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ヨークの遺産と白銀の少女~本領発揮~

ゆるりとした風の地に降り立ったシズクとハクの前に、ボアとカザマが待っていた。

「お待ちしておりました。白銀様。」

「かかか、カザマ様……!」

朝の頬へのキスを思い出して、真っ赤になるハクに、ボアは腕を組んで見下すように言葉を発する。

「このような時間に我ら一同を呼び出して、何をなさると言うのですかな。特殊技術士よ。」

「ボア殿、そのような……。」

「ま、父上の言いたい事も分からない事も無いわ。中を調べるならもっと良い日時もあるでしょうし。」

後ろから、リリスがふぅ、とため息をつきながらやってきた。

「白ウサギの言う、無風の時間なんて、正直信じられないってのが本音。」

「リリス殿。」

諌める様にシズクが言葉を発するが、蛇族の二人は揃ってハクの対応を訝しがっているようだ。

「そういうところ、親子だね。」

ハクがにっこり笑う。

「見て、手に入れて、体感しないと信じない。そういうの嫌いじゃないよ。」

ハクの言葉にリリスは苦笑いを浮かべ、ボアはふんっと鼻息を吐く。

「あと、5分後くらいかな。」


そう告げると、ハクはスタスタと全員を置いて、『箱』の前に立つ。

手には、見た事もないハンマーのようなものが握られている。

「白銀殿、その御手に持っているものは何ですか?」

カザマが、不思議そうにそのハンマーを見やる。

「ああ、これ?ううーん。なんていうか……音叉の逆バージョンっていうかなんていうか。」

「おんさ?」

ボアが聞きなれない言葉に疑問符を出す。

「音叉っていうのは楽器のチューニングに使う道具でしょ?真逆っていうのは……?」

「音を聞くための道具って感じかなー。対象物を叩いて、反響する音を出させる道具。」

「そんな頑丈そうな道具……物によっては壊れませんか?」

カザマが訝しげに見やる。

「大丈夫。これには特殊な衝撃材が入ってて、最小限の力で音が聞けるようになってるんだ。……ってほら、風が止んできたよ。」


ハクが、上を仰ぐ。

ゆるり、ゆるりと吹いていた風が徐々に徐々にその音と流れを止め出し、静かに止まった。

「……奇跡だ……。」

ボアが、神に祈りを捧げんばかりにつぶやく。

「奇跡じゃないって。天候天候。」

ハクは、我関せずと『箱』の真ん中に立ち、イヤーマフを取った。

「黙って、そこで見てて。」

すぅっと息を吸い、ハクは『箱』をさする。そして


カンッ!!


という音が、ハンマーから鳴り響く。


この瞬間が好きだからあたしはこんな仕事してるんだろうなー。とハクは思う。

頭に浮かぶのは、異国情緒を思わせるメロディ。

そして、響き渡って組み立てられるのは、ヨークが残した絡繰。

砂の鉱石、羽、ねじ、遺産。

それは流れの様に美しく、時計の内部を見ているかのように精密。

綺麗な絡繰の旋律が、琴の音色の様に複雑に絡み合い、抒情的に組み上がっている。


「すごい。」


ハクは、静かにイヤーマフを耳に付けた。

「し、白銀様……どうですか?」

すっとハクはシズクの前に手をかざす。

黙っていてくれ、というジェスチャーなのだろう。


はぁ。とハクがため息をつく。


「いやー。いいもんが聴けた……。」

「白銀様……?」

「あ、ごめんね。余韻に浸りたかったんだ。あまりにも綺麗な旋律だったから。」

ふぅっとハクがため息をつくと、全員の顔を見て、言葉を発する。

「絡繰の仕組みは分かったよ。これは音に反応する絡繰なんだ。」

「音、ですか。」

カザマがびっくりした顔でハクを見る。

「多分、女性の声のようなキーの高い音に反応して、中に内臓されてる虫の羽みたいなのが振動する。その振動に合わせて、からくりが動き、中にあるツタの様なものがこの砂の塊を壊す。」

「そんな簡単に壊れるようなものではないのではないでしょうか。」

シズクが横から口を入れる。

最初から、この砂が問題だったのだ。壊すにしても頑丈すぎる。しかし衝撃を与え過ぎると砂ごと遺跡が埋まる。

「この箱の内側には、びっちりヨークの絡繰の元になるツタとネジが絡んでいて、その中に守られるように遺産が置いてあるみたい。」

ハクはこんこん、と『箱』を叩く。

「この砂の塊は、分子が整列した状態で並んでて、ようするに鉱石のような塊状態になってるんだよね。」

「砂なのに、ですか?」

「多分、この砂の鉱石を作る元になった液体がそういう分子を整列させるか、整える酵素が含まれていたんだろうね。」

だから、多少の衝撃ではびくりともしない。

しかし、ツタから響く振動派の細かい動きではその分子が崩れ、揺らぎ落ちる。

「残念ながら、この絡繰は、一回こっきりの作品だよ。一回使うと、組み立てるのが困難だと思う。」

その一言に、すべての人間が言葉を失う。


「それにしても、女性のようなキーの高い声、ね。」

リリスが静寂を割って言葉を発す。

「そりゃ、男だけでこれ開けようとしても、開く訳が無いわね。」

「仰るとおりですね。リリス殿。」

カザマも同調して言葉を続ける。

「私たちは、色んなものを見落とし続けてきたんですね……。」

静かに、冷静にカザマの言葉は反省を紡ぎ出す。


「で。いいの?本当にこれ、開けなくて。」

シズクとボアは、双方を見やってうなづく。

「王家の遺産に頼って縋っているようでは、先祖に顔向けできん。」

「長い間秘められてきた『箱』を、私達の手で開けてしまっては申し訳が立ちませんから。」

二人の言葉に、そうとだけ答えたハクは、突如大きく手をふる

「おかーさーん!こっちこっち!」

「な、ナミ?」

「かあさん?」

一同が振りかえると、ナミが女性陣を担ぎ出して、大量の液体を持ってきていた。


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