初めての食事
「つきました、ここが食堂です」
その後もミリアとじゃれあいながらしばらくすると、応接間よりも大きい扉の前に出る。
「またでっかい食堂だな……」
漫画や映画でしかみたことのないような食堂を前にして思わず呆気にとられてしまう。
「昔はこの城も多くの人が働いていたのでこれくらいのスペースが必要だったのでしょう。料理はもう出来てますのでこちらへどうぞ」
ミリアが食堂の扉を開けると、中からいい匂いが漂ってくる。
「とはいえさすが異世界……。なんか嗅いだ事の無い匂いもするぞ」
食欲をそそるが鼻の奥がツンとするような匂いも混じっていて、京の好奇心が大きく刺激されていた。
「あまり大した物は用意できませんでしたが、どうぞお召し上がりください」
用意された席には様々な料理が置かれている。一皿一皿の量はそんなに多くないが、この世界の食べ物を知らない京にとってはとても有り難かった。
「なにが好物か分かりませんので、とりあえず一通り用意させました。お口に合うと良いのですが」
「本当にありがとうミリア!これは楽しみだっ」
急に空腹度が増した気がして、京はすぐに料理を食べ始める。
「やっぱり俺のとこの料理とは全然違うな……。でもこれはこれで癖になりそうな味だ」
最初は食べた事のない味に少し戸惑いを感じたが、慣れると手がとまらなくなるほど美味しいと思えてきた。
「どれも国内でとれた食材を使ってるんです。農家が主流なため野菜が主な食べ物ですが、一部では畜産業も行われているのでちゃんとお肉もあるんですよ」
そういった農産業を行うのにも知識がいるのでは、とおもったがそのあたりは幻翼種が調整しているのだろう。ますますなんでそんな面倒くさい事をしているのか分からなくなってくるが。
「さっきから気になってたんだけどこの鼻の奥にくる匂いはなにを使ってるの?」
「それはフアルリーフという香辛料です。匂いで好みが別れたりするのですが、ミオニアでは広く使われてる優秀な調味料なんですよ」
「なるほどな、味の違いもこっちとは調味料からして違うから生まれるのか」
これは他にも色んな料理を食べてみなければならないと京は密かに決意を固める。フィオにも自分の目でミオニアの民の事を見てこいと言われていたし、京はそれをだしにしてミリアに色々な料理を紹介してもらう計画を立てはじめた。
「思ったより量あったな……。ごちそうさまでした」
一時間ほどで出された料理のすべてを食べ終えた京に、ミリアは微妙に苦笑している。
「あれだけの量を全部たべきるとは……」
「せっかく作ってもらった料理を残すわけにはいかないからね……っと」
色々あって精神的な疲労が重なった上に、お腹がいっぱいになったためか急激な眠気が押し寄せてくる。
「大分お疲れのようですね。部屋の用意もすんでますのでそろそろお休みになってはいかがでしょうか」
至れり尽くせり対応に、京はミリアに対して頭があがらなくなる。もしミリアに会っていなかったら今頃腹を空かせながら野原で寝ていた所だろう。
「本当何から何までありがとう。ミリアがいなければどうなってたか」
「私は自分のやりたいようにやっているだけですよ。それに、私はケイをこの城に招いてよかったと思ってますから」
そう言って花のように笑うミリアに、おもわずケイはドキリとしてしまう。
「明日は魔法を教えますから今日はゆっくり休んでください。魔法の行使は精神力を使いますから夜更かししてると倒れちゃいますからね?」
「わかった、京はお言葉に甘えてゆっくり休まさせてもらうよ」
想像以上に疲労がたまっているらしく瞼を空けているのも辛いため、京は素直にミリアの言う事を聞く事にした。
ミリアの案内で用意された部屋にたどり着いた京は設置されているベッドに倒れ込む。
「さっすがに疲れたな……。全く人生なにがおこるかわかったもんじゃない」
ここへきてようやくしっかりと一人で考える時間ができたので、改めて京は自分に起こった出来事を思い返す。
「ミリアに会えたから今の所どうにかなってるけど無事に帰れんのかな俺……」
一人になった事で冷静に自分の現状を把握しはじめ、急に心細い気持ちになる。
「ま、悩んだところでどうしようもないし手がかりも無い訳じゃないしな」
いま思い悩んだ所でどうしようもないと、京は気持ちを切り替え再び襲いかかってきた睡魔にその身を委ねた。