ヨークの遺産と白銀の少女~あっけない別れ~
「良いのですか?」
宇宙船の前に立ったハクに、シズクが声をかける。
「今なら、まだカザマを呼び出すことも出来ますが……。」
「いやいや。沢山の人に見送られると、悲しくなるだけだからさ……。」
ハクは、ちょっと俯き加減に笑う。
何度こうやって別れを経験してきたんだろう。
何度、こうやって見送られてきたんだろう。
シズクは、胸が締め付けられるような感情を抱きながら、ハクに向き合う。
「白銀様。この度の技術対応、本当にありがとうございました。」
膝を折り、頭を垂れる。
「わわわわわ。一惑星の首長が頭下げないでよー!」
「いえ。これは貴女の友として、そして私一個人としての感謝の気持ちです。白銀。」
『様』を付けなかったシズクに、ハクは満面の笑みを称える。
「ありがとう、シズク。その言葉が何よりもの報酬だし、プレゼントだよ。」
今度はハクから、シズクに抱きつく。
「もう、会える可能性は低いけど……私はいつだって貴方達の心と共にあるよ。」
「白銀……。ありがとう……。」
シズクも、ぎゅっと抱きしめ返し、ゆっくり二人は離れた。
「カザマ様とリリスにも宜しく!じゃ!」
また明日、と言わんばかりに宇宙船にひらりと飛び乗り、彼女は手を振る。
ゆっくり閉められていく扉に、シズクは必至で笑顔を作り続け
閉まった扉と共に、泣いた。
「良かったのですか。何も言わなくて。」
宇宙船が飛び立った跡に、呆然と立ち続けてきたシズクにカザマとリリスが声をかける。
「良いのです。これで。彼女は笑顔のまま、旅立つ事が出来た。」
「優しいお坊ちゃんだねぇ。」
リリスはグリグリとシズクの頭をなでる。
「そういう処、嫌いじゃないよ。」
「やめなさい。リリス。シズク様は白銀様ではないんですよ。」
「いいじゃん。愛情表現みたいなもんさ。」
「はい。」
シズクもゆっくり笑って、乱れた髪を直しながら言葉を続ける。
「私は、彼女より強く優しく有らねばなりません。私の後に生まれる子等も等しく。」
上を見上げて、シズクは思う。
「私の祖先も王朝の時代からヨーク一族に惹かれてきた。多分、次の世代もそうなるでしょう。」
「そりゃ、長い片思いだねぇ。」
リリスが苦笑いで応える。
「そうですね、だからこそ強くあるように伝え続けねば。今度の世代こそ、結ばれるように。」
そのためにも、とシズクは前置いて続ける。
「まずは、私達がちゃんと世代を継いでいかねばなりません。協力お願いしますよ。カザマ……リリス。」
リリスを呼び捨てにして、シズクが笑う。
それに、二人も満面の笑みで応えるのだった。
と言うわけで、次回、エピローグで終わります。