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少女との邂逅

 「……ですか!……大丈夫ですか!」


 耳元で叫ばれる大きな声に、少年は驚いて目を開ける。


 「はぁ、よかった。生きてるみたいですね」


 鈴の音のような可愛らしい声が頭の中に響く。どうやら自分に呼びかけていたのはこの声らしい。


 「ここは……?」


 朦朧とする頭で少年は辺りを見回すと、見覚えの無い風景で包まれていた。


 「街はずれの森ですよ。あなたは空の上からここへ落ちてきたんです」


 その言葉を聞き、少年の頭は急速に回転を始める。


 「そうだ!突然地面が光ったとおもったら何本も薄気味悪い腕に身体を掴まれて、地面にひっぱりこまれたとおもったらいきなり空にっ……」


 思わず叫んでしまい、はっとして声の主の方をみると可愛らしい少女が思いっきりひいた顔でこっちを見ていた。


 「だ……大丈夫そうですね、それでは私はここで」


 まるで見てはいけない物を見てしまったかのように少女は露骨に目線を逸らして立ち上がる。


 「まった!いやちょっと頭が混乱してて……」


 ここがどこなのかもわからない以上、いま彼女に置いて行かれたら相当まずいことになってしまう。


 「あんな高さから落ちてきたら気も動転しますよね……。それにしてもあなた見た所人間にみえますけど、どうしてあんな場所から?」


 まるで人間以外の可能性もあるかのような少女の言い草に一瞬違和感を感じるが、そんな事を長く気にしている余裕は少年には無かった。


 「いや、俺もわからないんだよ。さっきもいったけどいきなり地面に引きずり込まれたかと思ったらいきなり空に放り出されてて……。というかなんで生きてるんだ俺」

 あんな速度で地面に叩き付けられたらどう考えても即死だろう。だというのに自分の身体には傷一つない。


 「幻翼種の誰かがお遊びで空に放り投げたとか……?でもそんな話聞いた事無いですし、話を聞く限りだとなにかしらの魔法の影響だとは思うのですが」


 なんだか知らない単語が少女の口から飛び出る。それにたしかに少年の耳には魔法という言葉が聞こえた。


 「……ちょっとまった。確かに俺もあんな事を実際に体験している以上魔法でもないと説明がつかないとは思う。だけどあんたは本当にこれが魔法のせいだって思ってるのか?」


 「はい、そうですけど……。というか、他にそんな事起こせそうな方法ってないでしょうし」


 さも当たり前のように言われ、少年はおかしいのは自分かのような錯覚を受ける。


 「俺が空から落っこちてきたって言っていたけど助かった理由も魔法のおかげだったりする?」


 「ええ、私の魔法でクッションを作ったんです。本当にぎりぎりでしたよ」


 予想はしていたがあまり聞きたくなかった返答に思わず少年は頭を抱えそうになるが、確かに普通の方法ではあの高さから落ちて助かる方法はないだろう。それこそ魔法でもなければ。


 「ちょっと色々と理解が追いつかないんで少し時間をください……」


 一気に入ってきた情報を整理するためいったん口を閉じる。

 不安げな顔で少年を見つめる少女は、きっと落ちてきた時に頭を打ったのではないかと心配しているのだろう。

 一度冷静になって改めて少女を見ると、その服装にも違和感がある。

 身に纏っているのはまるでどこかの国のお姫様が着ているようなドレスだ。


 「一つ聞きたいんだけど、日本という言葉を知っているかな?」


 少年の質問に少女は首を振る。


 「いえ、初めて聞きました。なんですかそれは?」


 「俺の住んでた国の名前なんだけど……。その様子だと嘘を言っているわけでもなさそうだな……」


 外国人なら日本をしらなくても……、と思ったが目の前の少女が喋っているのは間違いなく日本語だ。それなら日本を知らないということはありえないだろう。


 「ちなみにだけどここはなんて名前の国なの?」


 その質問に少女はますます心配そうな顔をする。


 「本当に大丈夫ですか?ここはミオニア。この世界で唯一の人間国家ですよ」


 少年の予想通りそんな名前の国は聞いた事が無かった。

 知らない国名、存在しないはずの魔法、そしてつい先ほど自分がした体験から、彼は一つの仮定に思い当たる。


 「ごめん、もう大丈夫。色々と混乱してて。それよりよかったら街の方まで案内してくれないかな。ここら辺には詳しくなくてさ」


 少なくとも今いる場所は知らない所なのは確かだし、彼にとって言葉が通じる人に出会えたのは運がよかったのだろう。

 だが、少女が口にした言葉は少年の予想外の返答だった。


 「……その前に、あなたに確認しておかなければなりません。あなたは一体何者ですか?」


 疑惑の目を向ける少女に、何かまずい事を言ってしまったのかと少年は自分の発言を思い返すが特に思い当たる節がない。


 「なんでそんなことを?というか俺はその質問にどう答えればいいんだ」


 「先ほども言いましたがこの世界で人間種の国家はここミオニアのみです。そして他国ではとある理由から人間は生活する事が出来ない。これはこの世界の『常識』です。しかし、あなたはどう見ても人間種だというのにミオニアを知らないと言う。他種族が姿を偽ってこの地にくる理由も思い浮かびません」


 そして一拍の間をあけ、先ほどよりも強い口調で少年に詰め寄る。


 「だから尋ねたのです。あなたは一体何者なのか、と」


 ここまで言われれば少年にも少女の思惑は理解できた。だがこの質問に関しては少年自身明確な答えを持ち合わせていない。


 「……俺はただの学生だよ、ただもしかしたらこの世界の人間じゃないかもしれない」


 だから、少年は先ほど浮かんだ疑惑と共に正直に答えた。


 「この世界ではない……?どういうことですか」


 「俺にも確信は無い、けど少なくとも俺の世界に魔法なんてものはななかったし、ミオニアなんて国も聞いた事がない。それに人間は世界中どこにでもいた」


 少年がそう言うと、少女は一度俯き何事か呟いてからもう一度少年の方を見返す。


 「魔法は、想像した事を実現させる力……。だからこの世界では基本的にあり得ないということは存在しませんが、さすがにすぐ信じられる話ではないですね」


  さらっと告げられた衝撃的な言葉に少年は表情をひきつらせたが少女は何事か考え込んでいるようで気がついていない。


 「ちょっと待った、魔法ってそんなとんでもない力なの?」


 そう少年が聞き返すと、少女は一瞬何を聞かれているのかわからないといったように首を傾げた。


 「あぁ、魔法が存在しない世界からきたといっていましたね。私としてはそんな世界があるなんて到底信じられないのですが、この世界では魔法とは想像した事をそのまま具現化する力の事を言います」


 「それならすぐに元の場所に戻る事も可能だったりするのか?想像した事全てをかなえられるんだろ」


 この話が本当ならすぐにでも帰れると思った少年は一瞬表情を明るくしたが、少女の次の言葉でその些細な希望は打ち砕かれてしまう。


 「難しいでしょうね……。この説明だけをきくと魔法は万能の力のように思えますが実際は制限がかなり多いんです。想像した事を実現すると言う性質上人間の想像力を超えた力を振るう事はできません。恐らく、世界を渡るなんてことを正確に想像できる人はいないでしょう」


 再びあてがなくなってしまった少年は落胆の表情を見せる。その様子をみた少女はいたたまれなくなったのか、先ほどまでの問いつめるような態度をほどき優しく少年に笑いかけた。


 「まぁそんなにがっかりしないでください。あなたが本当に異世界から来たと言うのならばおそらくその原因は魔法によるものでしょう。人間には無理でもこの世界には他にも種族が居ます。もしかしたらその中に元の世界に戻るてがかりがあるかもしれません」


 どうやら帰る方法が完全に断たれた訳ではないらしいとわかり、少年は少し顔を上げる。


 「……ただ、先ほども言った通り立場上あなたを今すぐ異世界から来たと信じる訳にはいかないのです。なにかその事を証明できる物を持っていませんか?」


 そう言われ何かあったかと少年は鞄を漁り始める。


 「学校帰りだったから大した物は……。こっちの世界の言語で書かれた教科書とかならあるけど」


 そういって一冊本を取り出し少女に手渡す。


 「これは……。わかりました、あなたの話を信じましょう」


 手渡された本を開いた少女の表情が変わる。どうやら信じてもらえたらしいがその理由がわからなかった。


 「もしかしてその教科書読めるのか?」


 淡い期待をこめて少年が尋ねたが少女は首を振る。


 「いえ、この言語は本当に知らない言葉ですね。ただ、人間種であるだろうあなたが知識を伝える本をもっている、それだけで十分です」


 少年は言っている意味がよくわからず困惑した表情が浮かぶ。


 「詳しい事を話すと長くなってしまうので割愛しますが、私達人間種が知識を学ぶ事は徹底的に禁じられています。だから人間種であるあなたが知識の固まりである本を持っている事など普通はありえません」


 どうやらこの世界での人間の立ち位置は少年が想像している物とはかなり違うらしい。


 「なるほど、俺がいた世界とは大分違う情勢みたいだな……。だけど俺が他種族で人間を騙ってる可能性もあると思うんだけど、そんな簡単に信じて大丈夫なの?」


 そう少年が尋ねると少女はこくりと頷く。


 「えぇ、いまはともかく街に戻ればあなたが人間種かどうかを確かめられる人がいますので。それに、さきほどもいいましたが他種族の方が人間種になりすます理由がありませんからね」


 そう言って少女はふっと自嘲気味に笑う。


 「……さっきから思ってたんだけどこの世界の人間の立ち位置ってかなり低かったりする?知識も制限されてるなんて相当だと思うんだけど」


 その笑みをみた少年は新しい疑惑と不安を感じ取る。それはこの世界で人間という立場自体がかなり弱いものなのではないかというものだ。


 「さすがにちゃんと知識を学んでいるだけあって聡明ですね。おっしゃる通り、この世界での人間の立場は最悪、ほぼ奴隷のような物だと思っていただいても間違いありません」


 悪い意味で予想通りの返答をもらい、少年は頭を抱える。


 「それで他種族が成り代わる必要がないっていったのか。奴隷なんかに好き好んで成り代わろうなんて酔狂なやつはそうそういないもんな」


 だがそうなると元の世界に帰る手がかりを探すのも難しいだろう。知識を手に入れる事も制限されているらしいし、自力で調べる事も出来ない。それに当面はここで過ごさないといけないと考えると、自分の/身の安全さえ確保できない可能性が高かった。


 「あぁ、そんなに落ち込まないでください。奴隷と言ってもそんなに酷い扱いをうけているわけではありませんし、帰る方法についても少しだけ当てがあります。ですのであなたさえよろしければ私についてきませんか?」


 そういって少女はにこりと笑い手を差し出す。


 「そう言ってくれるのはすごい嬉しいしとても助かるんだけど、なんで初対面のそれも空から降ってきた素性も知れない奴にそこまでしてくれるんだ?」


 「……私は、唯一人間種の中で知識を持つ事を許されています。それ故に、対等に話せる相手がほとんいないんです。だから、あなたに親近感が湧いてしまったのかもしれません」


 少女は少し寂しそうな表情を浮かべて軽く目を伏せた。


 「なるほど、そう言う事なら是非俺を連れてって欲しい。正直いま一人にされたらのたれ死にそうだ」


 少年は冗談っぽくそう言うと、差し伸べられた手を握る。

 見知らぬ人についていくというのに少し抵抗はあったが、それ以上に一人になる方が危険だと少年は判断し、少女と共に行く事にした。


 「ふふ、それでは行きましょうか。あ、お名前はなんと言うんですか?」


 少女の言葉でそういえばお互いに名を告げていなかった事に気がつく。

 

 「まだ名乗ってなかったな。俺は関内京、ケイって呼んでくれ」


 「わかりました。私の名前はミリア・レイナードです。よろしくお願いしますねケイ」


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