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騎士の誓い<4>

それが聞こえたのかどうか、リベアが振り向き様に後ろの二匹を切り倒す。

リベアの身体に、濁った色の魔物の返り血が降り注ぐ。

それさえも構わず、リベアは、じっと前を見つめていた。

リベアの足元のぬかるみが、揺らめいたかと思うと、ぬっと腕が突き出る。

そこを飛びのいたリベアが、低い体勢で剣をなぎ払う。その場に突き出た数本の腕が切り捨てられ、宙を飛んだ。

腕を切り捨てられた魔物たちが、ぬかるみから現れる。その数匹を睨めつけたリベアの足が、一歩前へと出た。

じりっと前へと出たリベアの手には、隙無く構えられた一振りの剣。焔の剣は、淡く焔を纏っているかのような紅いオーラが揺らめく。

一歩、リベアが前へ出ると、一歩魔物たちが下がった。

一歩出ると、もう一歩。

にらみ合いが続く。

均衡に耐えかねた魔物が一匹、リベアに襲い掛かった。

一歩も動かず、その場にとどまったリベアの剣が、魔物を刺し貫く。

刺し貫いたままの姿勢で、リベアが固まった。刺し貫かれた魔物が、そのまま、リベアの剣を抑えている。

リベアが抜こうとしても、それをさせない気だ。リベアが大きく舌打ちをした。

リベアの背後から数匹の魔物が一度に襲い掛かる。

それに気付いたラフが、周囲の兵に合図をして走り寄ってきた。

だが、今一歩のところで及ばないように見えた時、リベアの手にした、剣が焔に包まれる。

剣の触れた場所から、魔物の手がどろりと溶けた。

そのまま、横殴りに魔物の身体を引き裂き、背後まで振り切る。

目の前に迫っていた、五匹のうちの二匹が、その場に切り捨てられた。

駆けつけたラフと、ラフと組んでいた数名が、リベアと背中合わせに、構える。

「馬鹿が!」

「すまん!」

ラフの発した短い罵りに、素直にリベアは謝った。

遅れを取ったのが、リベア自身であるのは確かである。

隙無く構えながら、自分の目の前の敵を睨みつけた。後ろは気にしない。ラフの一党の腕は確かだ。

「行くぞ」

耳元に囁かれるラフの声に、リベアは無言でうなずくと、目の前の獲物へと切り掛かる。

新たな血の匂いが周囲に立ちこめた。



数十分もすると、周囲の魔物どもは、殆どが片付けられていた。

同じ特性を持つ、魔物は徒党を組んで襲ってくる。ここで一匹たりとも逃すわけには行かない。

また、何時増えて襲い掛かるか解らないからだ。

しかも、今回は人気のない場所で、地をもぐっていけば、簡単に人が襲えると示したようなものだ。

知恵のついた奴らは、やっかいだ。

残った数匹が、身を翻す。

人の足ではとても追えない。

「蒼流…」

低い声で、リベアが命じた。抜き放ったままの剣から、むくりと水竜が身を起す。

そのまま、大きさを増しながら、水竜は一直線に魔物の前へと回りこんだ。

大きく口を開けた水竜を、リベアの声が静止する。

「蒼流! 止せッ!」

その静止が届くかどうかと云う時、逃げを打った魔物の身体が真っ二つに裂ける。

返す剣で、残りの数匹も全てが切り倒され、砂のように崩れ落ちた。


その向こうに現れたのは、騎乗した、数人の騎士。

異国の衣装を身につけた、いずれも身分の高そうな騎士である。

その一人の手には、光を纏った剣が一振り。

その顔に、リベアは確かに見覚えがあった。

「ゼルダム殿?」

「久しぶりだ。リベア」

「お久しぶりです。リベア殿」

「ネイスト殿…」

馬を寄せた、もう一人も見覚えのある顔だ。

いくら、ここが国境に近いと云っても、まず、見ることなど有り得ない筈の顔。

「リベア。知り合いか? アルセリアの方のようだが」

「マキアス隊長」

リベアが戸惑っているのを察した、マキアスが助け舟を出す。

「ティアンナ第一騎士団隊長。マキアス・ドゥーズです」

いくら国境近くであろうとも、ここはまだ、ティアンナの国内だ。

身分の高い騎士のようだが、だからこそ、マキアスとしては警戒の必要がある。

侵入者を発見したらしい国境騎士団の面々も、駆けつけてきた。

「ゼルダム殿? まさか…」

口の中で名を発し、記憶を辿っていたらしいラフが、ハッと顔を上げる。

「アルセリア王・ゼルダム陛下!」

小声ではあったが、良く通る品の良いラフの声は、あたりをシンと静まり返らせるのに充分だった。

第一騎士団の全員が腰を折り、その場へと控える。侵入者だと慌てて駆けつけた国境騎士団も同じだ。

「そう、かしこまられても困る。俺はリベアの加勢に来ただけだしな。もっとも、この男には余計な世話かもしれんが」

抜き放った剣を鞘へと収めながら、豪快にゼルダムが笑った。

「相変わらず、身も省みない戦いぶりだ。おい、誰か着替えを」

「その前に何処かへ落ち着こうと云う考えは無いんですか? リベア殿だって、戸惑っておられますよ」

せっかちな王に、側近のネイストが突っ込む。

この二人も相変わらずだ。

「宜しければ、国境騎士団の守備塔はいかがでしょう。もう日も落ちました。これ以上は」

国境騎士団の中から、のんびりとした声が上がる。

確かに夜も更けてきている。これ以上無理な旅を続けねばならない理由は無かった。

「そうか。お言葉に甘えよう」

「すこしは謙譲の美徳を身につけられるのも宜しいですよ」

ゼルダムが、遠慮なく云いだすのを、ネイストが嗜めるが、どの道、うるさく云ったところで、決定事項なのは変えようが無い。

「今夜一晩、世話を掛ける。確か、トレシーオ殿だったな」

「守備塔の隊長の名まで覚えてくださって、光栄の極みですね」

あまり光栄とも思っていなさそうな、のんびりした声だ。

リベアはその声と、懐かしい名に、思わず声を上げてしまった。

「トレシーオ様!」

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