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この世界の魔法

 翌朝、部屋に差し込む日差しに起こされた京は見慣れない天井に一瞬戸惑いを覚えるが、ゆっくりと昨日の出来事を頭が思い出して行く。


 「あぁそうか、ここは俺の部屋じゃないんだったな」


 疲れていた事もあってか、夜中目覚める事も無くぐっすりと眠る事が出来た。


 「それにしてもすごい光景だなぁ。元の世界じゃ一生見る事がなさそうだ」


 ベットのすぐ隣にある窓から外をみまわすと、どこまでも続く広大な景色が見える。朝日に照らし出された世界はいままで見てきたなかで一番美しい光景だった。


 「たった一日しかたってないけど、俺結構この世界好きになれそうだな」


 元の世界での退屈だった生活をおもいだし、京はつい笑顔を零す。


 「ま、とりあえずまだ帰れるかもわからないんだし、まずはこの世界をたっぷり楽しむとするか」


 昨夜ミリアが今日は魔法を教えてくれると言っていたことを思い出し、京は更にテンションが上がる。昨日までの不安が嘘のように、京の心は未知の世界への好奇心で埋め尽くされていた。

 京が窓から広がる光景に心奪われていると、コンコン、とドアをノックする音が部屋に響き渡る。


 「ケイ様、朝食の用意ができております。ご案内しますので用意ができましたら声をおかけください」


 「あ、はい!わかりました、すぐ用意します」


 部屋の外から聞き慣れない声で呼びかけられ、京は急いで身支度を整える。


 「お待たせしました」


 中々なおらない寝癖を手櫛で整えながら京がドアを空けると、昨日紅茶の支度をしてくれたメイドさんが立っていた。


 「おはようございます。京様、こちらへどうぞ」


 昨日同様頬をぴくりとも動かさず淡々と仕事をこなす彼女におもわず京は苦笑してしまう。内心嫌われているのではないかと不安になりながら、彼女の後ろについていく。

 少しあるき、昨日とおなじ食堂につくと中ではすでに朝食がずらりと並べられている。ミリアはまだ来ていないようで食堂にはコックと一人のメイドしか居ない。


 「ミリア様は部屋で今日の準備があるらしく、ここには来ておられません。ミリア様よりケイさまは礼節を気にするような方ではないとお聞きしたので私達と一緒に朝食を、と思ったのですが問題ありましたか?」


 メイドは無表情で首をこくりと傾げ、京に尋ねてくる。

 「いや、是非俺も同席させてくれ。色々とこの国の話もきいてみたいし」

 いまは少しでも多くの情報をしりたい京にとって、この申し出は願っても無い話だった。


 「わかりました、ではこちらへ」


 京が入ると同時に、食堂の中に居たものたちも一斉に席に着き始める。教育を受けていないとは一定が、皆ある程度しっかりとしたマナーは身につけているようだ。

 「おう、君が噂の客人か!昨日はなかなかの食いっぷりだったらしいな!」

 京が席につくと、料理をつくったと思われる気の良さそうなおじさんが声をかけてきた。


 「とっても美味しかったんでつい手がとまらなくなっちまって。おじさんの料理最高だったぜ!」


 この世界にきて初めて男性としゃべったためか、京もテンション高めに返事をする。


 「そういってくれると嬉しいぜ。朝食も腕によりをかけて作ったから期待しててくれ」


 その言葉に京は昨日の料理を思い出し、ごくりと生唾を飲み込む。


 「さぁさぁお話はそれくらいにして早くたべてしまいましょう。この後もお仕事がたくさんあるんですから」


 無表情っ子ではない方のメイドさんに嗜められ、京とコックはおとなしく席に座る。


 「さて、それではいただこうと思うのですがその前に自己紹介をしておきましょう。私の名前はエイリス、この城のメイド長をさせて頂いています。といってもメイドは私含めて二人しか居ませんけどね」


 ミリアよりも年上なのか、エイリスは京の目からもかなり大人びて見える。その凛とした口調からか、頼れるお姉さんのような印象を受けた。


 「私はリイナ。この城のメイド、よろしく」


 相変わらず無表情っ子、リイナは淡々と自己紹介を済ませてしまう。


 「この子は城にきたばかりであまり愛想とかを知らなくて。気を悪くしないであげてください」


 「いえ、全然気にしてないので!よろしくなリイナ」


 名前を呼ばれるとリイナもこくりと頷く。どうやら嫌われているわけではないようだ。


 「俺はガレンだ。この城のコックをやってる。この城に居る限りうまいもんを食える事は保証してやるから楽しみにしとけ!」


 ガレンは京に向かって自信満々に親指を立てて拳を突き出す。京もそれにならって同じように返した。


 「んじゃ最後だな。もう名前を知られてるらしいけど一応名乗っとく。俺はケイ、関内京だ。いつまで世話になるかまだ分からないけどよろしくなみんな」


 京の言葉に三人ともにこやかに(一人は無表情だが)頷く。


 「それでは朝食を食べてしまいましょう。ミリア様をお待たせするわけにもいきませんしね」


 そう言って皆料理を食べ始める。昨日の夜とはまた違いさっぱりとした味わいの料理に京は夢中になって舌鼓を打つ。


 「ガレンさんあなたの料理やっぱり最高ですね!」


 「そうだろうそうだろう。今夜も最高の料理を作っておいてやるから楽しみにしておけ」


 その後もガレンに勧められるがままに、テーブルの料理を食べ尽くして行く京。ちなみにメイド二人はさっさと自分の料理を食べ終えすでに後片付けに入っていた。


 「待っても待ってもこないと思ったら……。いつまで食べてるんですかケイ」


 ガレンに食材のうんちくを興味深そうに聞きながら京が料理を食べていると、食堂の扉から見慣れない人影が入ってくる。


 「その格好、まさかミリア……か?」


 黒い装束に三角のとんがり帽子、おまけに手には箒まで持ったミリアがそこに立っていた。


 「……魔女っ娘コス?」


 「言葉の意味は分かりませんがすごい馬鹿にされているんだろうという事はよくわかりました」


 本人も少し恥ずかしいのか、顔を紅潮させて京からこれみよがしに目をそらしている。


 「こ……これはれっきとした伝統的な衣装で、代々魔法の使い方を伝える時は皆これを着るんです!」


 「ちなみにその話は誰から聞いたの?」


 「フィオ様です」


 なんとなくだが、京にはいたずら半分で幼いミリアに魔女っ娘コスで魔法を教えているフィオが想像できてしまった。


 「……伝統的衣装なら仕方ないよな」


 「仕方ないんです」


 京の反応に心底恥ずかしくなったようで、真っ赤な顔で俯きながらミリアは小さな声で呟く。


 「私の格好の事はどうでも良いんです!それより早く行きますよ、魔法を教えるというのはそう簡単な事ではないんですから!」


 恥ずかしさをごまかすように大きな声でミリアは京を叱咤する。京も彼女を長らく待たせていたのは事実なので、急いで残りの料理をかきこみガレンに礼をいって食堂から出た。


 「朝食にこなかったのってその格好をする用意をしてたからなのか」


 「そうですよ」


 機嫌を損ねてしまったのか、ミリアは振り向く事なく前を進んで行く。


 「まぁその、なんだ。さっきはあぁ言ったけどすごく似合ってると思うぞ」


 実際、ミリアはもともと整った容姿をしているため魔女の装束も見事に着こなしている。黒い生地はミリアの淡い金の髪が美しく彩られていた。


 「……ありがとうございます」


 一瞬出来た間にこれは本格的に怒らせてしまったかと思ったが、よくみると口元が緩んでいるのが後ろからでもかすかに見える。


 「さて、この辺でやりましょうか」


 城の中庭まで来たところでミリアが足を止めた。


 「まずはすぐに魔法のイメージを掴んでもらおうと思います。よく見ててください」


 ミリアは手を広げて右腕を突き出すと、ゆっくりと瞼を閉じる。それと同時に音も立てずに炎の球が手のひらの上に生まれた。


 「昨日空をとんでるから今更おどろかないけど、本当に信じられない光景だよな」

 何もない所で漂う炎というのは、想像はできても実際に見るととても奇妙な物だった。


 「魔法で重要な事はどれだけしっかりと想像できるか、です。まずは習うより慣れろ、ケイもやってみてください」


 言われるがままに、京もミリアのように手のひらの上に炎を思い浮かべる。だが何度かやってみるが、イメージが纏まらずもう少しで形になると言う所で霧散してしまう。


 「……駄目だな」


 「そうですね、炎その物をイメージするのが難しいのであれば、何か燃えやすい物をイメージしてそこに火をつける、といった想像をしてみるといいかもしれません」


 なるほど、と思い言われた通りに燃料から想像してみる。すると今度は見事な炎が現れた。


 「あっちいッ!」


 京の手を焼きながら。


 「一体どんな物を想像したんですか……」


 ミリアが呆れた目でため息と共に京の事を見る。

 炎の熱さで集中力が途切れたため、炎はすぐに消えたため大事には至らなかった。


 「ガソリンイメージして火をつけたらそりゃこうなるか……。でもなんとなく感覚はつかめたな」


 軽い火傷を負ってしまったが、その身をもって魔法を体験できたためコツを掴む事が出来たようだ。


 「今ので分かったと思いますが、魔法は想像した事を正確に反映します。悪く言うと、魔法は融通がききません」


 「なるほど、そうなると万能の力に見えるけど制約は多そうだな」


 その通りです、とミリアは頷く。


 「他にも、詳しい事は省きますが魔法には出来ない事があります。例えばこの世界に既に存在している物に直接干渉することはできません」


 そう言うと彼女は一枚の紙を取り出した。


 「例えばこの紙が直接燃える所を想像してもなにもおこらないんです。だけどこうすると……」


 ミリアは空いている方の手に火をともし、ゆっくりと紙に近づける。するとその火は紙に燃え移った。


 「こんな風に、魔法によって間接的に影響を与える事はできます」


 つまり元々この世界にあるものに干渉する場合、与える影響に沿った魔法をわざわざ想像しないといけないということだろう。


 「もう一つ大事な事があるのですが、それは難しいのでまた今度にしましょう。まずは基本の基本、火傷をしないように炎を出す所から始めてみてください」


 それから約一時間ほどで、何度か腕に傷を負いながらもどうにか思い通りに炎を出せるようになってきた。


 「疲れた……腕痛いてぇ……。やっぱり思うようにはいかないもんだな」


 火傷でひりひりと痛む腕をさすりながら、京は地面に横たわる。


 「いや、かなり習得は早い方だと思いますよ。比べる人が他に居ないので私基準ですけどね」


 ミリアは赤くなった京の腕を取り自分の手をかざす。


 「気休めに程度ですが少し冷やしておきましょう」


 かざされた手のひらから生まれた水が薄い膜のようになって京の腕を包み込んだ。


 「お、少し楽になったよ。ありがとう」


 「どういたしまして。さて、その腕では集中もできないでしょうし、休憩がてら国を見て回ってみませんか?」


 そういえばフィオに自分の目で人間種の事をしっかり見ておくように言われていた事を京は思い出す。


 「そうだな、フィオさんに言われていた事もあるし一度行っておこうか」


 「今の時間だと民は皆農作業に勤しんでる時間ですね。農地の方へいってみましょうか」


 ミリアはそう言って京の手をとり二人は空へと浮かび上がった。


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