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水の魔方陣・焔の剣<R15版>  作者: 真名あきら
水の魔方陣・焔の剣
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水の魔方陣・焔の剣<4>

皇女・レイシアの茶会に呼ばれたのは、昼過ぎのことだった。

あれから、数日が過ぎていたが、何と無しにリベアは自分が遠巻きにされているのを感じていた。

だが、元々、城下に長居する気など無いリベアには、あまり関係が無い。未だに上司に呼び出される様子の無いということは、首になる心配は無さそうだ。

どっちみち、明日には自分は国境の警備に戻る。



「リベア、すごいわ。誰の騎士になったの?」

だから、お茶の用意をする為に、侍女が下がったのを待ちかねたように、レイシアが勢い込んで聞いてきたときも、何のことだと首を傾げずにはいられなかった。

「そうだよ。私にも、レイシアにも内緒だなんて水臭いじゃないか」

幼いとは云え、皇女も輿入れを望まれる歳だ。そうなってからは、ちいさな皇女のお付をしていた頃からの馴染みではあるものの、皇女と会うときには、誰か付き添うことになっている。だが、今日はレイシア姫の兄皇子・レイディエが一緒だった。

元々、幼い弟や妹の面倒を見ることの多かったリベアは、最初に離宮の門番だったころにこの兄妹の我侭を乳母よりも上手にいなしていたのだ。

もちろん、身分の違いはわきまえてはいるが、それでもこの兄妹を護る騎士でいることが、リベアの誇りなのだ。

その自分が、一体今更、他の誰の騎士になるというのだろう。

「皇女、皇子。おっしゃっている意味が解らないのですが……」

「ひどいわ。リベアは! 私にも内緒だと云うの?」

リベアが云い終わらないうちに、レイシア姫が抗議の声を上げる。

「リベア。じゃ、私にはいいよね? 男同士なんだから」

からかう口調でレイディエ皇子が後を続けるが、リベアにはまったく何のことか解らなかった。

「一体、どんな魔術師がリベアの守護に就いたんだ? 契りはもう結んだのかい? どんな美女だった?」

好奇心を隠し切れない様子で、若い皇子は瞳を輝かせたが、リベアは大慌てだ。

「あ、あの皇子。一体、何処でそんな話が……」

リベアの慌てようを見て、さすがに皇子と皇女が顔を見合わせる。身分は違っても兄のように慕った人の慌てぶりは、尋常では無かった。

「もしかして、リベアは知らずに受け取ったの?」

可能性としてはありえない話ではない。リベアは平民で城下の出ではない為、自分たちの間では常識になっていることを知らないことは、ままあった。

「その指輪。魔術師の守護の指輪だよ」

皇子の言葉に、リベアは、数日前から自分の指に嵌っている古ぼけた指輪をじっと見下ろしてしまった。




リベアの刀が襲い掛かる魔物を刺し貫く。

暗い森の中に、リベアが振るう剣の煌きだけが光る。

幾多の魔物がリベアの厚刃の刀に屠られて行った。

「戦い方も慣れてきたな」

森の中へ入って数日が過ぎている。息つく暇も無くと云う程では無いにしても、襲い掛かる火の粉は確実に増えている。

それこそが、目的地に近づいていることを示していた。

「お前が結界を張ってるからだろう。何も気にしなくていい」

リベアの後ろで、ただ見ているだけと云う風を装いながら、ソルフェースがさりげなく結界を張っているのは、解っている。

魔物退治を主にする、第一騎士団の連中とは違い、地味な国境の砦を護る為の戦闘の経験しか無いリベアには、人間相手では無い戦いの知識等無い。

だが、騎士団の中で聞きかじった話くらいは知っている。魔物の体液が人間にはあまり良くない場合もあることも。

それを避ける器用な戦い方を学んだ訳でも無い自分が、身体に一滴の返り血も浴びていないのは、おそらくは後ろのソルフェースの所為だ。

「蒼の魔術師――――。何故、付いてきた?」

「契約を果たしてもらう為だ。お前は俺のなんだ。粗末にされては困る」

確かに自分を好きにしてもいいとは云ったが、数度も関係を持てば、ソルフェースが飽きると踏んでのことだ。

それが、半年以上過ぎた今も、ソルフェースは自分を求めてくる。どころか、勝手に『守護の指輪』をはめ、契約を交わしてしまった。

リベアに何事かが起これば、それはすぐにソルフェースに伝わり、その真名を呼べば、リベアを護る為に、比喩ではなく時空を超えて駆けつける。

魔術師の守護を得るとはそう云うことだ。魔術師の真名は絶対的な服従を得ることが出来る証明なのだ。

それを知っているからこそ、リベアはあえてソルフェースの名を呼ぶことを避けていた。


「水の匂いがする。その先に泉があるな」

「じゃ、水の補給をして、野営の準備だ」

ソルフェースが鼻を鳴らすのに、そっけなくリベアが応じた。只でさえ魔物の横行するこの森の奥で、夜に行動するのは馬鹿のすることだ。

熟睡出来る訳では無いが、横になって身体を休めるだけでも違う。

そっと周りをうかがいながら、泉に近づいた。

生き物である限りは水を必要とする。魔物がいるとは云え、獣のたぐいがまったくいない訳では無い。そういう獣たちにとって、泉は理想的な狩場だ。獲物になりたくなければ、用心しすぎることは無い。


「人の声がする」

「こんなところで? 馬鹿な」

ソルフェースの言葉に、反射的にそう返したものの、確かに人の声らしきものが漏れてくる。

ソルフェースが唇を塞ぐように、リベアの唇に人差し指を当てた。

――――誰だ?

目線で問う。

そこに居たのは、二人の男だ。

二人ともが身分の高そうな騎士だ。旅装は重厚な絹のものだし、腰の剣も立派な造りのものだ。

だが、この身分ならば付いてきて当然のお供らしい人間がいないのが気になる。いかにも訳有りというのがリベアにも見て取れた。

「ネイ。すまんな。こんなところまで付き合わせて」

「構わんさ。お前がはじめて本気で惚れた女の為だ」

「ネイ。ありがとう」

二人の騎士は話をしながら、水を汲んでいる。

話の内容からは、魔物とは思えない。だが、王宮で見知った顔では無かった。王宮に顔を出さない騎士も存在するが、それは勝手の許されるまだ若い騎士だ。

目の前の二人は、男として成熟した大人の男だ。旅装も異国風であることを見ると、おそらく異国の身分の高い騎士に違いない。

ただ、今現在、このティアンナは城下に魔物が現れ、皇女は囚われの身だ。そんな中で異国の旅人が、国境の森に危険を犯して入り込むことの意味を考えると、リベアは平静ではいられなかった。

只でさえ、皇女がさらわれ、魔物が現れたことで浮き足立っている。そこに目を付けられたら、小なりと云え独立を保ってきたアルセリアは、あっと云う間に瓦解してしまう。

リベアはぐっと剣を握り締めた。

――――間者か。密使か。どっちだ?

目線でソルフェースに訴えかけるが、ソルフェースは視線を受け止め、うなずくのみだ。

リベアに従うと、瞳は雄弁に物語る。

自分に殺気を向けて来ない人間を斬るのは初めてだ。

リベアは知らず、緊張に乾いた唇を舌で湿らせる。

ぐっと剣を握り締め、リベアはその男の前に躍り出た。

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