とある女子に起こった悲劇
「お母さんコンディショナーじゃなくてシャンプーだって言ったじゃん!」
前も同じことしたのに忘れたのってあれ、お母さんがいない。もしかして夢だったのかな。
頭がようやく回りはじめところで大変なことに気付いてしまった。怒らせてはいけないと評判の中本先生の授業中だったのにうとうとしてたんだった。変な寝言まで言っちゃってどうすればいいのと頭を抱えて踞ったところで、はたと気づいた。なぜ床が草に、というかさっきまで座っていた椅子はどこに行ったの。わけもわからず上を見上げると見慣れた白い天井ではなく、どこまでも広がる青い空。
わー綺麗だな~、あっあの雲リンゴみたいで美味しそう。なんて現実逃避するしかない。先生が怒って放り出しでもしたのだろうか。そろそろドッキリでしたってクラスメート達がやって来るはずだと回りを見てみると木、木、木、木しか存在しない。いくら大都会ではないとはいえ私の学校の近くには森というほど木が密集したところなんてない。ドッキリでそこまでするわけないか、というか私はそういうことをされるタイプではないし。
では誰かが私を誘拐したのだろうか。私を誘拐するくらいなら隣のクラスの藤森姉妹を誘拐したほうが家がお金持ちだし、美人だから絶対いいはず。そうでなくてもなぜ私。私をこんなところにおいてって餓死させたりしてもなんの得もないよ。
どうすればいいのか、絶望して下のほうに目を向けると隣に同じくらいの年齢の可愛い女の子がすやすやと何も知らないのか安心して寝ていた。藤森姉妹とはまた違うベクトルの可愛いこの子なら確かに誘拐されても可笑しくないなと納得して頷く。起こすべきか迷ったけど気持ち良さそうに寝ていたので結局起こすのはやめて何か発見がないか少し散策することにした。
はぁ、十分以上歩き回ったけど何の発見もなかった。強いて言うならこれくらい歩き回った程度でここから出られるような大きさの森ではなかったということだろうか。そろそろあの女の子は目が覚めだろうか、なんて話しかけたらいいんだろう。こんな状況だし私のこと信じてくれない可能性のほうが高いな。行きにそこらへんにあった石を拾って自分の歩いた後に落としていったので、それを目印にいい感じの一言目を考えながら戻りはじめた。
アナタとワタシ誘拐された同士、ナカマ!……なんか違う。YOUカワイイね、ワッツユアネーム?……絶対違う。
ない頭を振り絞りながら石を追っていくと話し声がきこえてきたので誰かいるのかも知れない。
「だ……なたは……んです」
「そん……と言わ……用できな……」
本当は走って向かいたいところだが文化系で休日は半ひきこもりな50メートル走りきっただけでも息があがってしまう私はここで走ってしまうとその後の体力がなくなるので早歩きでその場に向かう。近づくにつれて少しずつ言ってることがわかるようになってきた。聞き取れるということは日本語で話してるということなのでここでも日本語が通用するみたいで安心した。
木の隙間から話している二人の様子を伺おうとしてみる。スパイみたいで今の私は少し格好いいかもしれない。話してた人はさっきまで寝ていた女の子と見たことがない格好をしたイケメンだった。二人とも美形だからお似合いですな。って、そうじゃなくていやそうなんだけど、二人にどうやって話しかければいいんだろう。急に入っていったら明らかに怪しいやつだろう。さっきまで私も実はそこで寝てたんですなんて言って近づいていったら、イケメンがつけてる剣でぐさりとかありえそう。
どうしようどうすれば、ってあたふたしているうちに女の子が何故か倒れてしまった。イケメンは片手で女の子が床に崩れるのを防いだあと、全女子憧れのお姫様抱っこで持ち上げた。美形な二人でやると絵になるな、じゃなくてさらに話しかけずらくなっちゃったよ。どうすればいいんだよ。
イケメンは周囲を確認してから懐から不思議な形の笛を取り出すとそれを吹いた。ピューっと綺麗な音が響き渡ったけど何がしたいのか理解できない。ファンタジーな世界だと何かがやってきたりするけどまさかな~なんて思いながら待機していると、空から翼がある白馬がイケメンの前に降りてきた。その馬にイケメンは女の子を乗せた後に馬の頭を撫でて自分も乗った。白馬の王子様という言葉が似合う人が本当にいるんだなと感動してみていると、どこかに飛んで行ってしまった。
物語のようなシーンの数々にしばらく動けなかった。ほぉと酔しれていたが頭がようやく冷静になるとあることに気づいてしまった。
「えっ、もしかして置いてかれた!?」
あまりの衝撃に大きな声をあげてしまった。返ってきたのはアホ~、アホ~という鳥の鳴き声だけだった。