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最強豪腕ロボ ゴウワンダー

作者: R.sarada

 ――最強豪腕ロボ、ゴウワンダー。


 身長五十メートル、重さ二千トン。ロボット工学の第一人者である和三盆博士によって開発された、世界初の巨大人型有人兵器。

 俗にスーパーロボットと呼ばれるその機体は、宇宙よりやってくる侵略者・ワルイーゾ星人に対抗するための唯一の手段だ。

 破滅をもたらす侵略者たちを、ゴウワンダーは何度も何度も撃退した。幾つもの必殺技を有し、全てを力で粉砕するゴウワンダーの前では、侵略者たちも形無しだ。


 だが、そのゴウワンダーが今、ワルイーゾ星人との戦いで危機に陥っていた。



     *****



最強豪腕ロボ ゴウワンダー

第十二話 『迫り来る稼働限界! 初めての危機』



     *****



 これまでの戦いにおいて、ゴウワンダーは常に優位だった。


 直撃すれば山をも吹き飛ばす『ヴォルカニック・フィスト』、振り下ろせば海をも割れる『チョッピング・ネプチューン』、そして全てを破壊する『和三盆インフェルノ』。

 他にも数々の必殺技を有し、そのどれもがワルイーゾ星人を一撃で屠るだけの威力を持つゴウワンダー。不利になることがそもそもなかったがゆえに、危機に陥ったこともない。


 だが、住宅街のど真ん中で、照りつける太陽にさらされながら戦うゴウワンダーは、疑いようのない危機に陥っていた。


「マズイぞ博士っ、ついに二〇パーセントを切った! このままじゃ……」


『わかっとるよ龍ヶ峰(りゅうがみね)くん! じゃが今は堪えるのじゃ。無理に反撃に出たところで、ヤツの動きの速さでは躱されるのがオチじゃ』


 繰り出される拳の連打。躱し、そらし、受け止め、弾き、防御に徹して身を守る。

 一方的に勝利してきたゴウワンダーにはありえない、徹底的な防御姿勢。

 強力な必殺技を繰り出すこともせず、生き延びることに全力を注いでいた。


「くそぉっ。こうなったら一か八かで――」


『待つんじゃ! それを外したらもう戦う手立てはないんじゃぞっ』


「ぐっ、じゃあどうしろってんだ!」


 ゴウワンダーの内部、操縦室(コックピット)操縦者(パイロット)の悲痛な叫びが反響する。

 引き締まった上半身にびっしょりと汗をかく彼の名前は龍ヶ峰集也。(よわい)十七の高校二年生にして、ゴウワンダー唯一の適格者。悪を許さず正義に燃える心を持つ男で、少々短気なところが玉にきず。


『じゃから落ち着くのじゃ。今は守りを貫き、反撃の時を待て。幸いヤツの攻撃はゴウワンダーのオリハルコン装甲に傷をつけられてはおらん。堪え抜けばきっと勝機はある!』


 そんな直情的な集也の宥め役(オペレーター)を努めるのは、ゴウワンダーの開発者である和三盆博士。和三盆地球防衛システム研究所のトップに立つ彼は、通信によるゴウワンダーのサポートに回っていた。


 幾度もワルイーゾ星人を撃退してきた二人は、世代を超えた親友だ。ちょっと想いが絡み合って、二人でベッドにルパンダイブしたこともあるくらいには互いを信頼し合っていた。

 ちなみに集也がその翌日(つづ)った日記には『夜の博士は激しかった』と記してある。


「うわぁ、もう残り十五パーセントかよ!」


『堪えろ、堪えるんじゃぁ!』


 そんな歴戦の親友同士であっても、目の前の危機には具体的な対応策を見いだせないようであった。


 操縦室の正面。ゴウワンダーの『目』を介した景色が、人間の認識範囲を超えた映像表現を可能とする『ナチュラルリミット・ハイビジョンテレビ』に映し出される。研究所の持つ最新技術の一端が、侵略者の姿を克明に捉えていた。


 漆黒の核を中心にした、毒々しい紫の体躯はゴウワンダーに迫るほど大きく、二本の脚で動き回る姿は気色が悪いの一言に尽きた。そんなワルイーゾ星人第十九使徒・ゾディアックゼファーが、体から生える四本の腕を使って拳の弾幕を築いている。

 絶え間ないパンチと目に刺さる外見による波状攻撃。過去に七体もの侵略者を同時に相手取って優位に立ち続けたゴウワンダーを、ゾディアックゼファーは素早い身のこなしで翻弄する。


 それでも敵のパンチは直撃しなければ大したダメージにならず、強烈な外見も我慢すれば堪えられないこともない気がすると考えれば、残る問題は素早さだけ。

 過去の使徒のような破壊に力を尽くすのではなく、言ってしまえば素早さだけが取り柄の侵略者。数多の必殺技を持つゴウワンダーが、負ける要素はどこにもない。


 しかしそれは、本領を発揮できればの話。

 そして今、そのゴウワンダーはやむにやまれぬ事情により、本領を発揮できない状況にある。なぜなら、


「ちくしょう! 燃料が、燃料がもっとあれば!」


『許してくれ龍ヶ峰くん! ゴウワンダーが固定資産に認定されて、税金が掛かってしもうたんじゃっ。そのせいで燃料を作るための資金が足りんかったんじゃぁ!』


 ――和三盆地球防衛システム研究所が、資金不足であったからだ。


 最新鋭の技術を注ぎ込んで開発されたゴウワンダー。完成に至るまでの研究費、そして完成してからの維持費にも、莫大なお金が掛かっている。

 特にゴウワンダーを動かす燃料は特別製で、地球を全く汚さないクリーンなエネルギー『ワサンボーン』を使用している。強大な力を有するゴウワンダーには、膨大なエネルギー量を内包する専用の燃料が必要だったからだ。


 これまでは研究所の成果を発表し得たお金と、侵略者を撃退することで国からもらう補助金で、何とか凌ぎ戦い続けてきた。だが、無情にもゴウワンダーが固定資産税の対象になったことで、その全てを国に持って行かれてしまった。

 ちょうどそのときにゾディアックゼファーが攻めてきたこともあって、燃料製作の資金を捻出できないまま、研究所に残っていた少ない燃料だけで戦うほかなかったのだ。


 納税は国民の義務。ゆえにこれは、『こんだけ国に貢献してるんだし、多少は見逃してもらえるんじゃね?』という甘えが招いた危機だった。


「やべぇ、もう十パーセントしかねぇ! これじゃあ必殺技も一発しか撃てねぇぞ!」


『ぐぐぐっ、落ち着け。落ち着くんじゃぁ。待っていれば必ず勝機は来る……っ!』


 ゴウワンダーの持ち味は、強力な必殺技による蹂躙。大量のエネルギーを消費して放つ必殺技の数々に、侵略者たちは為す術もなく倒されるしかない。

 だからこそ、素早いだけのゾディアックゼファー相手に、持ち味を生かせないゴウワンダーは守勢に回っていた。

 もし必殺技を外せば燃料を使い果たして動けなくなる。そうなってしまえばワルイーゾ星人への対抗手段を失い、地球は侵略されてしまう。それだけは絶対に許されない。


「ちくしょう、ちくしょう!」


 悪態をつきながら、集也は額の汗を腕で拭う。

 ちなみにこの大量の汗は操縦室の温度調整装置(クーラー)を切ったことによるもので、少しでも燃料消費を抑えたいがための苦肉の策。結果、操縦室はサウナのような状況だ。

 精密機械は熱に弱いが、その点ゴウワンダーの耐熱性はばっちりだった。


 国家予算級の資金が注ぎ込まれたゴウワンダーの中で、公園で汲んだ水道水を飲む集也。茹だるような感覚を全身で味わいながら、反撃の手段を探して頭を必死に回し続ける。

 しかしゾディアックゼファーの攻撃は激しく、いつまで経っても勝機は見えてこない。さらに猛烈な暑さが集也の思考力を奪い、動きの精彩を欠いたゴウワンダーを四つの拳が捉え始めていた。


 燃料が切れて動かなくなるのが先か、集也の頭が茹で上がるのが先か。どちらにしても、ゴウワンダーの稼働限界はすぐそこまで迫っていた。


「うううあああああ」


 熱で思考の飛んだ集也は、繰り出される拳に反射神経だけで反応していた。


 防御の間に合わなかった拳がゴウワンダーを殴りつける度、彼の精神をガリガリとすり減らしていく。

 もはや集也は何をしているのかもわからなくなり、現実がまどろみに溶け出した。

 この睡魔に全てを投げ出して身を任せれば、どれだけ楽だろうか。


 ――別に良いじゃないか、投げ出したって。


 諦めを望む自分の声が、甘い誘惑となって集也の頭を反響する。

 疲れたから休むだけだ、悪いことなんて何もない。

 終わりにしたい。終わりにしよう。彼は心からそう思った。


 眼前に敵の拳が迫る。それでも集也は動かない。ゴウワンダーは動けない。だから、


『――しっかりしろ龍ヶ峰くん! 君が倒れたら誰が地球の平和を守るんじゃぁ!』


「っ……!」


 ――ゴウワンダーに腕を振らせたのは、ただの偶然だった。

 暗闇に囚われつつあった集也は親友の声で目を覚ます。そして彼が見たのは、空中にいる敵の姿。


 ゾディアックゼファーは、ワルイーゾ星人によって生み出された対ゴウワンダー用の使徒だ。攻撃よりも素早さに優れる性能は、強力な必殺技を持つゴウワンダーから生き残る確率を上げるため。

 そして最後まで生き残り、燃料切れで動かなくさせてから悠々と地球を侵略する。常に破滅をもたらしてきた過去の使徒たちとは、そもそもの戦略からして違っていた。


 攻撃より素早さを――一撃の威力より生存を重視した使徒、それがゾディアックゼファー。

 ゆえに博士に呼びかけられた集也が偶然振らせた腕に反応し、攻撃を放棄して大きく飛び退いたのは、死に怯える使徒の生存本能による回避行動。

 集也も博士も、もちろんそんな事情など知るよしもない。だからこそ、これは――


『今だっ、龍ヶ峰くん!』


「博士! うぉおおおおおおおおおお!」


 ――二人の友情が生んだ奇跡だった。


 生存を重視するゾディアックゼファーでも、空中にあっては回避行動を取れない。

 対してこの勝機を逃せば後がないゴウワンダー。機体を操縦する集也が選んだのは、有する必殺技の中でも特別な技。

 残る燃料をあらかた注ぎ込んで放つ、ゴウワンダー最強の一撃。


「行っけぇぇえええええええええっ! 和三盆インフェルノォォ――――ッ!」


 突き出された右腕からエネルギーが迸る。全てを破壊する力が、極太の光線となって侵略者を呑み込んだ。

 目を焼く光と、地面を揺るがす轟音。

 それらが全て収まって、静寂が住宅街を包んだとき、残っていたのは漆黒の塊だけ。ゾディアックゼファーの核だった物が、ひび割れて地面に転がっていた。

 やがてひびの数が増えていき、ぱりんと致命的な音が聞こえた直後。

 爆発。

 破壊の渦が地面を丸く削り取り、熱風が街を蹂躙する。


 そんな中でゴウワンダーは、傷一つ負うことなく立ち続けていた。


『よくやってくれた、龍ヶ峰くん……ありがとう』


「…………」


 静かな声が操縦室に流れ込む。

 体力を使い果たした集也は答えず、寝息を立てて眠っていた。

 そんな彼の姿を通信映像で見守る博士は、ゴウワンダーが残り僅かな燃料を消費し、温度調整装置が起動したのを確認。

 モニタリングされた彼の体調が崩れ初めていたのを察知し、生命維持機能が働いたのだ。

 大きく頷いた博士は、最愛の親友をその手で抱きしめるため、動き出した。


 ――こうして、地球の平和は守られたのだった。



     *****



 大変だ! ワルイーゾ星人との戦いでたくさんの家が壊れたせいで、和三盆地球防衛システム研究所が訴えられちまった!

 もしこの裁判に負けたら、せっかくの補助金を持って行かれてさらに貧乏になっちまう!

 ゴウワンダーも証拠品として差し押さえられ、このままじゃ地球の平和を守れない。

 最悪のタイミングで攻めてくるワルイーゾ星人。そこで俺は、起死回生の一手を思いつく!


 次回。

最強豪腕ロボ ゴウワンダー

最終話 『紅く染める裁判! ゴウワンダーよ永遠に』

 また見てくれよな!



続きません。

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― 新着の感想 ―
[一言] ロボットものは、小説ではやりにくいという話をよく耳にします。 しかし、この小説は設定部分をギャグにすることで、細かなところを読者にあまり考えさせず、他のジャンルの小説のように書いているところ…
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