ただ愛しくて (啓明レンジャー黄 + ピンク ※ R12?)
カッとなって書いた。反省はしない←
「セリニ」
何? 振り向く前に引き寄せられた。ゆったりした袖、そこを通る細身ながらも男らしさを備えた腕に閉じ込められ、身動きを失う。
セリニの背中で交差する、二対のぬくもり。重ね着した服越しでも隠しきれない、鍛えられた筋骨の造り。安心感に包まれ、いつまでも身を委ねたい気持ちに落ちる。
預けていた彼の胸の、かすかに浮き沈みする息遣い。凪いでいた鼓動が、重く急き始めたのは思い違いだろうか。
実はセリニのものかもしれない。さっきから身体が熱い。気恥ずかしいのとなんとなく嬉しいのとで、頬が火照っている。
大丈夫だろうか。隠せているだろうか。黒のローブとその上の白装束が、ごまかしてくれていることを願う。
「ローエン?」
彼の肩に額が当たっている。そろそろと顔を上げると、こちらを見下ろす瞳とかち合った。鋭い、狼を思わせる灰青。上司相手だと冷ややかになる双眸は、今はとても柔らかい。そこに映るのは、彼を捉えているのが自分だと思うと、独占欲に似た感情が満たされる。
「好き」
いきなり湧き上がった思いの丈をぶつければ、彼の指先がセリニの耳元を掠めた。頬の輪郭を伝い、顎を辿り、クッとさらに上向かせる。
「どうし……」
囁きもそこそこに唇を塞がれた。まだまだあどけない、重ねるだけの戯れ。それでもセリニは慣れなくて、緊張してしまう。
『女の皮を被ったクマ』だったか。そう言わしめた修道騎士らしからぬ体たらくだ。
彼だけだ。彼女をこうまで崩す侵略者は。上っ面を剥ぎ、ただの娘へと返らせる狩人は。
「あ。ローエ……」
離れる彼。途端ひやりと乾いた唇が寂しくて、たまらず栗色の髪に指を這わす。ひとつひとつの指に艶やかな筋を絡ませ、そうっと握る。
愛おしい。なにもかも。教えてほしかった。この焦りに近い渇望も熱も、彼女だけじゃないと。
「こら。乱れるだろ」
苦笑して彼は髪にすがる指をほどいた。手の甲を彼の掌が滑ったと思うと、そのまましっかり握り締められた。
指と指が互いに絡み、合わさる。自由な方の彼の右腕はセリニの腰に回り、まるでダンスの練習みたい。けれどステップを踏むつもりはないし、そんな余裕もない。
背伸びをして彼に乞う。察しの良い彼は応えた。再び身を屈め、口づけを重ねる。
それ以上は越えない。セリニを気遣ってのことだろう。
代わりに何度も触れ合いを繰り返す。退いては寄せて。息をする間も許さず。彼女の唇を奪う。呼吸さえも。
「! ろ……ん、っ」
いつしか激しく求めていた。甘い苦しみが胸を締めつける。詰まる喉。息を整えようと首を反らしても彼は逃がさない。角度をずらして、追い詰めて。――――獲物を屠らんばかりに酔う狼さながら。獰猛な、というには生ぬるい。もっと妖しく、貪欲で、執念も露わな。
暴き尽くされたセリニはくったりと、溶けるように彼の胸へ沈む。頭上で青年が見越していたかのごとく、頬をつり上げたことは気づきもしないで。
「弱いな。剣を持つ時はなかなか折れないくせに」
「あれは…………」
からかわれるのは嫌いだ。口答えしようと頭を跳ね起こしたら、すかさず迎え撃たれた。吐息が混じる。口の中で繋がり、呑み込まれる。
だめ。もう。何も考えられない。頭がのぼせる。
せめて解放される隙を突いて息を吸おうと喘いでも、口づけのみが迫る。
抵抗なんかできるわけがない。セリニは力を抜いた。
「セリニ………」
やっと諦める気になったらしいことを見てとって、ローエングリンが弱々しい彼女の身体を支える。壁に寄りかかり、抱きすくめ、彼女の表情を覗き込む。
短めのまつ毛の下。揺らめく眼差しの奥。濡れた光が血の気を映す。今にも暴れ出しそうなほどの。
狙いはセリニに定められた。狂気じみたうちにも優しさをたたえる瞳がセリニを包む。
こうやって時折きつく抱き締めては荒々しい口づけを何度もぶつけ、最後に隠しきれない欲望に潤んだ眼差しでじっとこちらを見入る彼。そこから先は、いつもとどめる。彼女の気持ちが追いつけるまで。
無理をさせているのは重々承知。飢えを耐え忍んだ色香に申し訳なく思う。
彼が頬に触れた。首をもたげるセリニ。
このまま侵し尽くされたら。すべて奪いあげて欲しい。
支配されたい――――
「あ………」
瞬間、不安が襲いかかる。
意識が危うくなるたび、背筋が凍りつくのだ。怖いと。自分が自分でなくなってしまいそうで。受け入れたいのに、寸前でためらう。
「セリニ?」
無意識に固まってしまったらしい。ローエングリンが気遣わしげに彼女の髪を梳く。
「ごめんね……」
「なにが」
「………………別に」
言葉にするのははばかられてお茶を濁す。
首を横に振るセリニにローエングリンは優しく告げた。
「時間はまだある。まったりすればいい」
そうは言うけれど。
あたしは真剣に考えてるの。セリニはきっと彼を睨みつけた。
「そんなので、おばあちゃんにまで行っちゃったらどうするの」
「いいんじゃないか? ある意味で神の教えに従っている」
「そうだけど」
なおも口ごもるセリニの身体をくるりと回し、壁に押しつける。彼はセリニの顔の両側に手をつき、ぐっと距離を狭めた。視界のすべてが彼で染まる。
「俺のこと、どう思う?」
もはや目を背けることすら叶わない。
弟みたいだと思っていた年下に、こうも振り回されるなんて情けない。だけど反抗もできないのだ。
だんまりを決め込んでやりたかったが、彼のまとう自信に促されてしまう。
「好きよ。大好き」
しぶしぶ正直な気持ちを答えたら、本当に嬉しそうに彼が笑った。子供っぽくて、可愛い。
「それで充分じゃないか」
でも再び彼女を抱き寄せた力は大人の男性のそれで。セリニは思わずすがってしまう。こんなの、少し前までの自分なら想像もしなかった。
彼の細長い指先がセリニの唇をさらう。まだ物足りないようだ。
セリニは大人しくまぶたを閉じる。彼の息遣いを間近で感じた。
自分だけのものなのだ。この腕の温かさも優しさも愛情も。何もかも。すべてがあたしのもの。セリニに囚われている。
まるで2人だけの世界。甘美な幸せに酔いしれ、セリニは彼に唇をゆだねた。




