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王者の後継<13>

「申し訳ありませんでした」

うな垂れるマーロウを慰める言葉も見つからず、リベアはひたすら視線を彷徨わせる。護衛の筈の、リベアの小隊はまったくその役割を果たすことが出来ず、帰塔の足は重かった。

「リベア」

「ブラスト?」

居室へ戻って間を置かずに、近衛騎士団の一隊が顔を出す。

「今日から、俺の隊がお前の護衛に付く事になった。女のところはしばらく諦めてくれ」

軽口を叩きながら笑ったのは、近衛騎士の中でも、比較的リベアとは親しい間柄のブラストだ。

没落貴族の出だというブラストは、腕一本で近衛騎士となっただけあって、リベアには親近感をもって接してくれる。気の置けない間柄ではあるのだが、だからといって近衛の護衛を良しとするかと云われれば、答えは否だ。

「ありがたいが、俺の護衛はうちの隊だけでいい」

「いえ、リベアさま! 私たちでは役者不足なことははっきりと……」

弾かれたように、リベアを見上げたマーロウの肩を叩いた。

「役者不足でした。で終わる気か?」

真っ直ぐにマーロウを見るリベアの視線に、顔を上げる。

「いいえ!」

終わらない。そんなものでは終われない。負け犬になるために騎士になったのではない。

「明日、皆に剣を持って修錬場へ来いと伝えろ」

「はい!」

マーロウが力強くうなづいて、走り出す。それを見送って、リベアはブラストに向き直った。

「という訳だ」

「そう云われてもな。俺も仕事なんだ」

肩をすくめるブラストに、リベアは妥協案を出す。

「しばらく、塔からは出ない。それでいいだろう?」

「仕方無ぇな。だが、扉の外の見張りは残すぞ」

ブラストは頭を掻きながら、リベアの示した妥協を受け入れた。


翌日、修錬場に来たマーロウたちの顔には、緊張がみなぎっていた。

リベアが持つのは、普段使いの厚刃の剣。そして、修錬場に集う中に、常なら有り得無い異色の集団が集っていた。

揃って紫紺の瞳を持つ彼らの存在は、近衛の兵ですら、一歩も二歩も引いている。

「で、リベア。お相手は彼らってことでいいのかしら?」

悪戯っぽく瞳を輝かせて、モニクが丈を構えた。

「そうだな。マーロウ、お前が相手しろ」

「り、リベアさま。宜しいのですか?」

魔術師を相手に剣を抜くなど、考えもつかない事態だ。

「人間相手にびくついているような連中だぞ。魔術師相手なんか出来るのか?」

明らかに馬鹿にしたような響きの台詞は、ソルフェースだ。

「黙ってろ、ソル。後でお前も出張ってもらうぞ」

「久しぶりだからなぁ。手加減出来るかどうか、危ねぇな」

ふてぶてしい笑みを浮かべたソルフェースに、騎士たちが憮然とする。まるで自分たちが劣っているかのような言い草だ。

魔術師相手と見て、さすがに口に出すものはいないが、一気に空気が険悪になる。

「中々、骨のある連中のようだ。頼もしいな」

女にしては低めの声も、明らかに面白がっていた。

「碧殿まで、見物ですか?」

「何の。やらせてもらうに決まっておろう。久しぶりすぎて、あまり動けぬかもしれんがな」

確かにソルフェースに使える連中を連れて来いとは云ったが、アデレードまで来るとは予想外だ。

「魔術師の宮など、退屈この上ない。面白そうだったしの。他の魔術師よりも腕は確かだとは思うぞ」

すらりと抜いた腰の剣の扱いは、確かに手馴れたもので、リベアは目を丸くした。

「ひ、姫様」

そのアデレードに、焦ったように声を掛けたのは、バースだ。

「おお。バース。久しいな。息災か?」

「はい。おかげさまを持ちまして」

代々の近衛の家柄のバースだ。王家の姫であったアデレードを知っていても不思議ではない。

「ま、まさかとは思いますが、姫様が稽古をお付けになるというのでは?」

「稽古などとは聞いておらんな」

その言葉に、ほっとしたバースの表情が引きつるのはすぐだった。

「真剣勝負で良いのだろう? リベア」

「ええ」

腕組みをしたままのリベアの答えに、バースが怖い顔で詰め寄った。

「リベアっ! お前は姫様に何をさせる気だ!」

「バース。お主の息子、押されているぞ」

アデレードの落ち着き払った声が割って入る。まさかとバースが振り向いた。自ら稽古をつけて一人前にした息子だ。騎士見習いとなってからも、同じ修錬場で目の当たりにしてきた実力である。

女魔術師ごときに遅れをとるなどあってはならない。

だが、振り向いたバースが目にしたのは、マーロウの剣が、モニクの丈に弾き飛ばされるところだった。

「お話にならないわ。リベアは我らが認めた魔封じの剣の騎士。隣に立つものとしてはあまりに弱いわ」

厳しいモニクの声に、マーロウが呆然とした顔を上げる。

「マーロウ・エデン。貴方は何をもって剣を取るの? 我らが魔術を使うのと同義の筈ではないの?」

女魔術師はまっすぐに丈の切っ先をマーロウへと向けていた。

「それさえ忘れたのなら、騎士として生きる価値は無いわね」

丈が振り上げられ、誰もがマーロウの終わりを確信した。

だが、丈はすばやくかわされ、マーロウが拾い上げた剣を構える。

「剣を持って護るものがあります。その為に、リベアさまの隣に立つ!」

立ち上がったマーロウの瞳に、もはや迷いは無い。

「いい覚悟だな」

ソルフェースが、戦うマーロウとモニクに背を向けた。

「さて、覚悟の出来ていない野郎どもを叩きなおしてやるとするか」

すらりと剣を抜いたソルフェースに二人の騎士が対峙する。

「残りは私がお相手しよう」

アデレードも残った一人に剣を向けた。

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