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◇お姉様争奪戦(エリザベス視点)【後編】

後編です。

お楽しみいただけますと幸いです。

 席に座ったばかりのこの状況での予期しないノックに思わず身構えてしまう。


(まさかお母様!? 早過ぎでは!?)


「は、はい」


 返事をした途端、扉が両開きに一気に開いて、そこから思った通りお母様が現れた。

 いつもよりも少し控えめではあるものの、豪奢なデイドレスを纏い、後ろには家令をはじめ、数名の使用人を引き連れている。

 その仰々しさに、少し頭が痛くなってきた。


「お、お母様……まだお茶会は始まっておりませんわ」


 お母様の登場に、お姉様が心配になり慌てて後ろを振りむくと、慌てるでもなく、あくまでも優雅に立ち上がるお姉様のお姿が見えた。


「ご挨拶が遅くなってしまい、申し訳ありません。シェラード公爵夫人。ベイリー子爵家長女、カトリーナと申します。お会いできて光栄です」


 お手本のような挨拶を述べながら、美しいカーテシーをする。

 しかもそのお辞儀の仕草や角度、裾の持ち方などは、貴族の中でも最高位である公爵夫人相手に行うのに正しい作法で、洗練された動きに思わず見とれそうになってしまう。


「素晴らしいご挨拶ですね。こちらこそ、いつも息子たちがお世話になっているようで。お会いできて嬉しいですわ、カトリーナ嬢」

「お二人には、私のほうがいつもお世話になってしまって……ありがとうございます」


「これからもよろしくお願いしますわね。わたくしはこのあと予定があってお茶会には参加できないのだけれど、楽しんでいってちょうだい」

「はい。ありがとうございます」

「それでは、失礼しますわ」


 お母様が出ていくのに合わせて、お姉様がまた美しいお辞儀をする。

 そのお姿が本当に美しくて……いったいどうやったらその角度をずっと微動だにせず維持できるのかと、不躾にもじっと見つめてしまう。

 すると、お兄様が「エリー」とこっそり声を掛け、現実に戻してくれる。


「で、では、お茶会を始めましょうか」


 お姉様に着席を促し、わたくしはお姉様の向かいに、少し離れた席にお兄様が座る。

 よくよく見ると、お兄様の位置はお姉様を見るベストポジション。

 侍従たちはさりげなく置いていたにもかかわらず、ちゃんと計算された席で少し引きそうになる。


(さっきは助けていただきましたけれど、やっぱりお兄様ってば、ちゃっかりご自分が最高の位置に陣取るなんて……!! いえ、お兄様を気にしちゃダメよ! 目の前にお姉様がいるのですもの! やっと、やっとわたくしに巡ってきた、お姉様とお話しできるチャンスなのよ!!)


 そう気持ちを切り替えてお姉様を見ると、テーブルの上に置かれたスコーンやケーキ、クッキーなどの焼き菓子を、お姉様がとても嬉しそうに見ている。

 お母様との挨拶の時の凛とした雰囲気とは打って変わって、とても愛らしい。


「お好きに召し上がってくださいませ。お姉様のお好きそうなものを作らせましたの。もし他にお好きなものなどございましたら、用意させますので、おっしゃってくださいね」

「まあ、ありがとうございます。ですが、ここにあるお菓子だけで十分ですわ。むしろ、どれを食べるか迷ってしまって大変です」


 そう言って微笑むお姉様が可愛い。


(聡明でお美しいだけじゃなく、こんなにもお可愛らしいだなんて……今までは近づくことがかないませんでしたから、まさかこんな一面もお持ちだなんて。知りませんでしたわ……!! どうしましょう!? あまりのお可愛らしさに思わずときめいてしまいそうですわ!? ですが、この動揺がお姉様にバレるわけにはまいりません! 今を楽しみたければ、心をぐっと抑えるのです! エリー、頑張るのよ!!)

 

 必死に平静を装い、まずはお姉様が歓迎会で気に入ってくださった我が家の紅茶をお出しする。

 給仕がポットを持ってきた途端、お姉様が嬉しそうに目を見開いた。


「この香りは……!」

「そうですわ。先日の歓迎会でお姉様が気に入ってくださった我が家の紅茶です。蜂蜜を入れても美味しいので、ぜひお試しくださいませ」


 そう言って勧めると、お姉様は蜂蜜の入った瓶を取り、少しだけ絡ませてから紅茶に落とした。

 飲んだ表情を見るだけで、気に入ってくださったことがわかる。


「これは……美味しいですね!」

「気に入っていただけたようで、何よりです。このケーキも合いますので、ぜひ」


 嬉しそうに笑顔を向けながら、お姉様がケーキに手を伸ばす。

 ところがその手が突然ピタリと止まった。


「そういえば、エリザベス様。以前お会いした際にもお聞きして途中になってしまっていたのですが、なぜ私のことを『お姉様』とお呼びに――」


 わたくしへのお姉様の質問を阻むかのように、なぜか突然お兄様がこちらのテーブルに手を添え、しかももう片方の手には、今しがたわたくしがお姉様に勧めたケーキをお皿に載せている。


「「え……?」」


 わたくしとお姉様の声が重なる。


「カトリーナ嬢、このケーキは甘いものがそこまで得意ではない私でも好きなほど美味しいので、ぜひ食べていただきたかったのです」


 そう言って、お兄様はなぜかフォークでケーキを切り始める。


(え!? まさかお兄様!?!?)


 切り分けたケーキの一口分をお姉様の目の前に差し出した。


「お兄様、何を!?」

「さあ、カトリーナ嬢。口を開けて?」

「え!? あの……」


「ほら、早くしないと落ちてしまいますから」

「え? ちょっ……あ」


 ふいにお姉様が開けた口に、お兄様がフォークのケーキを入れ込んだ。


「お、お兄様!? 何をなさるのです!? 破廉恥ですわよ!!! お姉様が困っているじゃありませんか!」

「……カトリーナ嬢、困らせてしまいましたか?」


 口にケーキを含んだまま、答えられないお姉様は、困惑した様子でわたくしのほうを見る。

 けれど、そのお顔は真っ赤で、困っているというよりは照れているというほうが正しいかもしれない。


(すっかりお兄様に騙されていますわ!? ですが……ここでお兄様が嫌われてしまっては、わたくしはよりお姉様に近づけなくなってしまいます!!)


 悩んだ挙句、嬉しそうなお兄様と一緒に、赤面するお姉様を見守ることしかできなかった。


(ですが、真っ赤になっているお姉様も本当にお可愛らしかったですわ……)



 その後、お姉様とお兄様がどうなってしまったかはわからないけれど、メント茶のおかげで時々お姉様は我が家のお茶会にも参加してくださるようになった。

 このままお兄様が上手く外堀を埋めていければ、近い将来、『お義姉様』と呼べる日が来るのかもしれない。

お読みいただきありがとうございました。

お茶会のエリザベス視点、前後編でした。

シェラード公爵家はみんなキャラが濃い設定になってしまい、本編では出さないようにするのに苦労しました。

このお母様は元王女様なのですが、旦那様に一目ぼれした王女様が政略結婚は嫌で恋愛結婚をしたいとお忍びで恋愛になるように工作したり……色々あったお二人です。(いつかこの話も書いてみたいと思っています)


ひとまず、現状は「ヒロインごっこはここまでよ」はこちらで完結になります。

もしよければ、リアクションや下の☆☆☆☆☆にて評価していただけると大変励みになります。


次の新作も近日中に投稿開始予定です。

引き続きどうぞよろしくお願いいたします。

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