02 小さな約束と永遠の契約
持たされていたものは、今着ている物と同じぼろぼろのワンピースが一着。感謝しなさい、と恩着せがましく渡された、小さな革袋に入れられた水と、布に包んである3切れの硬いパン。夕暮れになり、空が茜色に染まってきたころに適当な切り株に腰を下ろしてパンを一切れ食べて、水で流しこむ。もっと奥にいったらなにがあるのだろう。別に狼や野良犬に殺されようと私は別にいい気がしていた。だから、躊躇いなく進んで行った。
暗くなり始めて、森に差し込む光も少なくなってきた。寒くなってきたな…。そんな事を想いながら歩いていたら、―――とても綺麗な、湖を見つけた。目を瞬かせた。こんな綺麗な物は見た事がなかった。死んでも別にいやと思っていた私は、こんな綺麗なものを見れて、初めて生きていてよかったって思えた。
近寄って湖の水を掬って一口口に含めば、何だか甘みのあるとっても美味しい水だった。嬉しくて、一杯飲んでた。
でも、ふと見たら水面が揺らいでいて。どうしたのだろうと思って顔をあげたら、どんどんと小さな揺れを感じ、湖の真ん中のあたりから――――――其処に、伝説の生き物がいた。
白銀の毛並み。この湖よりも更に深い蒼の瞳は宝石の様で。
――――――――――――本も読んだことのなかった私は、それが伝説の「竜」だとは欠片も思わず、ただただこの世界には綺麗なものが沢山あるんだな、と感動していた。
見とれていたら、ふと竜の身体に鮮血が流れている事に気づく。でも、竜はそんな事気にした様子もなく堂々とした足取りで湖の中心から此方へと向かってくる。どうしたらいいのだろうとおどおどしていた。そんな私が視界に入っていないというように横を通り過ぎ、草のシーツの上でその身を横たわらせた。
しばらく、その姿を視界に入れていた。すると、湖に入っていて気付かなかったが、竜の身体からはところどころ鮮血が流れていた。とっても痛そうだったから、もう一着持っていたワンピースを引き裂いて、縛って止血しようとした。
それまで私の事など気にもかけていなかった竜が、視線だけをこちらに寄こした。その瞳があまりにも綺麗で、私は見惚れていた。
『幼子。何故我に構う?』
頭に、直接響いてくる様なその声。吃驚して、何処からの、誰の声なのかきょろきょろしてしまった。
『…目の前に、我が居るであろう。』
呆れたような声と、じっとこちらを見て来る瞳。
それでようやく、この竜が私に話しかけているんだって分かった。
「え…、っと、痛そうだったから…。」
『から?』
「え、え、?」
『痛そうだったから、なんだというんだ。』
「だって…、痛そうだったら、助けてあげたいと、思うものじゃない、の…?」
私は、逆の立場だったら、助けてほしいと思う。それに、痛そうにしている人が居たら、和らげてあげたいと思う。私に出来る事なんて少ししかないけど、少しの救いにもならないかもしれないけど。