ヨークの遺産と白銀の少女~リリスの真意~
「白銀と連絡が取れない?」
「そう。夜の定時連絡がまだ来てない。3時間経過してる。」
センは苦い顔をしながら情報処理室に来ていた。
「普段はそれくらいでこっち来ないだろ?お前。」
「場所が場所だ。今あいつが居る場所はサンザン。内紛が起こってる惑星だぞ。」
「そりゃ、心配だわなぁ。」
「お前は、なんでロボットのくせにそんな呑気なんだっ!」
センが苛立つように情報処理室の主に問う。
「そりゃ、俺が情報全部握ってるからだろう?」
「な?」
「白銀がサンザンに居ることも、ほんで、今反政府軍の地域内に居ることも、こっちはすっかり情報入れてんだっての。」
「ちょ!ベータ。お前今何さらりと恐ろしい事言っちゃってんだよ!」
ベータと呼ばれたロボットは、青光りした体をゆすりながら笑って答えた。
「面白いねぇ。ヨーク一族の技術に対抗する気かねぇ。ふふふ。そんなの無理に決まってんのにさぁ。」
かなり嬉しそうに応えているこのロボットに、センは身震いした。
「かあさん、それよりさっきの話、本当だろうね。」
「何がだい。」
「あの二人の命の保証だよ。」
「さぁ、どうだろうね。父さん次第だよ。」
「部族長は、完全に闘争派に抱え込まれてるじゃないか。」
リリスは母親に掴みかからんとせんばかりに前にでる。
「リリス。あんたはまだ分かってないのかい。」
でっぷりとした腰元に手を置いて、『元美女』であったであろうやや釣り目の猫目をリリスに向ける。
「女は男の影で支えて何ぼだって。女が政治に口出しするんじゃないよ!」
「かあさん!」
「あっちと婚儀を結ばないのはお前の勝手だし、あたしゃそれで良いと思った。」
リリスの言葉の先を封じるように母が続ける。
「それは、お父さんも同じ意見だからだ。」
「くっ!」
蠍族はどうか不明だが、蛇族は基本男がすべてを握る。リリスほどの年で結婚していない女性は稀で、殆どが男女の差別など分かりもしない年ごろから嫁に行き、相手方の家族に使われていく。
女が男の言うことを聞く、男を立てるのは当たり前。男のために金を稼ぎ、男の言うことには反発しない。
それが、リリスは我慢ならなかった。
根底から覆したい。こんな、蛇族だ蠍族だと争ってるこの国ごと滅びればいい。
そんな時王家の遺産の話が出た。
結婚して、同じような部族の男に傅いて生きていくなんて御免だ。
あの、カザマとかいう男もあんな甘く優しい言葉を吐きながら、本当は女を侮蔑してるにきまってる。
その時からリリスの腹の中は、王家の遺産を手に入れて、国と親を見限ることに決めていた。
その、第一段階が市場での接触だった。
情報を得るために、あいつらは絶対こういう場所にやってくる。
山勘が中った時は、自分の勝利を確信していた。なのに……。
まさか、密偵として母が市場に潜伏してるなんて思いも寄らなかった……!!!
「お前が珍しく、あたし達の言うことを聞くと思ったらそんな事を言ってくるようじゃ、蛇族の女としては失格だよ。リリス。」
「私はっ!……私はカザマの鼻を明かしたかっただけだっ!」
あの、会うたびに爽やかな笑顔を絶やさないで、こちらに正面からやってくるカザマが、リリスはなにより苦手だった。
裏で色々考えてる癖に、白々しい。だから、あの顔を歪ませてみたかった。怒らせてみたかった。
それで、自由が手に入るなら、こんな楽しいことはないとずっと思っていた。
「じゃあ、別にあの二人の命があの後どうなろうといいじゃないか。」
カザマは更に苦しむだけさね。と母は豪快に笑った。
「あの二人に何かしたら……私が許さないから。」
「おーおー。怖いこと。楽しみにしとくよ、リリス。」
ぽんぽんと、母はリリスの背中を叩いて言った。
「大丈夫だよ、そんな怖い顔しないでも。父さんも末娘には甘いんだ。お前がおとなしく言うことを聞けば、ちゃんと約束は守ってくれるさ。」
多分ね、と。
誰よりも怪しい笑顔をたたえて母は笑うのであった。
やっぱりリリスはツンデレ(ぉ