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水の魔方陣・焔の剣<R15版>  作者: 真名あきら
水の魔方陣・焔の剣
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水の魔方陣・焔の剣<8>

破壊される前は水のように見えた鍵は、砂のようにさらさらと、ソルフェースの手から零れ落ちる。

「あ、れが……」

リベアの喉の奥から、絞り出すような声が漏れた。泉の中央には、塔のような建物が空を指すように建っているのが判る。静かな泉がその塔の姿を映し出している。

「そう。藍鏡の泉の主の居城だ」

塔へ至るのは重厚な跳ね橋が一本。

「ここで迎え撃たれたら終わりか」

ゼルダムが塔を見やると、じりじりと魔物たちが跳ね橋を渡ってくる。それに対して光の剣を構えると、魔物たちの動きがぴたりと止まった。

「蹴散らすしか無いらしいな」

今にも切り掛かりそうな勢いで、ゼルダムが呟く。その後ろで、リベアとネイストが柄に手を掛けた。

が、それを制するように、ソルフェースが三人の前に立つ。

「それは俺がやろう。そちらにはやって欲しいことがある」

ソルフェースはじりじりと近づいてくる魔物たちを見据えながら、呪言を唱えはじめた。

泉の水が塔の周囲を取り囲むように、中空に渦を巻く。

それは勢いを増し、空まで伸びるかと思われる塔と、同じく空へと伸びていった。

空へと伸びていくそれを、リベアは目で追う。自分にはそれを見なければならない義務があると思えた。この大きな魔術の行方を。

水の渦は竜巻のように中空で交差した、その瞬間―――――水は小さなつぶての雨となって跳ね橋に降り注ぐ。

つぶては、矢のように魔物たちの身体を貫いた。

断末魔の咆哮が辺りを満たす。

すさまじさに声も出せないリベアたちを導くように、ソルフェースが走り出した。

すかさず、その後を追う。

走りながら、ソルフェースの口元が動いた。呪言を唱えている。

橋を渡るリベアたちに向かって、塔の中から魔物たちが湧いたように押し寄せてきた。

ゼルダムが剣を抜き放ち、続くネイストとリベアも剣を抜く。

走るリベアの頬に水しぶきが掛かった。

「え?」

ちらりと泉に目を移すと、また竜巻が渦を巻いている。

それはリベアたちを追い抜き、まるで生き物のように、まっすぐに塔の入り口へと向かった。

塔の中から、幾重にも重なった絶叫が響く。

塔を揺るがすほどであったそれは、リベアたちが塔の扉へ辿りついたときには止んでいて、あたりには生臭いほどの死臭がたちこめていた。

重厚な扉を破り、浸入した竜巻は、塔の内部を暴れまわったらしい。塔の上へと続く石段にも、屍は転々と転がっている。

「どこで生き残っている奴が出てくるか、判らない。気をつけろ」

ソルフェースの言葉に、周囲を見回していた騎士たちに緊張が走った。

「剣を――――――」

伸ばされたソルフェースの手に、ゼルダムは素直に光の剣を乗せる。

剣を前にしたソルフェースは三度呪言を唱えはじめた。

高く低く詠唱される呪い(まじない)はこんな場所だというのに、子守唄のように安らいだ旋律だとリベアは思う。

「ゼルダム卿。貴方の剣が道案内だ」

呪言を唱え終わったソルフェースが、ゼルダムの手に剣を返した。ゼルダムが、すっと剣を抜くと、まぶしい光が辺りを照らし出す。

リベアは思わず、手でその光を遮った。光の照射がまぶしすぎて、ゼルダムとネイストの向こうに見える筈のソルフェースが見えない。

光は徐々に収まり、それでもたいまつ程の明かりのまま、一行を照らし出していた。


「行くぞ」


ゼルダムが先頭に立って歩き出す。それにその後ろにネイストとソルフェースが続き、しんがりをリベアが勤める。

ゼルダムに警戒を怠っている様子は無いものの、まるで目的が判っているかのように進む姿は、何処か異様にリベアには見えた。

「魔物封じの剣の声は、持ち主にしか届かない」

それを見透かしたように、ソルフェースが呟く。

「この塔の主の属性は水。それに見合った魔物封じの剣が必要だ」

「ここに魔物封じの剣が?」

「文献が正しければ。だが、確実に光の剣が呼び合う剣はあるようだ」

確かに、ゼルダムはわき目も降らず、塔の中を進んでいく。

とりあえずは信じるしかなさそうだ。

「…!…」

ゼルダムが石段の横へと飛びのく。

物陰からひそかにリベアたちが来るのを待ち構えていたらしい魔物の爪が空を切った。

今まで相手にしていたような巨獣ではない。人型だ。だが、人間ではありえないのは、その剣のように長い爪と紅い瞳が物語っている。

飛び退いたゼルダムに襲い掛かる魔物に、ネイストが斬り込むが、剣は爪で軽く受け止められてしまった。

その隙を窺うリベアは、背後に殺気を感じて、振り向きざまに刀を振り下ろす。

襲い掛かろうとしていた魔物は、振り向いたリベアに驚いて飛び退いたが、肩口を切り裂かれていた。こちらも人型だ。

「さすがに、あれで片付けられなかったとなると、結構知能は働くらしいな」

ソルフェースはにやりと笑う。その笑いはふてぶてしいことこの上ない。

リベアはそれを見て、この男は別の意味で魔術師にしておくには惜しいと思った。腕の方は確かだし、この肝の据わったところは自分などより余程騎士に向いていると思う。

肩から血を流しながら、魔物が後ろから迫ってきた。

ネイストは、受け止めた爪をなんとかしりぞけようと試みている。その後ろから、ゼルダムが斬りかかった。

リベアも、手傷を負った魔物の懐へ飛び込む。


その時、上方から水のつぶてが降ってきた。

前と後ろに魔物と騎士が戦っている。間に挟まれたソルフェースに逃げ場は無かった。

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