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王者の後継<12>

「大げさじゃないか? 王宮の敷地内だぞ」

「リベアさまが襲われたのは、一体何処ですか?」

横を歩くマーロウに、じろりと見られて、リベアは頭を掻いた。今日のリベアは常のように単独ではなく、周囲に数人の騎士たちが配されている。

確かに外れとは云え、王城の外側に配置された騎士の塔のすぐ脇で襲われたとあっては、この警備が大げさすぎると云う訳でも無い。

かと云って、一日塔の中。外出は修練場だけというのは、さすがのリベアもげっそりとなってしまう。

魔術師の宮に近づくなと云われたものの、ソルに預けたレイのことも気に掛かる。

じっとしているのも限界だった。

西の宮が見えてくるにつれ、騎士団の警護に緊張が走る。この国で魔術師と云うのは、王族に次ぐ身分だ。普段、第一騎士団に護りとして付いてくるのが、上級魔術師であることは滅多に無い。

「私どもはこちらで待たせていただきます」

入り口に近い騎士の詰め所で、護衛と別れた。

「リベアさま。いいですか? 絶対に単独行動などおとりになりませんよう」

マーロウが腰に手を当てたまま見下ろしてくるのを、リベアは苦笑いと共に受け入れる。

門を潜ってひとりになった時、やっと溜息を吐き出した。

こういうのは、リベアのような貧乏人にとって、疲れるだけでしかない。

「リベア!」

ソルフェースの部屋へ向かうリベアを呼び止めたのは、レイだ。

必死で駆けてくる。勢いが良すぎて止まれなかったらしく、リベアが抱きとめた。

「すまんな。こんなに間が開いて」

養い親失格だ、と思う。本来なら、城下で何処か部屋でも借りるべきなのだろうが。

「ううん。それより、襲われたってホントなの??」

しまったとリベアは思った。もっと早く顔を出すべきだった。まさか、ここまで伝わっているとは思っていなかったのだ。

「大丈夫だ。今日も騎士たちが護衛で付いてるよ」

「ホント。良かったぁ」

心の底から安堵したような声。大人しい子供だから手が掛からないと勝手に考えていたことを反省する。

「レイ。ちょうど良かった。話があるんだ。ソルのところへ行こう」

「蒼のソルフェースのところなら、僕も呼ばれてます」

「そうか」

さらりとした金の髪を梳きながら、レイを促した。

途中、幾度かすれ違う魔術師候補たちからも、普段より視線を感じる。ここのところ、魔物の脅威以外では、平和すぎるくらいの国だったのだ。

そこに降って沸いたような『暗殺騒動』とあれば、皆も興味津々というところなのだろう。

だが、リベアには、イマイチ自分がその主役という実感は乏しかった。

そんなことを口にすれば、おそらくラフから怒鳴られることは確実だったが。


「やっと来たか」

溜息のようなソルフェースの言葉に、リベアはさすがに罪悪感を煽られた。

「すまん」

「じゃ、さっそく誠意を見せてもらおうか? レイ、そっち向いてろ」

「蒼のソルフェース、何をやる気ですか。僕が出て行ってからでもいいでしょうに」

抱き寄せようとするソルと、逃れるリベアの攻防を、レイは冷めた目線で眺めている。口調には呆れ果てた色が濃い。

「お前は! 何をレイに教えてるんだ!」

剣を抜いて恫喝するリベアに、さすがのソルフェースも諦めた。

「いや、契約の契りと、必要な理由について」

理路整然とした理屈に見えるが、それは自分たちのことも含めてのことだ。リベアはがっくりと肩を落とした。

「それも含めて、レイに魔術師になる気があるのかどうか。レイの魔術は大きすぎる。いつか交感は必要になる」

続く言葉に、リベアは顔を上げてレイを見る。

「判らない。でも、僕には力があるんだ。それは、国を護る力で、国を壊す力だって」

まっすぐにリベアを見るレイの言葉は、ソルフェースに対する何処か冷めた大人びたものとは違う。年相応の言葉だが、それでもその意味は重い。

「レイ。いつか、お前に護りたい人が出来たときには、きっとその力を振るうことになるだろう。だが、間違えるな。大きな力を持つことは、同時に大きなものを背負う覚悟が必要だ」

「リベアの剣みたいに?」

「そうだ」

まっすぐに見てくる子供に、ごまかしは効かない。

リベアはレイシア皇女を救うための力を欲した。人が人を超える力を得たときに、背負わねばならないものはあるのだ。

「お株を奪われたな」

呆れたようなソルフェースに、リベアは肩を竦める。言わずもがなのことを云った自覚はあった。

「ところで、レイ。聞きたいことがあるんだが」

きょとんとしたレイが首をかしげる。

大人と子供が忙しく交差するレイの仕草は、見ていて飽きない。が、それ以上にレイを護るための情報が欲しかった。

「お前の母親。今、何処にいる?」


「リベアさま!」

考え込んでいた所為で、うつむいてはいたが、殺気の在り処は判っていた。

門から出たところで襲い掛かってきた男を、リベアは振り向きざまに切り捨てた。

「俺が誰かは、知っているんだな?」

リベアの背後を護るように、マーロウが剣を構える。

数人に囲まれたが、護衛役の騎士もすぐに駆けつけてくるだろう。リベアは乾いた唇を湿らせると、正面の男に切り掛かった。

マーロウも反対側に切り掛かる。

大した腕でもない。一人目の手首が飛んだ。次いで、二人目を厚刃の刀の腹で殴りつける。両刃だから、多少の傷はある筈だが、かまってはいられない。

三人目と切り結んだとき、リベアはやっと異様な雰囲気に気付いた。優勢に立っているはずの騎士たちの動きが鈍い。

マーロウですら、手こずっている。

「マーロウ?」

三人目の喉元を切り裂き、マーロウの元へと走った。

マーロウの目に迷いを見てとり、リベアはかばうように前へと出る。相手の懐に飛び込むように、腹を刺し貫いた。

肩に焼けたような感覚がある。切られたことは自覚したが、我慢できない程でもない。

剣を構えた騎士たちの手が震えていた。

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