本当にあったと思う怖い話
あれは確か小学校五年生の夏休み……いえ、四年生だったかもしれません。
なにぶん十数年も昔のことなので、細かい記憶があいまいなのです。
日が暮れるのが遅かったので、夏だったのは間違いないはずです。
その日私は、友達と三人で遊んでいました。三人だったと思います。
色黒なのがM君、小柄なのがN君。当時特に仲の良かった二人です。
昼前に小学校の校庭に集合し、自転車で町内を走り回り、スーパーの前のガチャガチャを回して喜んだ後、最終的にまた校庭に落ち着きました。
校庭には端にいくつかの遊具があり、隅の方には大きな記念碑があります。
周囲に自分たち以外の姿は見えません。印象に残っていないだけかもしれませんが……。
そして空が薄暗くなり始め、そろそろ帰ろうかという頃。
突然M君が四つん這いになって走り始めました。
友人の唐突な奇行に、私とN君は呆気にとられるばかりです。
いきなりなにやってんだこいつ、と思いつつも、とりあえずM君を追いかけました。
M君が向かった先は記念碑の辺りで、その土台に駆け上っています。
追いついた私達が近づくと、M君は四つん這いのまま歯をむき出しにしてうなります。
まるで野生の動物が人間を威嚇するようでした。
このとき私は彼がふざけているだけだろうと思い、N君もそう考えていたようです。
ギャグにしても意味不明すぎて面白くないぞ、というようなことを口にした覚えがあります。
しかしM君は私達の言葉が聞こえていないかのように、敵意のこもった目を向けてくるのみです。
ここまできて、私はある単語を思い浮かべました。
――これもしかして、狐憑きってヤツじゃないのか?
いやまさか、とは思いましたが、演技であるならばもう続ける意味はありません。
N君の顔にも不安の色が浮かびます。
――これヤバくないか?
――どうする?
――どうすればいい?
私もN君も普通の小学生なので、狐憑きの正しい対処法なんて知りません。大人になった今でも戸惑う以外出来ないでしょう。
これ以上近づくと逃げられそうだったので、効果が無いとは思いつつもその場から声をかけるしかありませんでした。
やがて一番星が見え始め――。
ふっ、と。
糸が切れるように、醜く歪んでいたM君の顔がゆるみました。
そして何事もなかったかのように立ち上がり、平然と私達になにをしているのかと問いかけます。
どうやら彼は、今しがたの出来事を覚えていないようです。
まるで狐でもとり憑いたようだった、と二人で説明すると、M君は驚きました。
友人が正気に戻ったことで少し落ち着いた私は、本当になにも覚えていないのか、初めからただの悪ふざけじゃなかったのかを――ネタばらしを期待して――確認します。
案の定というべきか、M君はなにも分からないの一点張りです。
本人がそう言う以上結論は出そうもないので、今日はもう帰ろうということになりました。
M君のことは心配ですが、特に異常はないと言いますし、傍目にもおかしいところはもうありません。
結局そのまま解散となり、私はまさしく狐につままれた気持ちで帰宅しました。
………………。
それから数年経って。
ふとなんの気なしに、N君にそのときのことを聞いてみました。
M君は豹変していたときのことを覚えていないと言うので、この話ができるのはN君だけなのです。
N君はこう返してきました。
――そんな話、俺知らないけど。