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王者の後継<4>

手元のベルを鳴らすと、侍女が現れた。

「サリオを呼べ」

威厳のある命令に侍女はすぐに従い、程なくして聡明そうな少年がひょこっと顔を出す。

「おばあさま。御用ですか?」

幼い外見の割にはしっかりとした言葉遣いと控えめな態度。

「サリオ、ここへおいで」

「はい」

ちょこんとルセレの横に腰掛けたサリオは、興味深々な視線をリベアに投げ掛けてくる。

「レイサリオと云う。私の娘の産んだ子だ」

皇子と皇女の乳母であったということは、皇子たちと同じ年の子供がいるということだ。

幼かったレイシアももうすでに人の子の母である。ルセレに孫がいるのは珍しくもなんとも無い。

「これの行く末をお前に頼みたい」

「ルセレ殿?」

思わず、まじまじとレイサリオの上から下まで眺めてしまったリベアだ。

年のころはやっと十になるやならずというところか。金の髪はさらさらとして癖が無い。瞳は紫紺。魔術師の証だ。

「サリオ。リベア・コントラだ」

「水竜の騎士さま? ホントに?」

きらきらと少年らしい憧憬の視線を投げ掛けてくるレイサリオに、リベアは苦笑した。いつまでもこの調子ではかなわない。

「ええ。リベアと呼んでください」

「はい!」

元気の良い返事だ。そして、目を逸らすことが無い。素直でとても良い子だ。

「ルセレ殿。行く末と云われたが」

リベアは改めてルセレに向き直る。

「お前の考えで良い様にしてほしい」

「しかし、魔術師の証が…」

「お前が魔術師になれというのなら、魔術の道にすすませてもかまわぬ。最低限の護りを付けさせて、騎士として育てても良い。私からの預かり物だと云うのは忘れてもろうていい」

「私が育ててかまわぬと?」

リベアの問い掛けにルセレがにこりと柔らかく笑った。

「信頼しておるよ。お前は何一つ間違わなかった。その手に余るものは何も欲しがらぬ」

それはリベアが身の程を知っていたからでは無いのだろうか。リベアは自分が小心者であることを知っている。背伸びして掴んだものは、いずれ疲れて手放してしまうものだ。

「サリオ。お前は今日からリベアの元へ行くがいい。リベアの云うことを聞いて、よう努めるようにの」

「はい。おばあさま」

「これの出自は内密にの。娘は日陰の身じゃ。これだけでも日のあたる場所に置きたい。婆の願いよ」

唇に人差し指を立てたルセレの仕草に、リベアはうなずくしか出来なかった。



「ルセレ殿の孫、ですか?」

「せっかくの魔術師の素養を持つ子だ。蒼に預けたら、育ててみたいと云われた。本人も嫌がらなかったし」

ルセレには内密にとは云われたが、ソルフェースとマーロウは最低限巻き込む羽目になる。それを黙っていることは不可能だし、危険にさらす可能性もあった。

しばらく黙っていたマーロウがおもむろに口を開く。

「きな臭い話だとはお思いになりませんか?」

「多分、な」

おそらく、レイサリオの父親は十中八九王族関係だと思って良いだろう。リベアに預けられた小箱の中身はそれを証明するものだ。

それなら符丁が合う。

王がわざわざ届けたものを付き返したルセレの本心は解からないが、あのままあの子を華離宮に置いておくのは危険だったに違いない。

「王族に連なるものなら、魔術師なのもうなずける」

王族にはしばしば魔術師が出現する。現在、西の宮にいる魔術師・碧のアデレードは、先々王の姫であり、現王の叔母にあたるし、四代前の王家の女騎士と契りを結んだ魔術師は、女騎士の従兄弟だったと伝えられている。

「やっかいなことになりますよ」

「そのときはバース隊長にも出張っていただこう」

マーロウの忠告は痛み入るが、これ以上の選択肢はリベアには無い。元々、バースが持ち込んできた話だ。

それに、ここは第一騎士団と近衛騎士団が双方住まう塔なのだ。

何かあれば近衛の隊長であるバースと、自分の上官であるマキアス隊長に話を持ち込まない訳にはいかない。

「こんなときに藍の魔術師が帰ってきたなんて、嫌な予感がします」

「そういえば」

藍の魔術師の噂がまだだったとリベアは思い出す。

「どういうことなんだ?」

「正確に云うと、前・藍の魔術師ですが、殺されたのではないかと…」

「殺された?」

魔術師を殺すことが出来るような人間はいない。同格以上の魔術師か、魔術の隙を付くか。それとも…。

考えてリベアはぶるりと震えた。

それは根源的な恐怖だ。人が魔術師に逆らうなど。

「あり得ない」

「そうですね。でも、藍の魔術師の場合はあり得るかもしれないと云われました」

王宮魔術師の称号は与えてはいるが、蒼の魔術師の立場は他の魔術師たちと少し異なっていた。何故なら、四代前の国王・ゾルレイが皇子時代に雇った個人的な契約の元で動く、国王の私的な魔術師だったからだ。

蒼の魔術師の見せる強力な魔術を王宮は惜しんだが、何時去られるかもしれないという脅威はもっていた。そこで王宮側は幾人もの魔術の継承者を蒼の下へ送り込む。

一時期、蒼の魔術師のための離宮が必要なのではないかと噂されるほどに、大勢の継承者で西の宮は騒がしかったのだ。

だが、力の継承の出来るほどの魔力の持ち主は、中々育たなかった。

しかも、どの魔術師も短命だったのだ。

その中で一番長生きをしたのはカイリィアだったのだが、カイリィアの力はあまりにも弱かった。

カイリィアが使える魔術は守護の結界と、外傷の癒し程度だった。

そのため、王宮からは軽んじられ、ソルフェースからは疎んじられた。

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