ヨークの遺産と白銀の少女~脱出手前~
「リリス、どういうことだ。」
「父上。私は蠍族でも、蛇族でもない部類に属したい。」
リリスはキッと、カザマとボア、両方を睨む。
「貴方達はそうやって、人の命と状況を手駒にして交渉してきた。」
シズクは、後ろでぐっと手を握る。
「そんな下らない交渉で、いったい何が進んだというの。」
リリスの悲痛な声は、どちら側の兵士も硬直させるにふさわしい声だった。
「カザマ。」
リリスの言葉は続く
「シズクは返します。ただし、この技術者は私が預かる。」
「リリス殿!?」「リリスっ!!!」
「まだ分からないの?貴方達の茶番に、この白い技術者を預けられないという事が。」
ハクは、静かに3人の動向を見ていた。
ズシンという音とともに爆音は響き、壁にヒビが入る。
蠍族が来たといううわさと混乱の中のこの爆音。
更に、混乱が広まるのは必至だった。
混乱に乗じて、ドアが開いた瞬間、逃げ出すか叫ぶか。
いずれにしても上層部にある出口まで行かねばならない。
見張り番がドアが開けた瞬間、シズクとハクは逃げ出す事を第一に考えていた。
が、ヒビがかなり広がり、壁が崩れた先にはリリスが立っていた。
「リ、リリスっ!」
「待ちくたびれたわよ。お二人さん。」
ガッと二人の手首を掴み、リリスは急ぎ駆け足で暗い道を走っていく。
「ちょちょちょちょ!」
「いいから!黙って走る!」
暗闇の奥に人の体がギリギリ入るほどの隙間にリリスは入り、こちらだと手招きする。
すぐ近くでは、男達が騒いでいる声。
シズクもハクも、夢中でそこに飛び込むしかなかった。
飛び込んだ先から、更に走っていった奥にある厳重な扉をリリスが開き、中に入った。
二人も揃って中に入るとそこには女性と小さな子供達が待ち構えていた。
「こ、ここは?」
「ここは、虐待を受け続けてきた女性達や、逃げ場を失った女性達が逃げ込む避難所って処かしらね。」
リリスは、淡々と言葉を発した。
シズクはリリスの言葉と、周りの目線にゾクリとする。
皆、怯えるような……それでいて敵を見るような眼。力無き者達の無言の圧力の様に、子どもも女性も、静かにシズク達を見ている。
「時間が無いから、簡潔に話すわ。」
リリスは言葉を続ける。
「貴方達をこちら側に拉致したのは申し訳なかったと思う。ごめん。」
「リリス殿……それは部族長のご家族でいらっしゃる貴女の立場からしてもしょうがない事だと思います。しかしこれは……」
シズクが許しの言葉を述べようとすると、リリスがさえぎる。
「私はね、シズク。蠍族とか蛇族とかいう言葉が嫌い。」
「リリス殿?」
「もっと言えば、そんなものにしかしがみ付けず、権力と権力をぶつけ合ってるあんた達も嫌いなの。」
奥に座っていた女性達が、全員頷いているように見えた。
「あんたも、ちょっと見たら分かるだろう。ここに居る女が、蛇族だけじゃないって事が。」
衣装や髪の色も、そして子供の容姿も実にさまざまな者達が、ここで身を寄せ合って暮らしているようだった。
こんな、光も届かない洞窟の奥地で。
「あんたらの権力争いの一番犠牲になってるものは、いったい何か、これでわかるだろう。蠍族の坊っちゃん。」
『坊っちゃん』という言葉が、これほどまでに胸に刺さったことは無い。
シズクは、ただただ項垂れる事しかできなかった。
本題に入るよ、とリリスは前置きをして言葉を続けた
「あんたを誘拐したい。白ウサギ。」
「あたしを?」
「そうだ。最初からそのつもりだった。あたしらには、あんただけが必要なんだよ。白ウサギ。」
全員が、ハクを見つめている。そんな気がした。
更新と小説記入の狭間で追いやられております(笑
頑張れ!(ほぼ)毎日更新!
と、いいつつ明日は更新出来るか疑問です。
もし更新出来なかったらゴメンナサイ。