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ヨークの遺産と白銀の少女~三者三様~


「蛇族も現政府軍…蠍族も、ご自身の権力の誇示のみを考えてる。」

リリスは淡々と言葉を続けた。

「このまま行けば、現政府と蛇族の争いは火ぶたを落とされるでしょうね。遺産ひとつのために。」

「リリス殿。これは、政治の話です。……ましてや彼女は政府要請で招集した技術者ですよ。」

「今、この惑星外での貴方達蠍族の立場は、ただの『仮』政府の状態だって、皆知ってるわよ。」

宇宙政府も馬鹿ではない。内紛が起こっている惑星の政府を『政府』として認めてしまうと後々内紛が終わった後政府ががらりと変わった際に面倒なことが起こることが目に見えているからだ。

過干渉はしない代わりに、内紛が終わらない限り政府とも認めない。

そんな暗黙のルールが当たり前のように浸透している。

「このまま今の争いが悪化して、蛇族が万が一でも政府を乗っ取れば、彼女は蛇族のものになる。」

ちらりとシズクを見ながら、リリスは続ける。

「丁度、蠍族のトップ達もいることですし。今、貴方達の命を取ってしまいさえすれば、蠍族の力はあっという間に崩壊するでしょうね。」

そして、仮政府は蛇族になるわけだ。とリリスは鼻で笑うように続ける。

「王家の遺産とか言う前に、まず敵陣に抜け抜けと来たその馬鹿な脳味噌を改めるべきよ。カザマ。」

「リリス!お前はそこまで分かっていて何故!」

「父上は、こうやって蠍族を苦しめるだけ苦しめている間、うちの民も同じように苦しんでいる事を何故理解なさろうとしないの?」

ボアはその言葉に烈火のごとく叫ぶ。

「戯言を!お前は何が分かると言うのだ!女のお前は黙って私の庇護の元に居れば良い!」

「そうやって、女を虐げて、今得た物はいったい何だというの。何も得てもいない癖に!」


ガン!


ボアが剣を振り上げ、リリスに振りかかり、それをカザマが咄嗟に受け止める。

そんな構造が瞬間にして成り立っていた。

リリスは、予想していたかのようにびくりとも動かない。


「父上。私は言わなかったけど、逆も想定出来るのよ。」

こぶし一つ分足らずの目先で剣と剣がぶつかっている最中、静かにリリスは続ける。

「不義を働いた部族長くらい、今の仮政府は容易く殺せる、ということを。」

睨んだその先には、ボアが蒼い顔をして持っている剣をわなつかせている。

「そんなことくらい分かっている!分かっているからこそ、お前達を使ったんだろうが!」

ボアの剣が下ろされたのを見計らって、カザマも静かに剣を下ろす。

「リリス殿、貴女の真意が聞きたい。」

今までの様な微笑みですべてを胡麻化す瞳ではなく、リリスを見つめるその目は真っ直ぐに、真摯のそれだった。

「ただのお嬢様だと思ってた?カザマ。」

今度は、リリスが上から見下げる様に微笑む。

「私は、私たちが願うことはただ一つ。貴方達すべての部族が壊れることよ。父上……いえ、ボア。そして……シズクとカザマ。」

リリスは黙ったままのカザマに言葉を続ける。

「シズクは返すわ。その代わり、技術者は私が預かる。」

「そんなことをして貴女に一体何の得があるというのですか、リリス殿。」

「得とかそう言うことじゃないわ。私はあんた達の事を誠実に伝える者を探していただけよ。」

「……白銀殿が提出するレポートを利用して、どちらも政治を握る素質が無いと、宇宙政府に知らしめたい。そう言うことですか?」

「貴方達がやってきた争い事のお陰で、不幸になりつづけている民の実情をアピールして、救済宣言を出す。」

「リリス殿。救済宣言を出すと言うことは、他の惑星の侵略も許してしまう、そう言うことですよ。」

「そうだリリス!お前はこの国を滅ぼす気か!」

「滅びればいい。女達と子供達に苦境を強いるこんな政治と争いの国なんて、滅びればいい!」

「リリス!」

ボアは今度こそと剣をかざす。そして、尚カザマはそれを阻止する。

「この争いが終わり、我が部族が政権を握れば大丈夫と、貴方達はいつもそう言う。」

蛇族も蠍族も。

「そうやって、女は政治に口を出すなと言い続けて男だけで争いし続けた結果どうなった。父上!」

「しかし、お前は分かっているだろう。どれだけ蛇族が虐げられてきたか!遊牧民族だった我らを地の果てに追いやり、税ばかり搾取し続ける蠍族を黙らせるために、我らがどれだけ努力してきたか!」

三者三様の思惑、心理。


ハクは、この痛々しい空気の中で凛と佇むリリスとカザマ、そしてシズクを見た。


「あほくさ。」

「……白銀様……?」

「馬鹿馬鹿らしいって言ってるのよ。聞こえなかった?」

カザマが驚いた顔をして、ハクを見ている。他の3人もほぼ同じ顔だ。

「お互いがお互い、不幸な身の上を我も我もと自己主張。挙げ句、人様を物扱い。」

ハクは大きく腕を頭上に向かって回した。

すると、静かに空中に浮上していたハクの宇宙船が下に降りてくる。

巻き起こる爆風に、ハク以外の全員が体を背ける。

「悪いけど、私、寝るときは宇宙船|≪この中≫じゃないと寝れないの。」

開かれた扉に向かってハクはまっすぐ歩き出す。

「カザマ様にもリリスにも、そんでそこのふとっちょのおっさんにも悪いけどさ。」

扉が閉まりかけた時、ハクは全員の顔を見て言った。

「2日後の夜に会おう。あ、もう明日の夜か。じゃ、お休み。」

扉が閉まり、再び爆風と共に機体は浮き上がった。

「怒って……居られましたね。白銀殿。」

シズクは、青ざめた唇で、誰に言うでもなく呟いた。


最初はこういう設定では無かったんですが、リリスが非常に暴走をし始めまして、結局こうなったというか…。

キャラって凄いなぁと実感させられてるお話です。

リリス、最強。

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