03 小さな約束と永遠の契約
私が置かれている状況に、そんな人いなかったから。逆に、そういう人が居たら良いなって夢を見て、自分もそういう人になれたら、と思っていた。それは、可笑しなことなのだろうか?私は、今までのあの狭い離れで鹿の経験しかないから、世間での”普通”が、よくわからない。だから、首を傾げた。
『……可笑しな幼子だ。』
一つ息を吐いた竜。気分を害しただろうか?嫌われただろうか?よくわからない。でも、体を横たえたままだから、この場所を離れるほど嫌ではなかったんだろうな。もう、言葉を発する気はないのだろう、それは態度で分かったから私もいそいそと寝る準備を始めた。竜と、ちょこっとだけ離れた場所で、水とパンが入ったカバンみたいなものを枕にして寝転がれば、目を伏せた。本当はワンピースを毛布にしようと思ったけど、竜の傷の手当ての時まいちゃったからもうない。寒いけど仕方がないだろう。くちゅん、とくしゃみ。肌寒いな、なんて冬はいつでも離れでやっていた、肌を擦って少しでも摩擦熱を起こして温める。そんな事をしていても、またひとつくちゅんとくしゃみ。そしたら、息を吐く音が聞こえた。何処か、人間的に言うのなら呆れを含む、それ。ぱちり、と目を開いて竜の方を見たのなら、私のすぐ近くまできて、私を暖めるように丸くなった。おろおろとしていたら、竜から声が掛かった。
『人間には寒かろう。我の肌に触れても温まる事はないだろうが、風ぐらいは防げよう。』
「……。」
『どうした。早く寝ないか。』
「……っ。」
『…何故泣く。幼子。』
「……、っだって、こんなに優しくされたこと、ないんだもん…っ。」
『…。』
「お母さんも、お父さんも、メイドさんも、私の周りの人、私の事いないものとか、イライラをぶつけるところぐらいにしか思ってないんだもん…っ。」
『…。』
「こ、こんなふうに、優しくされたこと、気遣ってもらった事無くて…、す、すっごく、う、うれし…、」
いつの間にかぼろぼろと泣いて、それでも喋っていた私の顔に、生暖かいものが触れた。それは、長い竜の舌で、少しねっとりとしたけど私はその温かさが心地よすぎて、初めての感覚で、またぼろぼろと…、いや、もうぼたぼたと涙が落ちる勢いで泣いた。