大切な親友を殺したから私は生きる
夏は嫌いだ。
あの子の笑顔を思い出すから。
空峰 蒼。
それが私の親友の名前。
私が殺した親友の名前。
三年前。
丁度中学二年の夏休みの手前。
通う学校は違うけれど私達は仲がよかった。
同じ音楽の道へ進む者としてはライバルであり仲間であった。
そんな彼女を私は殺した。
夏休みにバンド練習のために学校に空き教室を借りる交渉をしていた。
私は満喫していた。
いや、私だけが。
何とか教室を借りれて私は浮かれていたんだ。
バンドメンバーの恭弥とこれからの練習の話をして帰宅路を歩いていた。
そこで前を歩く親友に気付いたんだ。
「蒼ー!」
後ろから声をかけると彼女は大げさに驚いた。
恐ろしいものを見るように振り返ったが私達を見たら何時も通りに笑った。
違和感はあったんだ。
なのに私は自分の事しか頭になかったんだ。
だから蒼の痛みに気付けなかった。
「だから夏休みは練習しまくるんだー!」
馬鹿みたいに笑う私。
そんな私を見て言いにくそうに口を動かした蒼。
気づかなかった。
「あ、あのね、葵」
「恭弥とのツインボーカルもやるんだよ?」
何かを言いかけた蒼に気づかなかった私は笑顔で彼女の顔を覗き込んだ。
それが私と彼女の最後。
最後に私はあの子に「頑張れ」って言ったんだ。
次の日彼女が自殺するなんて思わないで。
首吊り。
自分の部屋で。
死んだあの子の顔に今まで見てきた太陽みたいな笑顔はなくて。
ただただ作り物の陶器みたいだった。
「うあああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
後悔したってもう遅い。
届かない。
蒼はもういない。
笑顔なんて見れないんだ。
後日聞いたこと。
蒼はバンドメンバーにいじめを受けていたらしい。
あの子が持っていた機材が壊されたり盗まれたり。
あの日はギターが壊されていたらしい。
そんな彼女に向かって私は言ってしまったのだ「頑張れ」と。
あの日あの子は私に相談しようとしていた。
なのに私は何も気付けなかった。
自分の事だけ。
ごめんなさいと何度謝ったって無意味。
あの子のお母さんに土下座したって無駄なんだ。
「葵ちゃんのせいじゃないのよ」
そんな言葉が欲しいんじゃないんだ。
私が殺したんだ。
最後の止めは私の言葉。
「恭弥、殺して、死にたい」
私の訴えに恭弥は迷わず答えた。
「生きろ。蒼ちゃんの分まで。蒼ちゃんの分まで音楽を続けろ。それが今のお前にできることだろ
その言葉と蒼の笑顔だけが今の私を生かしている。
ねぇ、蒼。
聞こえていますか。
今日はね、オーディションを受けてきます。
この曲は蒼のために作ったんだよ。
ごめんなさい。
私は生きます。
蒼にもこの音が届けばいいな。
蒼のお墓を指でさする。
夏風と一緒に声が聞こえた気がした。
『ありがとう』
暑いのに頬だけが冷たいのは何でだろう。
私は今日も彼女の命を背負って生きる。