プロローグ
その日は、ある出来事を除いていつもと何一つ変わらない一日だった。
普段通り学校で眠気と戦いながら授業をうけ、いつもと同じくさっさと家に帰ってゲームでもしてから眠りにつく。そしてまた明日、いつも通りの朝を迎える。
きっとそれはずっと変わらず、これからも当たり前に続く事だと少年は思っていた。
「なんなんだよこれ……」
呆然と呟く少年の足下は眩く光り輝いており、そこから伸びる何本もの腕が少年の足や腰を掴んでいる。
一人で帰路についていたため、助けを求められるような友人も今はいない。
加えて、運が悪い事に当たりを見回しても子供一人見つける事は出来なかった。
なんとか逃げようと自分の身体を掴んでくる腕を振り払おうとするが、どんなにひっぱってもびくともしない。
「……ッ!地面が!」
必死にもがいているうちに、少年は自分の足下が徐々に液体のようになっている事に気がつく。
まるで底なし沼にはまってしまったかのようにゆっくりと地面に沈み始める自分の足をみて、少年の恐怖はピークついに達っした。
なりふり構っていられず大声をあげて助けを求めるが、少年の声に反応する物は一人もいない。
そのうち絡み付いていた腕も地面の中に少年を引きずり込み始める。
その力はとても強く、あっという間にその身体は地面の中へと沈んで行った。
真っ暗な視界の中、高速で下へ下へと落ちていく。
夢なら早く醒めてくれと必死になって懇願するが、どんなに願っても暗闇に変化は無い。
そして数十秒後、突如明るくなった視界にはっと目を開けた少年は先ほどの悲鳴以上の、絶叫をあげた。
自分の周りには何も無く、辺りに広がるのは一面の青。
遥か下には緑が広がる大地があり、徐々にその輪郭をはっきりとさせて行く。
いつのまにか自分を掴んでいた腕は無くなっており身体の自由は利くようになっていたが、空中では身動きが取れた所でどうしようもない。なす術も無く地面に向かって落ちて行く。
そして少年は一気に押し寄せてくる死への恐怖に耐えきれなくなり、ふっと意識を手放した。