ヨークの遺産と白銀の少女~砂漠の秘密箱~
「あのどっかの異国にある王族のような声!女慣れしてそうな所はちょっとあれだけど、素敵過ぎる!!!」
馬鹿はやっぱり恋に落ちていました。馬鹿でした。
モニタの向こうでは手を組み祈りを捧げるかのような格好をしたハクが夢の世界に浸っている。
あれは絶対今、自分が貴族の娘になって、その色男に抱きしめられてる画像が広がってるな。
「カザマ様……素敵過ぎるっ……!!」
「ちょ……!お前今、カザマつった?」
「このモジャ毛!お前如きがカザマ様を呼び捨てにすんな!ボケ!」
「俺様のこの素敵カーリーヘアーをモジャ毛言うな!白ウサギ!」
ハク側からはセンの姿は映らない。だからハクはセンの姿を知らないはずである。
なのに、ある日を境にこの馬鹿ウサギは自分の事を文句がある度にモジャ毛というようになった。
多分あのヒゲのせいだ。一回俺が病院行ってる時に代行を頼んだときの……あのヒゲ野郎。
今度ゲンゴロウって言ってやる……絶対だ!!
「もうカザマと接触したのか、お前は。」
「だから、様を付けろ。下僕!当たり前だろ、依頼者そのものなんだから。」
「下僕じゃねぇ!!……依頼者は、首長だと聞いていたが?」
「違うらしいよ。首長名義で、ばあちゃんに書簡をだしただけみたい。礼儀として首長の方が良いと考えたらしいよ。ああ、カザマ様は考える事も礼節をわきまえていらっしゃる……。」
ハクはまたも夢の世界に突入したらしい。今頃夢の中では耳元で愛の言葉くらいささやかれてるのではなかろうか。
言い換えれば、それだけ奴は用意周到にしてまでも技術者を呼びたかった、と言うことなのに。
「なるほどな。で、物は見たんだろう?今回の依頼品。」
「それよ!この馬鹿モジャ!何が『秘密箱』だよ。あんな……古墳か何かか!あれは!!」
夢見心地でカザマ達に案内された「それ」は、砂漠の砂の山にたたずむ巨大な石で出来た…出来た、と言い難い代物だった。
入り口の全く見つからない。まさしく『四角い石の塊』である。
一家4人が住むお家1戸は入るんじゃないか。この塊は。
呆然としながらハクは口を開いた。
「……秘密箱、と言う割にはやたら秘密にしてない大きさなんですが。」
「いえ、実はこの石の置物が見つかったのは、今からおよそ50年前の話なんです。」
「ほえ?」
目が点になっているハクを無視して、カザマが続ける。
「後ろにある、砂の山がありますね。丁度、この箱が隠れるほどの。」
見れば、およそ10キロほど先に巨大な砂の山が海の波の如くいくつも出来ている。
上から見れば、きっと雲海のように広がる、壮大な砂山なのだろう。
「あれは、風によって年々移動していく砂山なのですが、その山に埋もれていたようなんです。」
全体像が現れたのは、つい最近になってからだとカザマは付け加えた。
雲海のように連なっている砂山に長い年月埋もれていた塊。
それは、ヨークの意図していたことなのか。それとも…。
近づくと、石というより
「お気づきですか。白銀様が降りてこられた船着場(シップゲート)のアスファルトに酷似しております。」
「これは…あのアスファルトより煉瓦に近いもののようですね。」
コンと叩いたハウリングで、ハクは判断する。
「こちらで調べたところ、材料はここにある砂と同じだと。」
「……伝記のようなものは残っていないんですか?」
「あいにく前の王政のものは、国が変わったときに全て破棄されました。現在は口伝でしかこの建物を示す伝承は残っておりません。」
横に居るシズクが言葉を付け足す。
目をこらしてみても、継ぎ目も何も垣間見れない。
「ただの石」もしくは「巨大な煉瓦」のそれである。
「上に登って良いですか?」
「ええ。勿論です。後日飛行機で…えっ!?」
言うが早いが、ハクは一瞬屈んだかと思うと一気に飛び上がり『秘密箱』の上に居た。
大人二人が縦に並んでも上には上がれない、この巨大な建設物の上に。
「ふぅん…。」
ハクは造作も無いように回りを見渡す。
「上も側面と同じか……。となると……『音』に聞くしかないってことか……。」
カズマは身震いした。
なんてことはない。一瞬の出来事だった。
あの跳躍力、冷静な判断。秘密箱の上に立つ彼女は、その名の通り白銀に輝いて見える。
「容姿以上に可愛らしいお嬢様のようだ。」
笑ったカズマの顔は、何よりも艶やかで怪しくて……側に居たシズクを震え上がらせていた。
ここまで来るとハクのキャラ元がどなたか判断出来そうな予感www
ハク自身の秘密に付いては、追々書いて参ります。