ヨークの遺産と白銀の少女~技術士~
「8割がた、俺はあの場で争いが興ると思ったんだがな……。」
センの声がスピーカー越しに渋い音で響く。
「だから、シズクとカザマ様はそんなに頼りなくないって。」
「そうじゃない、蛇族の族長をどうやって抑え込んだのか、が問題なんだ。」
バックには武器商人達も居る。蛇族を抑えると言う事は、その後ろの武器商人達も何かしらの力でねじ伏せたに違いない。
「リリスのお父さん?ううーん。確かに凄く静かだったというか、抑えるような感じではあったね。」
ハクも、その言葉には同意した。
「話から聞くに、かなり豪傑で蛇族の事を最優先に考える人だろう?なのに、何故遺跡を開ける事を望まなかったのか。そしてシズク達と同席出来たのか。そこが疑問でならんな。」
「ううーん。そこらへんは、明日ちょっと探りを入れてみるよ。じゃないと、レポートにも支障が出るんでしょ?」
「そうだな。」
シズク達が言う、対応履歴。
これを書いているのは、ハクの仕事ではない。センの仕事だ。
そもそも、ハクは対応した後、すぐ次の惑星に飛ぶ。
『繭』に入り半冬眠状態になるため、ログなど書けるわけがない。
更に言えば、対応ログを書く為には過去の資料と照らし合わせ、引用したり膨大な時間がかかる。
よって、そういう仕事はセンがすべて行う。カスタマーと呼ばれるのはこのためだ。
カスタマエンジニア。顧客……宇宙政府という上客の為に動くエンジニアと揶揄される所以だ。
「それに、お前が女傑とまで言っていたリリスとやらが、大人しくしてたのも気になるしな。」
センは、何かしら裏がある、と踏んでいるようだ。
「どうも、この二つは強烈なつながりを持っているように思えてならん。」
「まぁ、親子だしね。そこんとこは繋がってる可能性もあるとは思うけど。」
まあさ。とハクは続ける
「考えても仕方ない事は、考えないようにしようよ。もうすぐ対応も終わるし…あ!あたし、まだカザマ様に告白出来てないぃいい!!!」
「……それこそ、考えないようにしたいね。俺は。」
「ああああ。どうしよう。あれかな。行かないで……とか言われちゃうかな。どうしよう、仕事と愛!どっちを取るんだとか言われちゃったりして!いやいや。そう思わせてしまう自分が悪いと謝るとか?」
「人の話、聞いちゃいねぇ。」
「おはようございます、白銀様。」
朝、ハクが宇宙船を降りると、シズクが待っていた。
「なんか、こうやってシズクが待ってるのって、久しぶりな気がする。」
「はは。そうですね。」
たった、5日程度の滞在だったのにも関わらず、すっかりこの場に慣れてしまっているハクにも、自分にもシズクは感動している。
もしかしてここにずっと居て下さるのでは、という気持ちがどこかにあるからかもしれない。
その思いを断ち切るかのように、ハクは軽く言葉を発した。
「まぁ、今日でお別れなんだけどね。皆とも。」
「……え?」
「もう、対応は終わるし、残っていい理由が無いからね。」
特殊技術士が一つの惑星にとどまる事は、原則禁止されている。
技術士の数と、今依頼が来ている数が、同数ではない…むしろ何倍もの数で来ているからだ。
技術士の需要は高い。だからこそ、彼女達は短期間で任務を終え、次の惑星へと飛び立っていく。
「し、しかし白銀様は……あの、カザマの事が……。」
「なああああー!!!それは言っちゃだめ!」
真っ赤になってハクがシズクの口を塞ごうとする。
「ぎ、技術者は、婚儀が特例以外認められないの……。子供を産むことは許されてるけど、ね。」
ハクは、真っ赤になって言葉を続ける。
「だから、私のおばあちゃんもシングルマザーなの。例外として婚儀が認められるのは、一族間か、一族の中で仕事をしている者だけ。」
「そ、そんな……!」
そんな人権を無視した行為ではないのか。と言いかけたシズクは悲しい顔をしたハクに気づいて言葉を止めた。
「私達技術者は『旅する者』だからね。ずっと一緒に居られない事を、選んだ生き物だから。」
静かに、ハクは笑った。
「ぎ、技術士をやめれば、惑星に居る事は出来るのですか?」
「それはどうなんだろうね。前例がないから。私も、技術士をやめる気はないし。」
「……何故、白銀様はそうまでして技術士を続けておられるのですか。」
その若さで、その風貌。きっと色んな辛い事があったはず。
こんな人前に晒されるような仕事ではなく、もっと穏やかな生活があったって良いのではないか。
例えば王宮で静かに……。
「あたしの耳は、特殊じゃない?」
シズクの思考を遮るようにハクが言葉を発した。
「この耳は、多分、こういう仕事のために生きるべきなんだよね。」
「み、耳の為、ですか?」
「それもあるし、あたし自身の為でもある。あたしは、長く生きたいからこの旅を選んだんだ。」
「長く……生きる?」
「あんまよくわからないんだけど、惑星間を移動する場合、光速移動になるんで、ウラシマ現象が起こるわけ。」
「ウラシマ……?」
「まぁ、普通の人にはなじみのない言葉なんだけど、光の早さで移動すると、周りの時空を超える。要するに、私が3日くらいで移動した日数の間に、光の速さで移動していなかった人たちは、3年ほど経ってるって話。」
まぁ、詳しくはあたしも良くわかんないんだけどね、とハクが笑って頭を掻いた処で、シズクは呆然となっていた。
彼女は、どれだけこの宇宙の中で孤独を味わってきたんだろう。
親も、共も、自分と同じ時間を歩まない。孤独な時間を。
「うちの母親の家系は命が短命でね。」
ぽつり、とハクが言葉を続ける。
「父んところは龍族が絡んでるから、結構寿命長いんだけど……ほら、あたしアルビノじゃん?これ、母親の家系の血モロ継いでるんだよね。」
だからとハクは前置きしたうえで、苦笑いのまま続ける
「短命とか言われるのが、嫌だったんだ。誰より、長く生きたいんだ。友よりも、親よりも。」
ははっと笑ったハクに、ぎゅっとシズクがしがみついていた。
「ののののの!?」
「私たちは……私も、カザマもリリス殿も……蛇族も……絶対貴女を忘れない……!!!!」
「し、しししし……」
「貴女を、絶対忘れませんから……!!!」
抱き締めた体を離して、シズクはハクを見ると、これまたハクは茹でタコ状態でふにゃふにゃしていた。
「す、すみません白銀殿……つい、感情が高ぶってしまって……。」
「だだだだ、だいじょうぶぅううううー。」
「……参りましょう、『箱』へ。」
ふにゃふにゃしてる、ハクにそっと手を差し伸べるシズクだった。
昨日は更新できず、申し訳ありませんでした…(土下座中)
全部某ゲームとかが悪い…いや、あたしが全部悪い。
今日の夜までに、もう一回更新するように頑張ります。
出来なかったらごべんなさい(土下座中)