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楽園の誓い  作者: 凡 徹也
3/20

第1日

ハワイカラカウア大通りで偶然知り合ったサトルとユウイチは、再び偶発的な出来事により、仲が深まって行きます。

僕はつい返事をしてしまったものの、「じゃっ」と言い放ち、振り返ってさっさと何処かへ消えてしまったユウイチという奴に呆れていた。妙な奴だし、大体あんな軽率な男が世間にいるのかとも思った。いままで会った事の無いタイプの男だし、まあこれもリゾート地の為せる業だと思いながら通りを進んだ。海に面した通りには変わらず高級ブランドショップが並び、その間にフードショップや、「ABCストア」というコンビニや、雑貨屋が混在する。散策の途中、「マーケットプレイス」という土産品や雑貨を売るショップが並ぶ一角に立ち寄った。とくに、何を買うわけでもなく、それでも充分に気分転換になり、ようやくハワイに居る実感も湧いてきて楽しく感じられてきた。

 そこを出てホテルに入る前に「ABCストア」に入り飲み物を買って帰ることにする、ミネラルウォーターと、スポーツドリンクを手に取った。日本のコンビニと同じで色々な物を売っている。雑誌や食べ物やら、中に納豆まである。更に、さすがに海沿いだ。日焼け用シートやゴザ、マリン用品も並ぶ。今はとりあえず飲み物だけと思い、レジで会計する。日本と違いレジで州税を加算される。この方が税金を幾ら払ったか解りやすいなと思いながら部屋へと戻った。

 部屋に戻って、再びラナイへと出てスポーツドリンクを飲みながらイベント資料に目を通した。今更慌ててもしょうがないのにな。それでも、念を押すように見てしまう。夕食は関係者から接待を受けるし、また緊張するなと思い、少しの間でもこの場所で気持ち良い風に吹かれながら、リラックスしていたいと考えていた。

 夕食へはズボンにYシャツで出掛けた。この方がやっぱり自分らしいし様になる。接待の夕食は、案の定気取っていて退屈だった。その帰り道は皆と別れて一人でホテルに向かって歩いていた。昼間、あれだけ暑く感じた空気も、夜は涼しくも感じられ、数時間前に見たマーケットプレイスは照明が煌々と輝きを増して人を照らし、違う場所にも見える。通りの交差点では、相変わらずコールガールの様な女達が、道行く男達に声を掛けている。夕方の出来事を思い出しながら、クスッと笑ってしまった。その先の路上では、何かトラブっている男女が居た。何かにつけて賑やかな街だなと見ていると、二人の女性が一人の男性にとりすがって何かを言っているようだが、男はあからさまに嫌がっている感じだ。男は女性から逃げるように方向を変えるが、それを叉、女性が追いかける。男が振り返って顔をこちらに向けた。

 「げっ!さっきの奴だ。」と、一瞬思ったと同時に、奴と視線が合ってしまった。男は堰を切った様に俺の方へ近づいて来た。

 「サトルー。探してたよお!」そう言いながら、耳の側に口を近付けて、小声で、「ちょっと頼まれてくれ。」と、言って肩を組んできた。

 「だから、用事があるって言っただろう。日本からダチが来てんだって。暫くは、ハワイの案内したりしなくちゃなんねえから、忙しいんだ。それじゃまたな!」

 そう言うと、体をくるりと振り返り、肩を組んだままさっさと歩き始めた。

 僕は目を丸くしながら「いつから友達になったんだよ」と言い返し、身体を離そうとするが、力強く組まれた腕は外れない。「まあ、良いじゃないか。さっきから知り合いだろう?」と言い大声で笑った。僕は何て厚かましい奴なんだろうとその時は思ったんだ。ユウイチは、「お礼に何か奢るからさ。お茶してかない?」と誘う。まるで、軟派のセリフじゃないか。僕は今日はなんてついていない日なのかと思った。食事は退屈だったし、こんな妙竹林な奴に巻き込まれちゃうし、僕は「行かない」と言いかけたが、そんな暇も与えず、「良いからこっちこっち」と、半ば強引に手を引かれて連れていかれる。誘拐されるんじゃないかとも思えたが、程近くのオープンカフェに入り、テーブルに無理矢理座らせられた。

 ユウイチは、その店の中に居た20人ほどの客と、知り合いらしく皆が話しかけてくる。店員達も、「はーい!ユウイチ」と、気軽に挨拶してくる。よっぽどの常連か?若しくは奴はホノルルの名物男か?と。思い始めた。「サトルー。コーヒーでいいか?」と、聞かれ、つい、「じゃあアイスコーヒーで。」と、応えてしまった。何か、いつの間にか奴のペースに乗らされている。このままではまずいなと、追いかけようとするが、ユウイチは、さっさと混雑している注文カウンターへと歩いて行ってしまった。歩きながらも、奴は周りにいる人達に話しかけられてくる。あまりにもの知り合いの多さに、その様子を見た僕は呆気に取られて立ちすくむだけだった。

 やがてユウイチが席に戻って来ると、追い掛ける様にして若い女性が飲み物を持ってきた。テーブルの上にサーブされたグラスをとると、片方を僕に渡し、「じゃ、この出逢いに乾杯!」と言ってグラスを当ててきた。本当に何もかもがマイペースで、身勝手な奴だ。僕が言葉を返そうとするとその間もなくしゃべり始めてしまった。

「いやぁ、本当に助かった。参ったよ‼さっきの女がしつこくてさ。一度寝たら、俺のテクニックで一ころでさあ。嵌まっちゃったらしくて会ってくれって連日スゲエ付きまとわれていい加減困っていたんだよ。」

僕はその話の内容に、ビックリして、危うく口からコーヒーを吹き溢しそうになった。僕は小声で

「そんな事、大声でしゃべることじゃ無いだろう」と言うと、

 「構うもんか。皆、俺の軟派師ぶり知ってるしな」そう言ってから急に顔を自分に近づけて来て、

「あそこに居る3人の店員居るだろう?あいつらもみんな俺の関係者だしな!」と、真顔で言いやがる。

僕はさらに呆れて奴の顔をまじまじと見た。なんて奴なんだこいつは。只の遊び人か?それにしても、女の子も女の子だ。こんな奴を相手にして、何とも思わないのか?と、心の中で思った。少なくとも今までの人生の中で一度も出会った事の無いタイプであることは確かだ。

 「改めて、俺はユウイチ。お前はサトルって言ってたよな。いつ日本から来たんだ?」と聞くので、

 「今朝来たばかり」と、答えた。

 「へえー、じゃあ来たばかりじゃん。誰と一緒に来てるんだ?」

 「一人で来た。実は仕事で来ているんだ。」

 「へえ。それでYシャツなんか着て格好つけてんだ。どんな仕事?」

 「普通の会社員!。三日後に開催されるコンベンションセンターのイベントで来てる。」

 「じゃあ、サラリーマンかあ。俺は、マリンスポーツのインストラクターやってんだ。いま、30歳で10年前に日本からホノルルへ来たんだ。」

ぼくが、聞いてもいないのに、色々喋りまくる。皮肉に、仕事なんてやって無いと思ったと言いかけた所へ後から店に入って来た女性の客の一人が、テーブルに近づいて来た。

 「ユウイチ、久しぶりね。元気?」と声をかける。

 「本当、久しぶり」と、明るく答えるユウイチに、彼女は、

 「今度、いつ逢えるの?」と、小声で甘えた。

 「ああ、近いうちにな。又、遣ろうな」とユウイチは言いながら、腰をくねらせた。彼女は、恥ずかしそうに顔を赤らめ、「もう!いやだ。」と言ってユウイチの背中を叩いてテーブルから離れた。

 僕は、少しうんざりしながら、「ユウイチさんは、モテるんですね。」と言うと、ユウイチは、「まあな」と答えてから、

 「女を抱いて、イカせてオトすのが、俺のライフワークみたいなもんさ。俺に抱かれれば、女は100%オチるぜ。皆、その後は俺にメロメロさ。」

僕は、その言葉でコーヒーをごくりと飲み込んだ。こいつは良く、そんな事を堂々と言い放てる。聞いてる僕の方が恥ずかしくなった。

更に、耳元に顔を近づけて、

 「大抵の女はさ、俺の指だけで、潮噴くんだぜ」と言うので、僕はストローをくわえたままコーヒーを鼻から吹き出してしまった。ナプキンで拭き終わった僕は、さめざめとユウイチの顔を見ながら、こんな変態助平な奴がこの世の中には居るんだと。呆れてしまった。しかし等の本人はけろっとして、屈託の無い笑顔に白い歯を見せた。彫りの深いハンサムな顔立ちからは不思議と何のいやらしさも感じさせない。これがこいつの魅力なのか?と、ユウイチという男に興味を持った。

 「ユウイチさんは、今まで何人の女性と付き合ったんですか?」

 「付き合ったっていう女は居ないさ。大体が、面倒くさいしな。女ってのはベッドの中で可愛くても、いざベッドから一歩出ると、的割り着くし、しつこいし、何かあれば『泣く』っていう最終兵器持ってるしな。だから、付き合わない主義なんだ。でも、寝た女は500人てとこかな?」っとさらっと言った。

500……。僕なんか、人生で3人しか知らないのに。そう思ったが、とてもそんな事言えない。言ったら、絶対馬鹿にされるに決まっている。

 ユウイチの顔や目を真っ直ぐ見ながら色んな話をした。話しは飽きないし、人は悪くないんだと、だんだん思えてきた。マリンスポーツは、一通り、サーフィン、ウィンドサーフィン、ディンギー、スクーバダイビング等、何でもこなす様だ。

 「スポーツ万能なんだね」と僕は言った。

 「サトルは何かやってたのか?。身体シャープだもんなあ」

 「僕は高校まで、陸上競技。その後、自転車のロードと、トライアスロンに挑戦したし、後、テニスをちょっとって言う感じかな?。」

 「そうだ。仕事で来たって言ってたよな。後、何日位ハワイに居るんだ?」

 「今日含めて8日間かな?」

 「仕事空く日とかあるの?」

 「うーん、3日位はフリータイムかなあ。」

そう言うとユウイチは、

 「今日はもう遅いけど、良かったら他の日にダウンタウンとか案内するよ。友達だしな!今日のお礼に。」と言って

 「明日、ここに電話くれる?日本語で大丈夫だからさ。」と、一枚の名刺を差し出した。そして「じゃあな。また。」そう言い残すと勝手に店を出ていってしまった。一人置き去りにされた僕は茫然と立ち竦んだ。本当になんて勝手な奴なんだ。旋風みたいにさんざん振り回して消えてしまった。僕は、仕方なく遅れて店を出ていく事にした。会計をしなくてはとカウンターに行くと、女性のスタッフが、「ユウイチのトモダチでしょう?だったら今日は私からの驕りよ」と言われた。僕は「ご馳走さま」と深く頭を下げてその店を出た。

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