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ほのぼの男子会

*出演者*


『黒い剣のノクターン』 (筆頭騎士3人組)

・腹黒補佐官

・イグナーツ

・ディナダン


『裁きの庭』

・フランソワ (金ヅルと化した弁護士)


『ガラス細工に秘めた夢』

・ミシェル (吸血鬼)



〜執筆のネタになるかと覗き見してたら捕まった〜


『暗い日曜日』

・セザール (雑誌の連載小説家)





「男同士の集まりでの話題って、女の子が相場だよね」

「お前な……」


 全員が出揃ったところでのディナダンの開口一番は、あまり健全とはいえない言だった。


「女、ですか」


 紅茶のカップを静かに置き、硬そうな髪質の青年がふと呟く。

 いかめしく細められた目つきは、いかなる動きをも見逃すまいとする鷹のごとく。テーブルに広げたメモ帳と分厚い書物とあいまって、学者の卵といった印象を受ける。


 物陰に隠れてこちらの動向をうかがっていたこの青年を、強引にこちらの世界へ招いたのがつい先ほど。ディナダンがしつこく詰め寄ると、「セザール」と重たい口を開けてくれたのだった。


「おっ。食いつきがいいねー、セザールくん。誰か意中の人はいるの?」


 にこやかに翡翠の瞳を和め、ディナダンは早速彼に振る。


 顎に手を当て、考え込むセザール。難しそうに太い息をつき、悩む。

 頭の中で整理をしたあと、彼はやっと口を開けた。


「……………。……女というのは総じて恐ろしく面倒で病みがちな存在だということが分かりました」

『……………』


 周りがドン引きする中、さらにセザールは続ける。


「痴情のもつれの末、元恋人に毒を仕込んだ知り合いがいまして」

「……………うん! 君には女難の相があるみたいだから参考にならないね!」


 これはやばい。ディナダンは無理やり打ち切った。


「はい次! 次!」


 なおも答えたそうに食い下がるセザールを押しとどめ、ディナダンは(つの)る。


「意中の相手なぁ。昔に別れたっきりだしなー」


 それまで新品のタバコの箱を吸いたそうに弄っていた男が、ひとりごちた。懐かしむように遠い目をし、外を見やる。


 壁全面がガラス張りのこの部屋は、庭園を挟んだ向こう側の建物を観察できるのだ。その建物も同じ構造をしていて、ガラスで囲まれているから内部の様子がよく分かる。とはいえ、今は白いテーブルに椅子が数脚。人はいない。


「フランさんにもいたの? 知りたい知りたい!」

「おっさんの色恋沙汰なんか気持ち悪いだろ」


 自分から言ったのに、食いつかれるとはぐらかすタイプらしい。焦らしか。焦らしが好きなのかこの男は。


「じゃあさ、今はどうなの?」


 こいつは手強そうだと早々に見切ったか、ディナダンは追及を止め、別の質問をした。フロレンスも乗りかかる。


「そういえば。フランソワ殿は若い女の子を連れていましたよね。うちの上司と別の部屋に行かれましたが」

「あいつは、そんなんじゃねぇよ」

「じゃあ何?」


 ディナダンが興味深そうに唇の端をつり上げる。


 そこへすかさず、艶の強い金髪を波打たせた若者が割り入った。


「餌か」


 ぶほっ!!


 フランソワだけでなく他の一同も噴き出した。


「えさ、えさ……エサぁ!!? おいこらテメ、俺をなんだと思ってんだ!」

「弁護士の犯罪もままありますし。ありえなくは、」

「妄想がたくましすぎんぞ執筆屋ぁ!!」


 フランソワはテーブルを殴りつけ、セザールを黙らせる。


「なんだ。違うのか。若い人間の女の血は美味いというに」

「ミシェル殿。俺、幻聴が聞こえたみてーなんだが」

「私はいるぞ。これがまた純真でな。血を吸おうとする時にいつも目を閉じて恥ずかしがって、」

「あの! もういいので!!」


 フロレンスが耳を塞いで半狂乱に陥る。


「吸血病という疾患が世の中にはあるそうですね」

「ほう。私と似たような連中がいるのか。だが私の場合はそれが糧だ。病ではない」

「違うのですか?」

「血を吸う種族という意味では同じだろう」


 吸血鬼…………だとすると、この人離れした絶世の美貌も頷ける。人ならざる者は麗しいというのが、小説界での一般的な設定だからだ。

 破天荒なミシェルの言動に、セザールだけが唯一ついていけていた。


「吸血鬼ですか……。はじめてお目にかかりました。普段、どんな生活をしているか教えていただけませんか?」

「代わりに血をくれたらな。喉が渇いてかなわん」

「それくらいでしたら喜んで」


 いいのか。

 トマトジュース飲めよ。


 そう突っ込みたい周囲は間違いなのか。


 ミシェル殿をセザール殿が食い止めているうちに…………フロレンスは気を取り直してフランソワの話題を戻す。


「それで、どうなんですか。フランソワ殿。先ほどの女の子とは」

「…………餌じゃねえだろうな?」

「んなわけないだろ!!」

「恋人? 愛人?」

「あほか!!」


 若い衆たちの飛躍していく問いを、まとめて罵倒する。一喝された3人の騎士は唖然とした。フランソワはバツが悪げにぶっきらぼうな言葉を吐く。


「俺の後輩だよ」

「へぇ。ってことは弁護士? うっわあ、若いのに優良株だね」

「そーなんだよ」


 フランソワが嬉しそうににやつく。


「仕事はできるし実力も高いしさあ。自慢なんだよ、あいつ。かわいーしよお。目に入れても痛くないっつーか」


 のろけた……。どう見ても三十路を越えた男が、いたいけな少女に対してのろけた……。


 それは、年齢よりも幼く見える修道女を甘やかし気味の3人にも言えることだが。どうやら棚に上げているようだ。


「あんたらだって、可愛らしい女の子いたじゃねーか。ほら、修道服着てた」

「セラフィナのことか?」


 フランソワは頷いた。


「『天使(セラフィナ)』か。確かに天使みたいな子だったよなあ。お嬢と並べたいぜ」

「貴方のその後輩基準、やめていただけませんか?」

「なんでだよ」


 フロレンスは笑顔を貼りつけたまま言い放った。


「うちの子が一番なので」


 室内の空気が凍りついた。ミシェルとセザールの会話も、中断されてしまっている。


「フロー。キメ顔で言うセリフじゃない」

「モンスターペアレントもこういう道を辿って育つんだねぇ」


 気まずい沈黙が流れる中、突如として向こう側の部屋に人影が入ってきた。全部で5人。華奢で小柄な体格が目立つ。


「おっ。来たみたいだな」


 呆気にとられる男たちをよそにフランソワが楽しげな声を上げる。


 太陽に照らされたガラス張りの中。白いテーブルを中心に腰かけていくのは若い娘たちだった。みんな、あの場所に入るまでに交流していたのか、仲の良さそうな雰囲気を漂わせている。


「あれがうちの後輩な。あっちの綺麗な黒髪さんがセラちゃんだろ? あの銀髪の嬢ちゃんと紅い別嬪さんは知らねぇけど」

「もう1人、きゃぴきゃぴした奴がいるな」

「銀髪はアリストだ」

「では紅い方ともう1人は……? セザール殿のお知り合いでは?」

「存じません」


 セザールが眉をしかめる。やはり女には苦手意識があるらしい。誰が彼にここまでのトラウマを植えつけたのか。


「エメリー、みんなと仲良くできるといいんだけどな」


 フランソワが親まがいの心情を呟けば。


「私は、むしろアリストが特定の誰かと仲良くなるのは許せないな」


 ミシェルがそれをぶっ潰す。


『………………』


 独占欲の塊の言うことは聞き流そう……。暗黙の合意が下された。


「………綺麗ですね」


 まぶしげに目を細めるセザール。


 あちらはお花畑だ。あははうふふという笑い声が聞こえてきそう。

 紅茶を飲んで。クッキーを頬張って。――――鮮やかな紅い髪を流した美女だけは、彼女らと距離をとって観察しているが。


 不意に彼女たちが男たちのいる空間を振り返った。驚いた顔つきは、やがてほぐされ、各自が見知っている人物に手を振る。


 3人の騎士たちも、セラフィナが一所懸命に腕を振ってきたので応えてやった。


「かっわいいなぁ。おちびちゃん。周りの子たちも将来が楽しみなのがいるし。あ、あの紅い髪の女性、そそられるなぁ」

「ディナダン……」


 枯れ腐った男どもの部屋に潤いが注がれてゆく。


「アリストが見るのは私だけでいい」

「おいおいミシェルさんよ。あんた、ヤンデレが過ぎると嫌われるぞ……」


 銀髪の少女に執心めいた眼差しを寄越すミシェル。ヤンデレと聞き、セザールがまたもやミシェルに近づいた。本気で執筆のネタにしたいらしい。


「ミシェル氏はベネデッタのように、あの子に毒を盛りそうですね。鈴蘭ですか?」


 さりげなく恐ろしい。


「なぜ私が道具に頼るのだ。私の力を持ってすれば飼い殺しなど容易いし、そもそも毎日死ぬ寸前まで吸ってやればこちらのものだ。それにアリストは私がいなければ生きていけない。私を離すことなどあり得んし、むしろ私を引き止めるために従うだろう」


 誰かこいつを黙らせろ。


「弁護士として看過しちゃいけねぇコト聞いたんだが」


 監禁致傷罪。いやこれはもはや殺人未遂か。フランソワは頭に叩き込んだ刑事法の条文を呼び覚ます。


「それ以前に人としてやっちゃいけないよね、フロレンス」

「吸血鬼だからいいんじゃないか?」

「許容しちゃだめフロレンス!!」


 一気に混乱に陥る室内。だが、その張本人には自覚なし。

 言い合う3人の騎士たちにミシェルが興味を向けた。


「貴公らの娘は修道女か。ふむ。芯からの清らかさを感じる。混じり気がないのは大変喜ばしい。――――味わってみたい」

『!!?』


 3人は突如構えた。イグナーツはミシェルの視界からセラフィナを隠すように回り込み、ディナダンは椅子から腰を浮かせ、フロレンスは剣を引き抜く。


「心配せんでも、死なん程度に吸う」

「そういう問題じゃねーだろ!!」

「なんで血を飲むことが決定事項なのさ! アリストちゃんは!」

「たまには毛色の違う娘というのも良かろう」

「!? なんなのこの変態!」


 さすがに寒気がしてディナダンは怒鳴った。フロレンスがミシェルの整った鼻先に剣を突きつける。


「普通、吸血鬼というものは神に属するモノに抗えないといいますが」

「それは宗教の話だろう。私には関係がない」


 無防備な笑顔。

 あの表情がどんな風に歪むか、どんな反応を返すのか。吐き出された熱い息までも飲み上げて、煌めく瞳を震わせて。


 ミシェルの喉がこくりと鳴る。


「実に興味深い」

「ちょっと想像しないでよ! おちびちゃんをそういう風にいじめるのは俺だって決めてんだから!」

「ダ――――ンッ!」


 頭のネジを数本、小説に捧げた青年のみが通常運転。どんよりしていた彼の瞳に、恍惚とした光が灯る。


「修道女と吸血鬼……いい響きですね。一本書けそうです」

「ほう。では貴公の望みに応えてやろう」

「お願いします」

「貴方の都合でうちの上司を売らないでいただけますかねえ!?」


 もはや打つ手は絶たれた。目配せしあった3人組は、吸血鬼が動き出すなり一斉に剣を()いだ。一息で距離を詰めたイグナーツの剣先が前髪をかすめ、ミシェルはひらりと身を翻す。


「ほう。私と敵対するか。いい度胸だ。何も持たぬ人間が」


 ミシェルがすっと手を差し出し、淡い紫の渦を集中させる。周りに立ち込める、重々しい妖気。魔術というものを初めて目にした3人は立ちすくみ、セザールが感嘆の息を漏らす。


 蚊帳の外へ押し出されたフランソワは、テーブルで手つかずのクッキーを一枚摘まみ、ぽりぽり砕く。若いって羨ましいねぇ、とぼやきながら。

 むさ苦しい男どもの激闘から逃避しようと自然に走る先は、やはり瑞々しいお花畑に限る。


 一方、そんなお花畑の方はというと。みんなエメリーを見て固まっていた。一瞬は首を傾げたフランソワだったが、すぐにピンと来てやれやれと肩をすくめた。


「あーお嬢。また変なコトのたまったんだな……」


 乱闘は、いつまでも続く……。



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