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番外【出会い】

腰を落とした男が、両の手を添えた厚刃の剣を振り上げる。

小柄な身体には重い筈のそれに、体重を全て乗せて振り切った。

おそらくは、その身体の力を甘く見ていた相手は、受け止めきれずにたたらを踏む自分自身に驚愕する。

何とか留まりはしたものの、押され気味だ。

だが、体格の差は歴然としている。

特に大柄な相手に、一回り以上も小柄な男が、そのまま力で押し切れる筈など無い。

ふいに、男の身体が沈んだ。

次の瞬間、大柄な相手の身体がもんどりうって倒れる。

足をなぎ払われたのだと、周囲が認識した時には、小柄な男の身体が倒れた男の上にあった。

男の厚刃の剣が、思い切り良く振り下ろされる。

歴戦の勇士である大柄な相手も、思わず硬直した。

首筋、ギリギリを掠めて、男の刃が地面に突き立つ。

「ま、いった…」

切れた息を吐き出すように、降参を告げると、小柄な男の厳しい顔が、晴れやかに笑った。



「リベア! すごいわ」

勝者の小柄な男に、皇女・レイシアが声を掛ける。

すると、男が照れた様に視線をさまよわせ、ぺこりと頭を下げた。

一年に一度開かれる御前試合である。

皇女や皇子が観戦するのは当たり前だ。

それを護る意味で、魔術師たちも数名観戦を行う。特に、今日は近衛騎士たちも当然、試合に出場しているのだ。

「レイシア皇女。お知り合いですか?」

身を屈めて、レイシアに問い掛けたのは、長身の優美な姿の魔術師である。

「ええ。リベアは離宮で私たちの面倒を見てくれた人よ」

つまり、離宮で働いていた騎士ということだろう。魔術師は秀麗な顔を向け、すがめるように男を見た。


実直で真面目なだけが取得のような男。

兵士にしては、小柄な身体と、その身体には不似合いな、重みのある厚刃の剣。

だが、それを逆手に取った、重い剣の反動に全体重を乗せる戦い方。

決して、洗練されたものとは云えない。どころか、その粗野な容姿を際立たせるような戦い方なのに。


目が離せない――――。


そんなに夢中になってみていたつもりは無いのに、レイシアが声を上げるまで、見つめていたことすら気付かなかった。

厳しい顔が、晴れやかに笑った瞬間の表情は、まるで少年のようだ。



皇女のそばを通り過ぎるとき、男――リベアは律儀に皇女と皇子、そして魔術師たちにも頭を下げる。

それを見送りながら、魔術師は唇の中で呪言を唱えた。


ほんの少しの悪戯だ。

もう一度会う為に。

今夜、月が男を誘い出す。

そのとき、自分はどうするつもりなのか。

魔術師自身にさえ判らなかった。



<おわり>

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