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王者の後継<10>

「魔物使い、だと?」

リベアの話を聞いたソルフェースは、秀麗な眉をひそめる。

「確かに王都だけあって、はぐれ魔術師も多いが。そうそう誰も手は出さんぞ」

「そんなに、危険か?」

魔物を走狗として使える魔術師がいるとは、今までの経験から知ってはいるが、それがどんなものであるかについては、リベアには知識が薄かった。

「魔物は本来なら、誰にも従わない。従うのは己の決めた主にだけだ。一度は人に堕ちても、正気に戻ったときには、その魔術師は八つ裂きだ。常に従わせておかなければならんから、相当の緊張を強いられる。それとも、余程自らの魅了に自信があるのか」

考えを巡らせていたソルフェースの眉が曇る。

「ここでも使えるのはアデレードくらいだぞ。他の女魔術師では多分もたん」

「女魔術師? 男では駄目なのか?」

「本来、陰の力なんだ。人間は特性には逆らわないからな。男でも稀に使える奴はいるが、ほとんどは水の魔術師だな」

判るようで判らない説明に、リベアが混乱した顔でソルフェースを見る。

「女の力は内に篭る力だ。宿す子を護る力。男の力は外へ向かう力だ。魔術では陰と陽と称する。それは人の特性であって、魔術師だろうが変わらない。水はひとところに留まれば澱むからな」

陰気を持ちやすいのだとソルフェースは云った。

「お前は?」

「俺は人じゃ無い。それに俺にはお前がいる」

引き寄せられるまま、リベアの逞しい身体はソルフェースの長い腕に収まる。

口付けは何時に無く、優しい触れ合いだった。


下弦の月を眺めながら、ぶらりと足を運ぶ。

夜も更けたと引き止められはしたものの、待機中には変わりない。だが、その後を付けて歩く気配には気付いていた。

当たり前だ。

魔物との戦いに慣れた身にとって、どんなに離れていようが人と魔物のそれを違える訳も無い。

リベアは自分が腰に下げているのが、普段使いの剣で良かったと安堵した。

表通りではなく、裏道を使う。それが一番、第一騎士団の塔へ近い道だからでもあったが、人通りが無いほうを選んだのは態とだ。

路地を出たところで、リベアは振り向いた。

そのまま路地へと走りこむと、リベアの後をつけていた男たちが、一斉に抜刀した。正面の一人に斬りつけ、肩を押さえた相手を蹴り倒す。

「俺が誰だか知っていてのことか?」

静かにリベアが問うが、それに答えはない。じっとしたまま、にらみ合いが続いた。一人づつしか斬りかかれないのでは、不利だと判断しているのだろう。リベアが間合いを詰める。

肩を切られた相手は、その場を下がり、新たな男が現れる。

顔を堂々と晒しているところをみると、流れ者だろう。

奇声をあげて相手が向かってくる。その上段からの剣を受け止めた。

重い剣にリベアが耐え切れず、じりじりと下がる。

渾身の力が込められたそれを、力を抜いて受け流した。

相手の懐に入った勢いで、わき腹を貫いた。

獣のような絶叫を上げた男を、走り寄って来る相手に向けて、蹴り倒す。

倒れてくる相手を受け止め損ねて、足をもつれさせるのをリベアは眼の端に捕らえただけだ。

そのまま、路地の出口へと身を翻すと、リベアの後を男たちが追ってきた。

出た場所に待ち構えていたのは、十名ほどの近衛騎士団の連中だった。

路地へと走りこもうとした、男たちの前に、リベアが立つ。

一斉に剣のぶつかり合う音が響いた。


「良く解かりましたね」

「何、お前が遅いとマーロウが窓から見ていてな。いきなり、抜刀して路地へ駆け戻ったというから、何かあったと思うだろう?」

リベアの肩を痛いほどの力で叩いたのは、マーロウの父親・近衛騎士団隊長バースだ。巨漢に相応しい厚刃の剣は血で濡れていた。

襲ってきた十数人は殆どが動けないくらいの重症を負っている。最初にリベアが斬りつけた二人も、路地を出た辺りでうめいているのを、近衛騎士が引きずってきた。

動けない程度に剣を振るうのは、実のところ、キツい。第一騎士団は、魔物相手のために、殺すことを目的とした剣だ。

そういった戦い方を叩き込まれている身には、近衛のような敵を動けなくする『騎士』としての戦い方は出来ないといってもいい。

マーロウもそれを知っているから、第一騎士団のリベアの隊を率いてくるのではなく、父親に助けを求めたのだろう。

それに、職務的にも近衛が出てくるのが正しい。

「リベアさまッ、ご無事ですか?」

門をくぐると、マーロウが必死の形相で走ってくるのにぶつかった。

「ああ。心配を掛けた」

「一体、何が」

「それはこれからの近衛の仕事だろう」

被害者として事情は聞かれるだろうが、襲われた意味が判らない。

キナ臭い事情なら、山のように転がっている。叩けば埃の出る身とは良く云ったものだ。

「やはり、あのことだけでも父には話した方が」

マーロウが囁いたのは、王の言付けのことだろう。だが、バースに話すのは最後の手段だ。

リベアは黙って首を振った。


「ロゼン家?」

リベアが己の身が危うかった原因を聞いたのは、翌日の夜になってからだ。

「アルセリアの有力貴族で、ゼルダム陛下の愛妾の家だ」

リベアとしては、王の跡継ぎ騒動の一環だろうと思っていた。キナ臭い頼まれごとの所為で、自分の周囲は疑われても仕方の無いことだらけだ。出てくるのは、陛下の愛妾の家か、側室候補の実家あたりと見当をつけていたのだが。

何故に隣国の貴族に命を狙われるのかが、まったく解からない。

「これ以上の調べは、こちらでは無理だ。今、ゼルダム王に密使を立てている。お前が狙われたのであれば、力を貸してくれるだろう」

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