ヨークの遺産と白銀の少女~ヨーク一族の気象予報士~
「え?無風の日……ですか!?」
「うん。」
市場のパンズが気に入った、と言われたシズクは今日もハクを連れて市場に来ている。
そして、彼女は満面の笑みを称えて茶色いパンを頬張っている。
「どうもね、2日後の深夜に、その時間はあるらしいのよ。」
「私どもの歴史の中で、あの砂山のある一体で無風になる、などという話は聞いたことがありませんが……。」
だからこそ、長い間あそこは草木も生えない、虫すら湧かないような場所なのに。
「多分、何百年に一度かの割合で、あそこの風の『目』が変わるらしいのよ。」
「風の『目』ですか?」
「そう。だから、あの砂山はあの一帯からさほど大きく動かないでしょ?」
「そう言われてみれば……。」
「海に海流があるように、砂にも砂流というか、なんというか、そういうのがあるみたい。」
「その仕組みを作っているのが、風の目、ですか。」
「そう。」
おばちゃーん、おかわりねー!とハクは皿を上に上げながら叫ぶ。
共通語は分からなくても、ジェスチャーだけで多分お代わりだと分かったのであろう。腰元がでっぷりした女性……おばちゃんがニコニコしながらパンズを運んできた。
ハクは嬉しそうに貰ったパンズにかぶりつく。その姿を見て、更に嬉しそうにするおばちゃん。
言葉は通じて無くても、顔で幸せな言葉は交流出来る。ハクはそう信じている。
シズクは相変わらず一口も口を付けていない。
「確かに、天候予報では、仰ってる日にちは晴れだとは思います。が……信じられない。」
「風が止むのは、本当に一瞬らしいのよ。多分30分あるかないか。」
「そうなんですか。」
辺境の地とはいえ、天気予報や気象状況などは随時衛星から得ているし、風の向きや研究などもかなり研究されている。
だからこそ、余計に『無風になる瞬間』があの砂山の地にあると思わなかった。思えなかった。
「ま、そういうのを調べるのもヨーク一族の腕の一つだからさ。」
「そういうものなんですか?」
「ヨークの作品は、デカイ物だったりすることが多いからね。しかも野ざらしな事も結構あるし。」
絡繰り時計だったり、広告衛星だったり。
とかく外に置いてある物が多い。勿論、手のひらサイズの小さな物もたくさんあるが。
「だから、天候や風向を調べるのはこちらの専門特許って事。」
「なるほど……。」
しかし、その高度な技術が他の惑星で使われているという話は全く聞かない。
「天候を調べてるスタッフのが一人だけだからね。」
シズクの思考を読み取るようにハクが続ける。
「その人の頭の中にしか、天候の法則もプログラムも入ってないの。」
「そんな凄い方が……。」
「ま、人っていうより、ロボットに近い人なんだけどね。あのおっさんは。」
ハクは昨日食べて美味しかったサボテンのデザートにかぶりついた。
「おい、ヒゲ。資料助かったぞ。」
「お、疫病神じゃないか。どうだった、白銀は元気だったか?」
「お前だろ、俺のことモジャ毛つってあの馬鹿に吹き込んだのは。」
資料室のカビと埃が合わさったような匂いにむせながら、センは件の男と対面する。
「お前のせいで、ことある事にあの馬鹿娘がモジャモジャ言ってきてんぞ!」
「モジャ毛なんだからしょうがないじゃないか。」
悪態をつきながら、手は一切休める事をしない。
多分、他の惑星の天候や環境を調べているのだろう。
「何かあっても、もう絶対お前には代理頼まねぇかんな!」
「おーおー。そうしてくれ。俺も厄介事が減って助かるよ。」
「じゃあな、ラムジフ。」
部屋を出て行くセンを、ラムジフはにやり、と笑って見送ると再びモニタに向かって専念しだしたのであった。
御察しの良い方(若しくは某番組が好きな人)はもうお分かりかもしれませんが、ラムジフのイメージはまんまです。てへ。
そろそろ登場人物を表記した方がいいのかなぁ。
いやぁ。でもどうだ。
悩みどころでございます。