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王者の後継<25>

西の宮へ突然現れたリベアたちを、王都警備兵たちは、唖然として見つめていた。

「リベア?」

「バース隊長?」

王都警備と睨みあっていた大柄な男たちが振り返る。歴戦の巨漢二人に凄まれて、警備兵たちは、弱りきっていた。

「マキアス隊長まで。一体何故?」

「馬鹿野郎ッ! お前が単独で魔術師たちと動いたりするからだ!」

「申し訳ありません!」

怒鳴られたリベアは、素直に頭を下げた。

「で? そのチンケな魔導師気取りはどうした?」

「は?」

酒場の連中を納得させるための、口からでまかせを、何故マキアスが知っているのだろうか?

「これから宮長へ報告に行く。二人とも付いて来るが良い」

何といい抜けようか迷っているのを悟ったのか、波打つ黒髪を翻したアデレードがリベアの隣をすり抜けた。

「おい! 勝手な行動は……」

慌てた警備兵が声を上げる。

「お前たちも来るか? その代わり、墓の中まで背負ってもらう覚悟もしてもらわねばならぬがの」

「姫様?」

驚いて声を上げたのは、バースだ。

「一体何をお話になるおつもりなのですか?」

先々代とはいえ、アデレードは仮にも元皇女だ。そのアデレードが墓の中までというからには、王家にまつわることに違いない。

「碧のアデレード、ですね。私がお供いたしますが、よろしいか?」

警備兵の内から、男が一人進み出た。

「お主は?」

「王都警備を任されております。ジールと申します」

キツイ目つきの硬そうな男だ。王家の姫と知って、アデレードに礼をとりはしたものの、油断無くあたりに目を配る。

じろじろとリベアを見る目つきも、品定めをするそれに似ていた。

「構わんぞ。付いて来い」

その視線を遮るように、リベアを促して歩き出したのは、蒼のソルフェースである。

歩み去るその後を、足早にアデレードが追う。その後に、ジールと名乗った警備兵と、マキアスとバースが続いた。

「入るぞ」

宣言すると同時に扉を開く。

不機嫌丸出しのソルフェースを見た西の宮長は眉をひそめた。

「その様子だと、始末は済んだか?」

「ああ。リベアが片を付けた」

成程と西の宮長は合点がいった。そこで初めて、共に入ってきた連れに目を移す。

「何処から、お話をお聞きになりたいのでしょうかな?」

三十半ばほどに見える宮長は、口だけは丁寧に、ソルフェースとリベアの後ろに控えた人物に目線を送ったが、その視線はむしろせせら笑うような辛らつさを持っていた。

「今回の件について、明解な説明が欲しい。一体、あんたたちは何をやっているんだ?」

視線に気付かなかったのは、向けられた本人だけらしい。意にも介さず、ずいっと前に進み出る。

アデレードは明らかな舌打ちをし、それを見たバースとマキアスが揃って頭を抱える。これは明らかにやっかいごとの予感だ。

「王宮に仇なそうとした魔術師を始末させていただきました」

「王宮に? 一体、どうやって?」

「王の子を名乗る傀儡を仕立て、焔の剣の騎士の暗殺を企てました」

王の子を名乗る傀儡を仕立てたのは、シィドリアでは無いが、この際そういうことにしておいた方が、話が早い。

下手に隣国が関わっていることなど知られては、そっちの方が頭が痛い。

ジールはリベアにちらりと視線を送った。

「焔の剣の騎士があなた方と親しいとは伺っておりますが、それだけで動かれるのですか?」

いかにも胡散臭いと云わんばかりのジールの言葉を聞いたアデレードが笑い出す。

「まったくもって、度し難いの。これだから欲にまみれた下賤のやからの云うことは……」

「下賤と申されますか!」

いきなりの哄笑に、ジールは激怒した。絵に描いたような見映えの通りの堅物である彼にとって、その言葉は馬鹿にされたようにしか思えなかった。

「下賤で悪ければ下種であろう。少なくともリベアを我らが走狗だと見るようでは、己の考えの浅はかさを露呈したようなものではあるがな」

「仕方があるまい。庶民は下種な噂を好むものよ。真実よりもその方が娯楽としては面白かろう。だが、その中にとてつもない真実が隠されておることもある」

宮長がアデレードを遮った。まさしく、それこそが今回の騒動の根。シィドリアを狂わせた元でもある。

「お話しよう。だが、この件、どうされるかは貴方次第。監督不行き届きとこの身を責められても、致し方の無いこと。責は全て私にある」

西の宮長である男は静かに口を開いた。

「事の起こりは、藍のシィドリアが王家の血を継ぐものと噂が立ったことにある。師匠である藍のカイリィアは王家の後を継ぐものとしてシィドリアを育て、それを厭う蒼のソルフェースに殺されたのだと」

その噂は、リベアがマーロウから聞いたものと寸分の違いも無い。つまり、当時、多くの者たちの口を飾った話だったのだ。

「馬鹿馬鹿しい話だ。何もカイリィアを止めるのであれば、蒼のソルフェースなら指一本でも充分。殺す必要など、何も無い。だが、恐ろしいのはここからだ」

宮長の話を、周囲の人間たちは固唾を呑んで聞き入る。

「この話には、一角の真実が含まれていた。真実、シィドリアは王家の血を引いておった。カイリィアはそれを知りつつシィドリアを育てていたのだ」

「それは……、」

思わず息を吐くようなジールの問い掛けに応えたのは、アデレードだった。

「私が生んだ子よ。病弱であった父王は、早くから子を望まれ、抱きたくも無い女をあてがわれていた。その一人が生んだ子と私は恋に落ちた。互いに兄妹とは知らず」

未婚の皇女の妊娠。しかも相手は同じ父を持つ兄。醜聞と共にシィドリアは隠された。

「噂を全て真実と信じたシィドリアは、王家と魔術師に対する不審を募らせていった。殺された養父の仇を討ち、自分こそが上に立つのだと」

王家を継ぐことが無理なことは解っていた。自分の身の証を立てることの出来るものをシィドリアは持ち合わせていない。ならば、裏から操ればいい。

「もっと早うに母だと名乗るべきであったのかも知れぬ。この宮の中であれば、兄と息子と共に暮らせたのであろうに」

深い後悔を滲ませた声に、誰も異を唱えることは出来なかった。

リベアはふと王が漏らした言葉を思い出す。

『生涯に一度きりの恋であったよ。わが子にはそのような思いはさせたくないのだ』

王家と血の鎖に縛られたものたち。

リベアは苦い思いを噛み締め、アデレードから目を逸らした。拳を作った手には、まだシィドリアを貫いた時の重みが残っているような気がした。

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