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騎士の誓い<9>

「リベア様。お帰りなさいませ」

与えられた客室に戻ると、待っていたのはマーロウである。

「マーロウ、もういいから下がれ。お前も疲れただろう?」

「もう、僕たち見習いは、充分にゆっくりしましたよ。リベア様こそ、晩餐や会見で落ち着かれなかったでしょう?」

マーロウは大人びた笑みで微笑むと、リベアの前に冷たい水を置いた。

「ああいう席は、俺たちのような貧乏人には似合わん席だな。食事も豪華すぎて、味も判らん」

「そんなことだと思いました。鶏肉のスープと、パンを用意してありますが」

リベアは元々、簡素な食卓を好む。案の丈、リベアは目を輝かせた。豪華すぎる食卓に少し食傷気味だったのだ。

「侍女もこちらで断りました。僕が世話係なのでと云って」

「マーロウ。本当に気が利くよ、お前は。感謝する」

リベアはほうっと息を吐いた。この上、侍女などに世話を焼かれては、旅の疲れを落とすどころの騒ぎではない。

リベアは心底ほっとした。

「今日は、本当に世話を掛けたな。もう休んでいいぞ」

「あ、はい。ありがとうございます。申し訳ありませんが、ここで休ませていただきます」

ここで。という言葉に違和感を感じて顔を上げると、部屋の片隅に、木製のベッドが運び込まれているのに気付いた。

きちんと服をたたみ、リベアに頭を下げると、マーロウはベッドへ潜り込んで、すぐに安らかな寝息を立て始める。

実家にいる頃は、四人の兄弟たちが狭い部屋に枕を並べていたので、人の気配がするのは気にならない。無論、いびきや歯軋りで眠れないなどという、繊細さも無い。

ただ、何かから護る様なマーロウの態度が気に掛かった。

本当に、この城での居心地を心配してくれているのなら、いいのだが。

マーロウの父親は、近衛騎士団の隊長だ。代々の隊長職を務める、いわばエリートで、第一騎士団への配属も、早くに決まっていた。

だが、当人はリベアを尊敬していて、国境騎士団へ配属の希望を出していたという変り者だ。

もっとも、それは周囲からのプレッシャーに対する反抗であったかもしれないが。



ゆっくりとリベアは目を覚ました。

朝の光が、柔らかいベッドに光を投げかけている。

入り口では、既に起きていたマーロウが侍女を追い払っているところだ。

「どうした? マーロウ?」

「リベア様。おはようございます。朝のお仕度のお手伝いに参りました」

リベアの顔を見た侍女が、追い払われてなるものかと微笑んだ。中々の美女だ。化粧も控えめで声の感じも良い。

だが、リベアにはため息が出るものでしか無かった。

田舎の猟師の息子であったリベアには、朝の仕度に人の手を使うなど、馬鹿馬鹿しいことでしかない。マーロウが独り立ちして、やっとそれから逃れられると思ったのに、侍女などつけられては、リベアにとっては迷惑でしかなかった。

「すまないが」

「リベア様のお世話は、従卒の私がやることになっておりますので。どうぞ、お下がりください」

頭を下げようとするリベアを制して、早口でマーロウが述べる。騎士自身にそこまで云われては、侍女としては引き下がらざるを得ない。

不承不承であるが、頭を下げて帰っていった。

「昨夜からあの調子です」

「なるほど」

マーロウが泊まってくれていて助かったという訳だ。

「隣国の高名な騎士、しかも自国の王と同じ魔封じの剣をもった独身の騎士だというので、昨日から、侍女の間では誰がお世話するかと色めきたっているようですよ」

ついでに好感をもってもらって、出来れば、奥方にでも納まりたいのが、彼女たちの目的であろうことは、誰の目にも明白だった。

「俺に妻帯は出来んぞ」

契約の指輪の主が、リベアが一生を共にする相手であることは、ティアンナの国内では知られている。しかも、相手は神竜だ。並みの魔術師ならば、相手が死んだ後を狙うのもありだろうが、神竜ではそれも期待出来ない。

「契約の指輪の件は、他国では知られていないようですから」

「俺の契約に関しては、なるべく知らぬフリだったからな」

リベアが皇女を救って戻ってきたとき、城下の人々は結界がやぶられたことで、魔術師への不安を募らせていた。そんなときに英雄になったのがリベアだ。

魔術師の加護など、知らぬ存ぜぬで済ませようと云う王宮側の意図は見え見えだった。

「まぁ、アイツが相手じゃ、他は無理だ」

「そうですね」

マーロウの応えは、おそらく、神竜が相手では無理だと云われた物であろう。

だが、リベアは自分の考えを見透かされたかのように、ぎくりとしてしまった。

何故なら、そのとき、リベアの脳裏に浮かんでいたのは、長い髪に紫紺の瞳・男にしては秀麗過ぎる顔の魔術師の、意地の悪い笑いだったのだから。

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