ヨークの遺産と白銀の少女~特殊技術者の真髄~
「え?リリス殿から?」
「そう。なんか、頭に刺してったから、なんだろうとは思ったんだよね。」
腕をめくって、白い肌を出しながら、ハクは続ける。
「あたしはさー。リリスの態度が市場の時より硬化してたのが疑問だったんだよね。」
「硬化?」
「前はからかってる感じだったんだけど、さっきの会話は明らかにあたし達に対する喧嘩なんだよね。」
「そ、そうでしょうか。」
「政府の犬だの、あたしの情報は全部掴んでるだの。」
「そ、それは蛇族の部族長の娘として喧嘩を売ったまででは……。」
「さっき、シズクにこっちの言語でなんか話しかけてたけど。あれは何て言ったの?」
「あ、あれは……。」
「多分、あたしに言いたくない事なんだよね?シズク。」
「!!」
ばっと、シズクが顔が青くなる。
「それを、慮って私に分からない言語で言った。それは、相手を思いやるって事じゃない?シズク。」
「し、白銀様……。」
「リリスが何考えてるか分からないけど、分かってることは、完全な敵ではなさそうって事。」
さて。とハクは周りを見渡して息を吐いた。
「あたしの一族をサポートしてる奴らはこんな事くらい今頃推測してんのよね。」
「は……?」
「だからね、あたしは、あたしができる事を、精一杯やる。それが、サポーターと依頼してくれた人への礼儀。」
「白銀様……何を?」
「だからさ、ちょっと手伝ってほしいんだよね。」
ハクは、すぅっと息を吸うと、ぎゅっと目を閉じた。
コンと壁を叩けば、壁から出る音が波の様な輪を作って広がっていく。
「無いねぇ。」
違う部分の壁を叩く。
コン。広がる音は、波紋を作って広がる先にある割れ目。
「ん……。そこをもう少し下に叩いてみてくれる?」
音が切れた部分が、かすかにいびつな部分があったのをハクは『聞き逃さない』。
シズクは、言われるがままに壁を叩き続けている。
見張りからしても「何やってるんだ?まぁ、良いか。」程度の音で壁を叩く。
「お、そこそこ。そこの下、ヒビあるね。」
見れば、下に分かるか分からないかのヒビが入っていた。
たいまつも消された暗い室内で、このヒビを『聞き出す』
シズクは、ぶるりと身震いする。
これが、ヨーク一族の特殊技術者。
一人ひとりの特殊能力は異なると聞いたことがあるが、白銀の能力は『絶対聴力』だと本人から聞いた。
が、その能力がどういうものか、口頭で聞くのと体感するのでは全く違う。
「音が立体的な波紋となって頭の中に広がるの。だからどこがおかしいか、立体的に頭に浮かぶ。それはまるで立体的なオーケストラを聴いてるような。そんな感じ。」
初日の晩餐時にそんな事をカザマに言っていたのを思い出す。
彼女の耳にあてられていたイヤーマフは、あまりにも『聞こえすぎる』耳を塞ぐための機械なのだとも。
「あの建物の上に登った超脚力は、私達の参考資料には一切ありませんでしたが……。」
「ああ。あれはこのブーツ。ギアでジャンプ力を変えれるの。」
中は空圧式になっていて~と、嬉しそうにカザマに話していたハクを思い出して、場所も忘れてシズクは微笑んでしまう。
「何笑ってるの?シズク。」
「あ、いや……耳あてを取った白銀様は、お可愛らしいと思いまして…。」
「もう!君んとこの一族は口ばっかりうまいんだから!あ、でもあたしはカザマ様一筋だかんね!惚れてもダメだよっ!」
顔を少し赤らめながら、ハクは慌ててイヤーマフを装着した。
なんとか、起承転結の「転」の部分の終わりも見えてきました(汗
もうしばらくお付き合い頂けると幸いです。
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と言うわけで、明日は更新お休みです。