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ヨークの遺産と白銀の少女~蛇族のしきたり~

「ああぁ、疲れた……。」

カザマがわざとらしく、リリスの居る部屋に来たのは夜もどっぷり更け、日付も変わった時刻だった。

「あのね、女性のいる寝室にこんな夜半に来る時点で、失礼だと思わないの?」

「思いませんね。大体、貴女のお陰でこんな遅くなったんですよ。労いの言葉くらい欲しいところですよ。こっちは。」

「かかか、カザマ!申し訳ない、リリス殿、すぐお暇しますから!!!」

カザマの後を追って慌てて飛び込んできたシズクの顔は真っ赤だ。

それもそのはず、リリスの姿は既に寝巻なのだから。

薄い衣にぴったりつくその体に、シズクはあっという間に硬直し、更に赤面する。

「おやおや、カザマと違って坊っちゃんはウブだねぇ。」

リリスはシズクとカザマの目線を気にも留めずベッドから立ち上がる。そして、シズクのために外套のようなものをはおった。

「これでいいだろう?」

「す、すみません……。」

「で、話は済んだの?」

「結果は聞かないんですか?」

「必要ないね。」

気配から察するに、ボアは既に辞した後。とすると、リリスの計算通りか、それに近い形で話が進んだと思って間違いない。


「私は怒ってるんですよ。リリス殿。」

「何を?」

「蛇族のしきたりを貴女が私達に教えてなかった事です。」

「は?」

「蛇族の未婚の女性は、職に就くことを禁止されているという事ですよ。」




「シズク殿……娘を現政府の首長補佐に就けることにどういう利点があるというのだ。」

「それは」

と言いかけて、カザマが言葉を受け継ぐ。

「まず、一番分かりやすい処では蛇族と蠍族が和解したと完全に思わせることができることですね。」

リリスは蛇族の族長の娘。その娘がシズクの補佐に回る訳だから、対外的にも蠍族と蛇族が手を結んだと思わせられる。

これは、ほかの惑星に対してもとても有効に働くだろし、ずっと官にはびこってきた武器商人との癒着を掘り出す事が出来る。

「次に今までリリス殿が抑えてきた混血や他の惑星から来た民の信を得ることができます。」

「む……。」

リリスがボアに黙って混血の子等を集めてシェルターを作り、そこで色々教えたり、市場への就業のあっせんをしていたのは知っている。

が、そんなにリリスが人望があると、ボアは知らなかった。

「更に言えば、お互いの部族で抑えられてきた女性達の不満が、リリス殿を立てる事で抑える事が出来る。」

淡々とカザマは想定できる範囲の利点を述べ続ける。

「もっと言えば、蛇族の族長であるボア殿の懐の広さも評価されるでしょうね。」

「ふんっ、そんなものはどうでもいい。」

ボアは、カザマの言葉を遮るように言葉を発した。

「私はそれを認める事は出来ん。これは、蛇族のしきたりにもよるがな。」

「と、申されますと。」

「リリスは婚儀を一度も結んだことのない娘だ。」

あの年で恥ずかしいことだがな。とボアは続ける。

「蠍族は違うようだが、蛇族では婚儀を結んでいない娘は仕事に就けないことになっている。」

「え?」

「リリスが今している事は、仕事というより家の手伝いのようなものだ。そういうものは特例として認められるが、基本的に独身の女性の就業は認めていない。」

「……そんな古臭いしきたりがあるから、蛇族は進歩しないと言うのです。」

カザマが明らかに不機嫌な顔をして、ボアに喧嘩を売る。

蠍族では、独身女性の就業どころか、官への雇用も認められている。男女平等とまでは行かないが、女性の社会進出を阻んではいけない、というのがあるからだ。

「何を言う!蠍族とて同じだろう。主要な仕事はすべて男がやる。女は庇護されるべき存在だからこそ、そういうしきたりが続いているのだ。中途半端な男女平等は、不浄な淫行と不秩序な社会を産むんだ!」

女性が庇護され、愛され、守られるべき存在だからこそ、男は盾になり槍になり、前に出ていく。

蛇族のしきたりは、そういうものを基本として作られているんだと、ボアは豪語した。


「確かに。」

ずっと沈黙を守っていたシズクが、口を開く。

「確かに、ボア殿の言う部分もあるでしょう。蠍族の中でも、未だ官僚になる者は男性ばかりですし、重要なポストに就くものはすべて男です。」

その言葉に、ボアに反論しようとしていたカザマが口を噤む。シズクの指摘通りだからだ。

だからこそ、余計にとシズクは続ける。

「リリス殿が、僕らには必要なんです。ボア殿。」

「まだそんな迷い事を……。」

「男だけの視点で政を行ってきたからこそ、延々と300年以上、内紛が続いてきたのではないでしょうか。」

「な……何を言っているのだ!それはわれらの祖を侮辱する言葉だぞ!」

「私は、巫女の血族です。始祖は、女性だったと聞きました。」

「何が言いたいのですかな。カザマ殿。」

「あの遺産は、多分初期の巫女辺りが作ったものだと思います。」

「……それがどうした。」

「あの当時は、女性も利権を持っていた。だから、王宮は平穏に過ごしてこれた。と、逆の発想をしてみては如何かと進言しているのです。ボア殿。」

静かな沈黙が、空間に流れる。

窓の向こうでは、リリスの琴の音も消え、静寂な空間だけが流れている。

「もう一度言います。私の補佐には、リリス殿が必要だ。」

「……だとしても、蛇族のしきたりを破るわけにはいかん。私は、族長だ。」

「ならば、こうしたら如何でしょう。」

カザマが、静かに口を開いた。


シズクは遠くで、誰かがくしゃみをしたような、そんな気が……した。

さてさて。物語もいよいよ佳境に入ってきました。

私、この話を書くにあたり、色々自分で決めた事がありまして。

・差別発言はしょうがない(アラブ国家はこれよりもっと酷い女性差別がありますからね。そう考えると致し方ないと思います)

・戦争は起こさない(血生臭い事はさせない)→暴力行為は極力書かない


と言うのを信条に書いております。

大体、戦争とか体験したこと無い私が戦争の話なんて書ける訳が無いし(ぉぃ

更に言えば、武術も習っていない私が血生臭い話を書くこと自体絵空事になってしまう。

そういう意味では、なるべく暴力行為も書かないようにしたかったんですね。

暴力って、人の心をえぐっちゃいますから。


ともあれ、もう少し続きます。

あ、明日は更新停止しまーす。火曜日ー。

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