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ヨークの遺産と白銀の少女~リリスの実力~


愛の歌を聞くがよい

それは風 それは雲 それは砂

愛は風となって雲を流し砂を舞う

流浪の民よ 愛を聞け

流浪の民よ 愛を見よ

地よ 風よ 空よ 子よ

愛の歌を聞くがよい


細かい弦の琴を爪弾きながら、リリスは歌を奏でていた。



「あの奥で聞こえる琴と声は……我が娘ですかな。」

「そのようですね、ボア殿。」


夜、カザマとボア、そしてシズクは先日の争いのことも含め、再度話し合いをするため王宮にて席を設けていた。

「リリス殿にも同席を、と願ったのですが断られてしまいまして……。」

シズクは眉をひそめて申し訳なさそうにボアを見るが、ボアは当たり前だと言う顔をして応える。

「政は男の仕事です。女が横から口を出すべきではない。」

「と、リリス殿もおっしゃって居られましたよ。ボア殿。」

カザマの言葉に、ふん、とボアは鼻を鳴らす。


「この席にお招きしたのは、先日の話だけでは御座いません。ボア殿。」

「……今朝、うちの者が技術者と接触したと聞いておる。その話だろう。」

「御察しの通りでございます。」

深々と頭を下げるこのカザマという男を、ボアは一番問題視していた。

シズクが首長だと言うことは分かっているが、シズクは密偵の話からも武器商人の話からも、ほぼ治世能力は無いとみなしている。

とすると、後ろ盾と称して横に座っている、この男こそ、蠍族の首長と呼ぶに相応しい男であろうと。


「ボア殿、まずは先日の非礼から行わせてください。」

シズクが、おもむろに口を開く。

「停戦、和議を行っている最中とは言え、蛇族の領地に無断で侵入し、あまつさえ不敬を働いてしまったこと、申し訳なく思っております。」

シズクが頭を下げる。

「いやいや。シズク殿、首長ともあろう方が頭をお上げください。」

「いえ、そのせいでカザマを心配させ、なお且つ蛇族に疑いの目を向けさせてしまった。これは私の不徳の致すところです。」

「!!」

しまった、とボアは心の中で思った。

今回の話でこちら側が少しでも不利になった際、先日の侵入と軍による蛇族への占拠を手玉にしてやろうと考えていたからだ。


ただの傀儡ではないと言うことか。


「いやいや。御心配には及びませんよ、シズク殿。ただ……娘が犯した不祥事ですからね。拿捕にしろ、この惨事にしろ。」

ボアはゆっくり、目を上げて続ける。

「娘の不祥事は、我が一族……いや、親である私が、責任を持って負いたい。」

「それは……。」

「あそこで、琴を弾いて呑気に過ごしている馬鹿娘を私達に返していただきたい。と、申しているのですよ。シズク殿。」

「致しかねます。」

シズクは、即答で応えた。計算されていたかのような返答に一瞬たじろぐボアを、カザマは冷静に見ていた。

「その件でも私はボア殿にお願いしたい儀がありましてお招きしたのです。」

「お願いしたい儀……とは?」

「私は……、多分ボア殿も御存じの通り、傀儡や操り人形と、人から揶揄されて生きていました。」

ボアは無言を貫く。そうだ、と言いたげな顔で。

「しかし、今回の停戦の呼び掛けにしろ、技術者の派遣にしろ、すべて私の意で行われている事でございます。」

「それと、うちのリリスと何の関係が……?」

「リリス殿は、私にも、そしてここにいるカザマにも無い目を持っております。」

ボアの眉が、ピクリと上がったのをカザマは見逃さなかった。

「シズク殿、それはどういう意味でしょうか。前日の娘の戯言を聞いて、まさかあの迷い事を本気にしようという訳でもないでしょう。」

リリスの言葉『蛇族も蠍族も無くなってしまえば良い』という暴言ともとれる言葉を、ボアは未だ引きずっていた。

だからこそ、リリスをただし、時と場合によってはこちらで再度、処罰……最悪の場合は死に追いやらねばならないと考えていたのである。

それを、蠍族の首長が踏襲するとは思えない。

「リリス殿には、私達には無い視点を持っています。それは、男には無い視点。それが欲しい。」

「何を馬鹿な!!!政は歴代から男が行ってきたものですぞ!自分の娘の事ながら、政に口を出すような女は要らん!!」

「ボア殿、私は、リリス殿を首長補佐の一人としてお招きしたい。」

「何を馬鹿な!私の言っていた言葉が通じないのですか、シズク殿!」

「落ち着いてください、ボア殿。」

カザマは荒々しく立ちあがって抗議しているボアを諌める。

「そのように声を荒げてしまうと、向こうで美しい琴を奏でているリリス殿も心配致します。」

「何を戯言を……!!!」

ボアは叫ぶと、またズサンという音を立てて座って、力いっぱい机をたたいた。

「まさか、それをもってして和議としようとしているのではありませんでしょうな!」

「とんでもない。これは、私からリリス殿の父上であるボア殿という、族長としてとはまた別のお願いです。」

シズクは、声を荒げたり、机をガンガンと叩くボアに全く怯えることもなく語りかける。

「私は……いえ、私たちは自分達の誇りと自尊心のみを前に出し過ぎた。」

「な……当たり前でしょう!我々は互いの一族を背に負って、今この場に立っている。自尊と誇りが無くて、どうして政など出来ようというのか。」

「おっしゃる通りです、ボア殿。ですが、その陰で見えない部族…いえ、影に追いやられた民が居たということを、私は初めて知りました。たとえば、双方の混血児や、他の惑星から嫁いで来た人々です。」

「そんな……半端者をどうこう言う方がおかしいだろう。そんなもの、この惑星の数からしたらほんのわずか、1割にも満たん。」

「そう、思っていたのを、リリス殿は見ていたのです。ボア殿。」

パラリとカザマがボアの前に紙を落とす。

そこには、人口に対しての蠍族、蛇族、そしてその他の部族の割合が示されていた。

「こ、これは。」

「トップが人口の割合や税収の割合を知ってることは確かに少ない。でも、彼女はそれとずっと対面し続けてきたんです。ボア殿。」

数字には、惑星外と混血児達の人口が、3割以上を占めていた。

「多分、こうやってあぶれた者達をスラム化しないように、ずっと守ってきたのがあの市場であり、リリス殿の凄い処なんだと私は今回、改めて気付いたんです。」


混血児がこれだけいる、そして惑星外から来た人間もこんなにあぶれている。

それは、混血児の親達も勿論あぶれていることになり、下手をしたら人口の3割、などと言っている場合ではないのではないかとボアは顔を青くして思う。

「もう一度言います。リリス殿を、私の補佐として、置くことを許していただけますか?」


暗い闇の中で、琴をつま弾く音が風に流されて静かに砂の山へと消えていった。


と言うわけで、更新が遅くなって申し訳ない。

もうちょっと、この緊迫したお話続きます。

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