎになるとやっと事態は落ち着いてきた。千個を用意していた初日用サンプルは、当に無くなり、急遽明日の分を取り崩した。サンプルは、残り五百位となったが、こればかりは増やしようがない。明日に備えてスタッフが、パンフレットのカラーコピーを取りにイベント途中にオフィスへと戻っていった。

 夕方になり、イベント初日は終わろうとしていた。嵐が去った後、僕はスタッフの数人に囲まれて、

 「本当に…!。尾崎さんはハワイで大勢のお友達をお持ちのようで。」と、皮肉混じりに言われたが、上役からは「どうやってあれだけの人を集めたんだ?」と、大いに感謝された。その人だかりが早速夕方のテレビニュースで流れたそうだ。僕もバックヤードでニュースをチェックしていた。インタビューには、何とクリスが映って、アナウンサーに応えていた。

 「こんな夢のような製品が前から欲しかったのよ。これで、これからはデートの時も安心ね!」と思いきりの笑顔で応えていた。そう言えば、昼間、クリスと目があったのだが、その時は僕がパニックの真っ最中でとても会話を交わせる状況ではなかった。初日のゲートが閉門されて息を大きく吐いた。我に返った僕は思っていた。

 「絶対にアイツだ。アイツに決まっている…。」僕はユウイチの仕業と確信していた。「まったく、もう……。」と独り言を溢しながら、ユウイチという男の底知れぬ不思議さを感じていた。

 そうして、次の日も人は大挙して押し掛けた。初日ほど自分を名指しで来る人は居なかったが、どうやら昨日のニュースを見ていた人達の様だった。準備しておいたサンプルは、昼には無くなってしまい、それからは来場者に頭をさげっばなしだった。午後にはとうとう自分までテレビカメラの前に引っ張り出され、新製品の解説をする羽目になった。現地のお偉方には「これは局長賞ものだよ」と、賛辞された。

 イベント終了後、ブースの片付けをしていると、いつの間にかスタッフ達は僕の事を「サトルさん」と呼ぶようになっていた。皆、疲れてはいたが、揃ってとびきりの笑顔だった。仕事をやりきった充実感が溢れ誰の目にもこのイベントでのわが社の発表は、大成功に見えた。

 慌ただしい片付けの中、出展していた他の会社のスタッフ達も、その合間をぬって花鐘堂のブースを訪ねてきて挨拶をしてくれた。僕が受け取った名刺は、実に300枚を超えていた。片付けが終わりいよいよ撤収というとき、最後締めをすると、スタッフやモデル達は自然にお互いを讃えあい、皆ではぐをしていた。当然、僕にも皆がハグして解散となった。僕は嬉しかった。今までのイベントでは、握手の解散は有ったが、こうも感情を表してくれたことはなかった。結果的に、この成功もユウイチのお蔭があったからかもしれないと思った。

 僕は夜9時に、お礼を伝えようと聞いていたユウイチの自宅へと電話を入れたが、留守なので、とりあえずオフィスへと電話をかけると、ユウイチが直接電話に出た。

 「ユウイチさん、まだ、仕事だったんだ。ゴメン。」

 「まだ、今日の仕事の報告書が、書き上がらなくてな。サトルの方は仕事上手くいったのか?」

 「大盛況だったよ。でも、大勢来たあの陽気な女の子達ってユウイチさんの差し金でしょう。」

 「差し金とはひどいなあ。でも良かったよ、盛況で。知ってる女の子達にサトルって奴を訪ねてやってくれと話しといたよ。客が少なかったら寂しいだろうと思ってな。」

 「あのね!ちょっとやそっとの人数じゃなかったんだよ。会社の同僚達が皆で僕の事を奇異な視線で見ていたんだから。」

 「そりゃ愉しかったな。なるべく友達誘って大勢で行ってやってくれと言っといたからな。安心しろよ。皆、良い娘達ばかりだからな。一度は遣って確かめてあるからな。」

 僕は、どんな、安心なんだ?と思ったが、満更言ってることには嘘はないなと思えた。あれだけ大勢の女性達が、嫌がること無くユウイチに好意を持っているとしたら…ユウイチには精力だけでなく女性達を惹き付ける心の魅力も相当あるんだろうとも思い始めていた。

 「そうだ!サトル。明日ハナウマだったな。本当に自転車で行くのか?止めて車で行こうぜ!」

 「でもなあ。出来たら自転車で街並みや風を感じながら走って行きたいんだ。ユウイチさんは、自転車嫌いなの?それとも、もしかして…脚力に自信無かったりして。」

 「バカ言ってんじやねーよ。体力は有り余る位有るよ。サトルに負けるような柔な身体じゃねーよ。ただ、気が乗らないんだ。」

 「そんな事言って、本当は自信ないんでしょう。ふーん。」

 「冗談じゃねーぞ。まあいいや、我慢して自転車で行ってやる。レンタサイクル屋は、知り合いが居るから頼んでおく。明日朝、8時30分にホテルに行くから準備して待ってろよ!明日、吠え面描かせてやる」

そう言って電話を切ってしまった。相変わらずせっかちだなと思いながらも愉しく感じて僕は笑ってしまった。不思議な気持ちだ。仕事という呪縛から解放された事も有るが、明日また、ユウイチと一緒に居られる事を嬉しく思っていた。

 夜、長かったこの2日間のイベントでの出来事を思い出しながら、明日のきっと愉しくなるだろうハナウマへのサイクリングの事を妄想し、ベッドに横たわっていた。何故か寝付けなかった。それは丁度、子供の頃の遠足前夜、興奮して寝れない時の様に。気分は高揚していた。寝返りを打ち、窓の外にぼんやりと見える三日月を眺めた後、瞳を閉じた。その月のシルエットは、そのまま昼間の太陽となり、その太陽が照らすハワイの海辺には逞しいユウイチがハワイの大王そのままに佇んで僕を見下ろし微笑んでいるかのような錯覚を覚えていた。

イベントは大成功。いよいよ明日はハナウマへのサイクリングです。

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