ヨークの遺産と白銀の少女~カザマVS~
暗闇の中にある洞窟の前に、張りつめた空気が広がっている。
「これはこれは。カザマ殿。蠍族の貴方が、何故こちらに?」
『蛇族のテリトリーに入って来るんじゃねぇよ』的なオーラを全身に纏った部下を引き連れた蛇族の部族長と、カザマは対峙していた。
「私は、蠍族というより、この惑星の政府長官としてここに来ております。ボア殿。」
静かに、そしてにこりと笑ってカザマは続ける。
「逆に私が伺いたいくらいですよ。ボア殿の様な方が何故、このような場所に居らっしゃるのか。」
カザマの後ろには屈強そうな軍人達が如何にもという顔で蛇族を睨んでいる。
一触即発というのはこういうことだろう。とカザマは場違いにも思いつつ言葉を続ける。
「ここは、蛇族の中でも懲罰を与えられた者達が監禁されている場所と伺った事があります。そのような場所に、何故貴方のような方が?」
お互いの腹の探り合いなら、こちらの方が一枚上手だと言うような顔つきで、ボアは豪快に笑って答える。
「異な事を。確かにここは犯罪を犯した者や懲罰を与えるような者達が入る監獄もありますが、私の部下が直轄している場所でもあります。部下の顔を見に来ることくらい御座いますよ。」
残酷と言われた私だとて、ね。とボアは豪快に笑う。
「そうですか……いえ。これは大変失礼な事を伺いまして、申し訳ございません。」
カザマは正直に頭を下げる。
「私どもは政府が要請し、招へいしました特殊技術者を探している最中にここに伺った次第です。」
「特殊技術者?」
「はい。おや。リリス殿から伺った話では、そちらのほうには既に話が通じているようですが?」
「ああ。ヨーク一族の者の事ですかな?それを特殊技術者というのですか。いやはや、初めて知りましたよ。」
このタヌキおやじが…。とカザマは心の中で悪態をつくが、笑顔の壁は捨て去らない。
「その、特殊技術者とやらが行方不明と。」
「はい。彼女達の見張りをつけていたものが、蛇族の領内で拿捕されたのではという話をしていたもので、こちらまで捜索の足を延ばさせていただいたんですが。」
「それは捨て置けない発言ですな。私たちがそのような者を拿捕したという情報はこちらにはまだ来ておりませんが……。」
ギロリとした眼差しで、ボアはカザマの目を射抜く。
「まさか我が部族の信を疑っておいでで?」
知らぬ存ぜぬを通すつもり、のようだ。
「そうですか。しかし、おかしいですねぇ。」
にっこりと笑ったカザマは、言葉を続ける。
「ヨークの一族の特殊技術者は、宇宙政府からも保護されるべき存在でしてね。」
ピクリ、とボアが眉毛を上げる。
「ヨーク一族の宇宙船には技術者を追跡する装置が搭載されているそうなんです。」
カザマはなおも笑顔を崩さない。
「暗闇で見えにくいかもしれませんが、丁度、私たちの真上に浮上している……。」
ばっ、と蛇族が頭上を見上げる。月が隠れるほどの、暗い闇の中に静かに浮上する球体。
「技術者の宇宙船が追跡しているものは、当然技術者だと思い、我々は後を追って来ただけなんですがね……。」
ボアの額に、脂汗がにじむ。
「おかえし、願えますかね。ボア殿。」
早い速度で雲が動き、月明かりが顔を出す。
そして、ボアはにやりと笑う。
「そうですか。私どもの処にそのような。きっと何かの手違いで捉えられたに違いありませんな。」
「有り難うございます、ボア殿。」
「しかし、蛇族の方で拿捕された、というのであればこれは大変申し訳ないが、お時間を頂くことになる。」
「な……!?」
「技術者と言うことは、色んな情報を握っている者。逆に言えば、色んな情報を握るために居るもの。」
月明かりとたいまつの明かりに照らされたボアは、一層怪しく微笑む。
「そのような怪しい者がこちら側で捕まった。これはスパイの可能性も御座います故。」
「それは逆に私たちの信を疑っていらっしゃると言うことですか。ボア殿。」
「怖い事をおっしゃる、カザマ殿。こちらはお返しする、と申して居るのですよ。技術者を。」
まぁ、事と次第によっては命の保証は出来かねますが、と豪快に笑うボア。
ギリリとカザマの手が結ばれる。
ここまでか……?いや。考えるんだ。まだ、あの御方だけでも助ける術は有るはずだ……。
「父上!」
リンとした声が、洞窟の奥から鳴り響く。
「リリス!!!!」「リリス殿!?」
そこには、リリスと……リリスに隠されるようにハク、シズクが立っていた。
ボア、とは蛇の種類なんですが、そこから頂戴しました。