前編
「私は今ここで、ステラ・ベルン公爵令嬢との婚約を破棄する!」
ああ、どうしてこうなってしまったのでしょか?
「そして、エミリア・ベルン公爵令嬢との新たな婚約を発表する!」
昔から沢山のものを妹に取られてきた。
大好きだった乳母は妹のわがままで解雇され、会うことは許されなかった。
乳母が似合うと褒めてくれた大切な髪飾りも、作ってくれたぬいぐるみも、全て妹に奪われた。
小規模ながら家族が唯一関心を示してくれていた私の誕生日会も、最後に行ったのはいつだったか覚えていない。
最後には、私の婚約者さえも、妹は奪っていってしまった。
「お姉様、私もう耐えられませんわ!」
「次期王妃である彼女に対する数々の嫌がらせ、見過ごすことはできん!よって、お前は国外追放に処す!二度とこの国に立ち入ることは許さない!」
そうして、私は着の身着のまま王国騎士に投げ捨てられるように国境の森に置いていかれた。
「このまま、死ぬのかしら・・・」
国境の森には、野生動物も多く住んでいる。
森から出れば、隣国のセレスティアルに行くことができる。
だが、貴国は私が生まれ育った国を良く思っていない。
なぜなら、私たちの国が度々戦争をふっかけ、国土拡大を測っていた歴史があるから。
私たちのような小国がなぜセレスティアルという大陸位置の大国に勝負をふっかけていたのかは本当に謎だが、王家は少々馬鹿だから、仕方ない。
「国同士、交流がないなら、何とかなるかしら・・・」
セレスティアル以外の周辺国は、それなりに友好関係が出来上がっており、王太子妃としてよく社交界にも顔を出していたので、すぐにバレてしまう。
でも、セレスティアルには私の顔は広がっていない。
なら、平民として堅実に生きることもできるのかもしれない。
公爵家に生まれはしたが、令嬢とは名ばかりで、家の中では面倒事は全て押し付けられ、使用人のように働いていた。
なら、それを活かして平民としても何とかやって行けるのではないか。
真っ暗闇だった未来に、一筋の光が入ったように感じた。
◇◇◇
「いらっしゃいませ!」
高い位置で1本にまとめた夜空色の髪を揺らしながら、お店に入ってきたお客様を出迎える。
生まれ育った国を追放されてから早1ヶ月。
セレスティアルに移動してきて、国境付近の街で住込み可の求人につられて応募してみたら見事に雇って貰えた。
初めは慣れないことも多かったけど、食堂の女将さんも料理長も優しくて、何とかひとりで仕事をこなせるようになってきた。
「ステラちゃん!もうすっかり看板娘じゃないかい!」
「そんな!まだまだ精進していきますよ!」
常連のシャムじぃにからかわれながら、料理を運んでいく。
初めは2枚が限界だったのに、今では3、4枚平気で持てるようになった。
「そういえば、聞いたかい??王都ではお妃選定が始まったらしいぞ」
「ということは、みちしるべが来たんだな」
「お妃選定?みちしるべって何?」
この国には妃がいない状態が続いていたと言うこと?
「王太子様の妃選びさ!」
どうやら、次期王妃の選定らしい。
「でも、婚約者とかがいるのではないの?」
自国も含め、周辺国は昔から婚約者を決め、その娘に王妃教育を長期間に渡って行っているのが通例だ。
そうじゃないと教育が間に合わない。
「この国の王妃様は、代々星のみちしるべによって定められるんだ。だが、それは個人を特定して指すものじゃない。我らが敬愛する王太子様にふさわしい妃が現れた時にみちしるべは現れる」
「だが、みちしるべが現れたからってすぐに妃が決まる訳じゃない。過去には、1週間で決まったこともあるが、見つかるまでに5年以上かかったという話もあるくらいだからな」
常連たちが知っていることを口々に教えてくれる。
「これは御伽噺として子供の頃から聞かされてる話だけどなぁ」
「おいこら、ステラちゃんに親の話すんな!」
「あぁ、すまん」
なるほどと思いながら、なんとも言えず、苦笑を返す。
私はここにお世話になる時に、
「親に捨てられて追い出されてしまったから働き口と宿を探している」
と伝えていた。
少し深めに聞かれたけど、「小さい頃からずっと嫌われて冷遇されていて」と、答えた。
嘘はついていない。
実際、親から愛された記憶はないし、国からも追い出されてるので。
それをなんとなく知ってる常連の人達は私に家族関連の話や質問は禁句だと思ってる。
まぁ、どちらかといえば聞かないでいてくれる方がありがたいので訂正をしない。
「だが、聞いた話によると、みちしるべがあったのは1ヶ月前の事らしいぞ」
「まぁ、こんな辺鄙な街に1ヶ月で届いただけでも褒めるべきだろう」
王都から私がいる街までは魔物の森に阻まれるため、迂回して色々な街を経由し、3ヶ月ほどかかってしまうらしい。
「この王国って本当に広いのね」
自分の祖国を思い出し、国を回るなら1ヶ月あれば回れる事実にセレスティアルの大きさに感動する。
「お金を貯めて色々なところを旅行してみるのもありかもしれない」
そんなことを笑いながら呟けば、常連たちが「出て行っちゃうのかい!?」と口を揃えて言うものだから面白くなって笑う。
「あんたたち、ステラにちょっかいかけるなら頼むもんは頼んでいくんだよ」
「女将!」
「んな事わかってんよ!サンドイッチくれ!」
「じゃあ俺はチキンかな」
奥から出てきた女将さんの言葉に、みんな食べたいものを叫んでいく。
それを聞いた女将さんは「まいどあり」と笑顔で厨房に入っていった。
「ま、みんなステラちゃんが好きだから、旅行に出るなら一言声かけてからにしてくれよな」
近くに座ってるおじいちゃんにそう言われ、私は笑顔で「もちろん!」と返した




