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楽園の誓い  作者: 凡 徹也
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「第3日」その2

気まずい雰囲気のなかで、ドライブは続き、ハレイワで朝食となる。妻帯者と知れたサトルではあったが、お互いの会話のなかで理解は深まり、やがて心の交流も生まれ、サトルとユウイチもお互い意識の感情が芽生えます。

 辺りは、その長閑な風景とはうらはらに何処と無く重い空気が流れていた。ユウイチも僕も、無言のまま車へと乗り込んで再び走り出していたが、車上では会話も無く、ギクシャクしたままだった。折角の楽しい「グループデート」に、僕の事が水を差す形になってしまった。僕は気まずさをはぐらかせるかの様に車で横を向いたままだった。間も無く遠くに海岸線も見えてきて、それから暫く走ると、ノースショアの最初にある町「ハレイワ」へと入った。その町の玄関口にある、その名も「カフェ、ハレイワ」というベタな名前の店の前で、車は停まった。

 「此処で朝食でも食べよう!」ユウイチが、そう言って車から降り、3人はそれに続いて静かに車から降りて店に入った。店は若い人に人気がある店の様で、店内は結構混雑していた。客のほとんどが良く日焼けした「マリンボーイ、マリンガール」といった感じの人で満ちていた。海の近くの所為もあり、潮の香りもする。雰囲気の良い店だった。

 4人はオープンデッキのテーブルに一旦座った。ユウイチが、

 「クリス。任せるから4人分何か頼んで来てよ。」と言うと、

 「じゃあ、注文ついでに化粧直して来るわね。」と言ってアンと二人でカウンターへと注文しに行った。

 ユウイチは、タバコに火を着けてから、椅子に深々と座り直してから、身を乗り出して話しかけてきた。

 「びっくりしたよ。まさか嫁さん居るようには見えなかったから。先に言って置いてくれれば良かったのに。」

 「だって、そんな事、何にも聞かれなかったじゃないか。」

 「いやあ…そうだけどな、サトルは随分早く結婚したんだな。」

 「だけどさ。日本じゃ29歳にもなれば、結婚している奴の方が多いじゃん」

 「お前、29かよ。俺と一歳しか変わんねーじゃん。俺は、24歳くらいだと思っていたよ。スゲー若く見えるな。」

 「大体、歳も聞かれてなかったよね。」

そんなやり取りの最中、クリス達はテーブルへと戻ってきて、間も無くスタッフが、飲み物を運んできた。アンが、

 「ハウ、オールド、アー、ユウ?」と聞いてきたので、僕は、「29イヤーズオールド。」と答えると「リアリー?」と、まじまじと僕の顔を覗く様に見つめた。空かさず、クリスは、

 「私達は、20歳くらいの学生だと思っていたわ。」と言う。随分若く見られたもんだ。確かに、日本人は童顔で子供に見られる傾向はあると思っていたが、それにしても学生かあ。

 「サトルは端正な顔立ちだし、少年ぽい雰囲気あるもんなあ」と、ユウイチがしみじみ呟いた。

 「結婚しているって本当なの?」とクリスが聞くので、

 「去年、結婚したんだ。」と告げた。

 「まあ、とりあえず、今日の出会いに乾杯するかあ。」と、ユウイチが音頭をとり、僕たちはジュースのグラスを当てた。

 間も無くしてスタッフが僕たちの朝食を抱えて運んで来た。メインは、プレートの上に飾り盛られていた。テーブルは料理に占領され一杯になった。「戴きます」と、朝食が始まると車中での気まずい沈黙よりは明るい雰囲気が戻り、会話も進んだ。食事はすこぶる美味しかった。料理を殆ど食べ尽くすとアンとクリスがコーヒーのお代わりを取りに席を立った。空かさずユウイチが身を乗り出して話しかけてきた。

 「マジに、嫁さん居るとは思わなかった…。」

 「事実だから仕方無いでしょう。」

 「アンが、ガッカリしていたなあ」

 「だって、ユウイチさん、女性紹介するなんて一言も言ってなかった。」

 「お前、普通ドライブって言ったら、それ付き物だろーよ。」

 「僕は、屋根の付いてる普通の車でユウイチさんと二人で行くもんだと思ってた!」

 「仕方ないなあ。知られちゃったし」

 「あの時、ユウイチさんが、思い切り大声で言うからじゃないか。」

僕は、むきになって変な理屈を捏ねている自分が、不思議だった。

 僕たちは朝食を終えてから海の見れる所まで歩いてみた。町は懐かしさもあるなんとなく古い街並みで、そこを抜けると、眼前には限り無く海が拡がっていた。歩きながら、僕は、クリスとアンに改めて自己紹介をした。自分はサラリーマンで、一昨日、明日から行われる仕事のイベントの為にハワイへ来たばかりだと告げた。クリスは、

 「私は学生だとばかり思っていたけどね…。イベントってもしかして『コスメチックショー』の事かしら?」

  「そうですよ。その為に来たんです。」

 「私達、それに行くつもりよ。凄いわ。何て会社かしら?」

 「『KASHODO』です。」

 「それって一流の会社じゃないの。サトルはその会社の社員なの?」

 「僕は、会社の渉外担当です。」

 「へぇ!!。サトルってエリートなのね」

僕はそう言われて少し照れた。

 「良かったらうちのブースに立ち寄って下さい。」僕はそう言って自分のカードを二人に差し出した。すると、クリスは首を横に降りながら、「それじゃ駄目よ。日本ではそう言うのね。でも、ハワイでは『良かったら…』じゃ、無くて『是非とも来てください。』って言うものなの。そう言わないと本当に来てほしいって相手に思いが伝わらないものなの。」そう言われて、僕は改めて、

 「是非、お越しください。」と言い直した。二人は笑ってカードを受け取ってくれた。その言い方は、この先も覚えておこうと思った。

 「じゃ、仕事の事は暫く忘れて、ドライブを楽しみますか!」

ユウイチは、そう言って僕たち3人を促した。

 車に再び乗り込み、ハレイワの街並みを抜けると、目の前にはノースショアのビーチが拡がった。砂浜は限り無く続いているようにも見える。ビーチは白く、海はグリーンとブルーのグラデーションが美しく、空と繋がっているかのように僕は感じていた。波はビーチに近付くと、白く泡立ってブレイクし、それが鈍い白の線のように見えた。ビルなど一つもなく、建物もまばらに在るだけで、確かにワイキキとは全く違う風景だ。

 「そうだ!。ラニアケアビーチ迄行ってみるか。もしかしたら海ガメの上陸が見れるかもしれない。」

 「海ガメって…。産卵に上がって来るんですか?」と僕は尋ねた。するとユウイチは、

 「いや。ラニアケアにはエサを食べに上陸してくるんだぜ。世界でも滅多に無い場所なんだ」そう言いながらユウイチはアクセルを踏み込んだ。ノースショアのビーチは、美しく、人も少ない。風を思い切り受けて車は走る。気持ちの良いドライブだ。

 ラニアケアビーチに到着すると、此処だけは混雑していて、車も沢山停まっていた。ビーチを眺める人も溢れていたが、この日は海ガメの上陸は無かった。

 「残念だな。亀には会えなかった」

 「でも、景色は最高!風も気持ちいい。僕は満足してるよ」と、僕は応えた。

 「このままオアフを半周して山越えで帰ることもできるけど、ちょっと時間足りないな。アンとクリスは行きたい所あるか?」

 「私達は、オアフは大抵の所行ってるから。それより、サトルは何処か行きたい所ないの?」

 「う~ん。僕は景色を見渡せる眺めの良い所へ行きたいな。でも、余り時間無いからね。」と、僕が言うと、アンが、

 「それなら、『タンタラスの丘』へ行くのはどうかしら?」と言うと、他の二人も

 「そうだな。意外と俺たちも行ってないしな。其処にしよう。」と賛同した。車はUターンし、今日走ってきた道を逆戻りし始めた。

 「『タンタラスの丘』は、ホノルルの街並み全体を見下ろせる場所なんだ。」と、ユウイチは、言った。

 車は、ノースショアのビーチを離れ、パイナップル畑を抜けて再びホノルルの街へと戻ってきた。街の中心部を過ぎると車は山の方へと向かった。少しずつ標高を上げながら小高い丘の上へと辿り着いた。

『タンタラスの丘』は整備され公園になっていて、中に展望台もあった。車を降りてからその展望台へと行くと、本当にホノルルの街並み全体が良く見渡せる。ワイキキビーチに面しているビル群も一望出来た。左側に見えるダイヤモンドヘッドが上から見下ろすと、単なる岬ではなく、火山の噴火口だと良く解る。

 「うわあ!気持ちいいなあ。」と、思わず口にしていた。そして暫く無言でこの風景全体に見入っていた。海からの風が前方から吹き上げて、僕の髪の毛を巻き上げていた。暫くしてクリスが話しかけてきた。

 「私達もハワイに住んでいながら意外と此処には余り来ないのね。私も久し振りに此処へ来たけど、いい景色だわ。今日はラッキーね。」そう言うクリスの長い髪は横に波打ち、アンのショートカットは逆立っていた。男にしては長めのユウイチの髪は、たなびいて音を立てながら顔に当り、痛そうにも見えたが、それが横から見ると精悍な顔立ちに似合っていて格好良く見える。僕は何度も深呼吸しながらそのハワイの広告ポスターそのものの絵画の様な風景にずっと見入っていた。

 「言葉で表現出来ないけど、何かいいなあ。空気も綺麗だし、風も爽やか。深い緑の向こうにビル郡があって、その向こうは大海原。ここの景色は大自然と人造物が不思議と調和して見える。」

 「昼間も良いけど、夕方からの夜景も最高なんだぜ」と、ユウイチが、笑顔で話しかけてきた。ユウイチは、素直に喜ぶサトルの姿が、妙に可愛らしく感じて嬉しく思った。

 二人は並んで展望台の柵際に立っていた。ユウイチの堀の深い精悍な顔を斜めに陽が照らし、一際カッコ良く見え、彼の男らしい魅力を初めて意識した。ユウイチは、サトルが出逢ってから初めて明るい表情を見せてくれていることにホッとし、サトルの居場所がガラスの様に透き通り輝いている様に見え、「何て爽快な奴なんだろう。」と不思議な感覚を覚えていた。

 「ねぇ、記念に写真撮りましょうよ。」と、クリスがカメラを取り出した。カメラをユウイチに渡すと、クリスは僕とアンの手を取り、僕を挟む様に立った。僕は両腕を二人の女性に組まれた。そんな経験をしたことが無かった僕は顔を赤らめ照れた。「サトルってうぶなのね」とクリスは笑った。一枚シャッターをきると、次ぎはクリスがカメラを持ち、「ユウイチ、サトルと並んで」と、急かした。ユウイチが、僕の隣に並ぶ。背の高いユウイチとは大人と子供のようだ。ユウイチが、僕を引き寄せて肩に腕を回して組んだ。カメラに向かいながらポーズを決めて

 「じゃあ、アンも僕が戴いちゃうぜ」と、耳元で囁いた。僕は、ユウイチの方を向いて、

 「そんなことばかりやってたら、いつか神様の天罰が下るよ」と、忠告すると、ユウイチは僕のおでこを指で弾いた。僕はおでこを押さえながら、小声で「イテェ」と言った。その仕草をみて、クリスに

 「ちょっと。何やってんの。ちゃんとこっちいて向いて」と言われ、ボクたちは肩を組んだままカメラの方を向いた。後ろから大海原からワイキキの街並みを越えてやって来た海風が吹いていることが、はっきりと感じる事ができる。上からのアングルで、きっとダイヤモンドヘッドも写っているだろうな。クリスはその後もアンと一緒にはしゃいで写真を撮ったりして二人は楽しそうだった。僕達はその後も並んで風景を眺めていた。ユウイチが、再び僕の肩に手を掛けて腕を廻した。僕は急にドキッとしていた。人とこれ程身体を密着する機会など、全く無い僕は、ユウイチの太い腕や真っ黒に日焼けした首筋の感触を意識していた。そのまま数十秒の間、僕は目を瞑り、太平洋からの爽やかな風を全身で感じていた。その時間は束の間ではあったが、まるで絶海の孤島の断崖絶壁に二人きりで佇む長い時間にも感じていた。

 「そろそろ行くか?」と、ユウイチが発した言葉で我に還った。4人で車に戻りかけたその時に、クリスが、「サトル」と声を掛けてきた。

 「何ですか?」と僕は応えてクリスに近寄る。

 「本当に結婚してるの?。とてもそうに見えないし、それにユウイチの友達何人も知っているけど、皆独身ばかりで、サトルの様なタイプは、他に居ないし。」

 「結婚してるのは本当ですよ。」

 「それに、ユウイチとどういう知り合いなのかしら?。ユウイチが直接私に友達連れて紹介するって初めてなのよ。何か特別な友達なのかと思って。」

 僕は、出会ったきっかけや、まだ知り合ってから2日しか経っていない事などを説明しようとしたが、躊躇った。一昨日の路上での出来事を上手く説明出来る自信は無かった。

 「それより、ユウイチさんて、仕事ちゃんとやってるのかな?毎日遊んでいる様にしか見えないよ」と、僕が尋ねた。

 「あら、知らないの?ユウイチは、ああやってちゃらんぽらんに見せてるけど、仕事は出来るし、職場では誰よりも人気あるしそれに、誰よりも働くわ。バイタリティー溢れているし行動派で、会社ではエースって存在だわね。仕事中のユウイチは、普段よりもっと素敵に見えるわよ。」と、笑って答えた。その事は僕には意外に思えた。

 4人が車に乗り込んで、駐車場を出て丘から麓の街へと向かうアプローチロードを下り始めた。ユウイチは運転しながら

 「サトルはこれから仕事だよな?」

 「うん。午後から会場入りして夕方から、関係者だけ集めたレセプションがあるんだ。そして明日明後日が本番かな?」

 「俺も、明日明後日はカイルアで仕事だ。ウインドサーフィンの教室担当なんだ。じゃあ、3日後だな。また、遊ぼう。」

僕は、「うん。」と答えて自然に承知していた。朝までは、逢うのも気が乗らない筈だったが、信じられない位、素直に返事していた。

 後部座席からは、クリスが「明日、アンと一緒にコンベンションセンターにサトル尋ねて行くわね。だからまた逢えるわね。」と言ったので、僕は、「楽しみにしています。」と答えた。

 車はホノルルの街へと戻り、ワイキキビーチに向かって、もうすぐホテルに到着というときに、ユウイチが、

 「3日後、サトルは何かしたい事あるのか?」た聞いてきた。僕は、

 「う~ん、そうだな。ハナウマ湾に行ってみたいなあ」と、応えると

 「よし、解った。任せとけ!」とユウイチが、返事をしてまもなく、車はホテル玄関に到着した。車から僕一人だけが降りた。

 「サトル、ハナウマな!」とユウイチが確認するので、  

 「うん。但し、自転車で行きたいんだ。」と言いながらドアを閉めた。

 「おい、よせよ。冗談だろ?ハナウマって結構遠いぜ。」

 「大丈夫!距離はちゃんと地図で調べたから。じゃあ、3日後に。楽しみにしています。」僕は、そう言いながら何か一昨日のモヤモヤした気分の仕返しがやっと出来た様な気分がして、ちょっと愉しく思った。

 「自転車でかよお。」と、ユウイチはブツブツ言うと、後ろの二人はキャハハと、陽気に笑い転げた。ユウイチは「参ったなあ」と言いながら車を発進させた。クリスとアンは。後ろを振り返りずっと手を振っていた。僕も車が見えなくなるまでそれに応えていた。ユウイチは、愚痴を言いながらも、タンタラスで喜んでいたサトルの笑顔を思いだし、顔はにやついていた。

すっかり仲良くなったユウイチ、クリスとアンとの間では、イベント最中でも色々な出来事が起こります。それは…。

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