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ヨークの遺産と白銀の少女~王家の遺産~

「あんじゃん!炭水化物!!!」

市場の中央に近い場所に通された二人は、朝ご飯と称して食事を供された。

ハクは涙目で平たく焼かれたパンのような食べ物に噛みついた。

まさしく、噛みつくという形容詞が正しいと思うようなかぶりつき方で。

「ん・まーい!」

「白銀様は、こんな質素な食べ物が好きなのですか……?」

シズクはびっくりしたような顔をしてハクを見ている。

喧騒の中で、誰が焼いたともしれないような食べ物を食べるなんてと、シズクは思ったらしい。

「あんた知らないのかい?この生き物達は、基本的に麦や草を食うらしいよ。」

「生き物いうな!」

「おーおー。怖い怖い。そのパンズは、この植物達を発酵させて酵母を作ってるんだよ。白ウサギ。」

頭に持っていた蔦のようなサボテンを一つ持ち、先でハクの頬をつつく。

「白ウサギとか言うな!デカ女っ!」

「おやおや、口の減らないウサギだねぇ。」

とリリスと名乗った女が笑う。


「王族の時代から民間に続くレシピだよ。……どうだい?王宮で出る飯より旨いだろう?白ウサギ。」

白ウサギという度にキバを剥くハクをからかいながらリリスは楽しそうに言う。

「何処まで、ご存じか。」

シズクの顔は、先ほどから険しい顔のままである。

周りの女達が訝しげに見るほどに。

「まぁ、座りなよ、シズク。それとも、『こんなところで』座って話すのは嫌かい?」

「!!!」

韻を含んだ言い方に、シズクはぐっと黙って藁で編まれた敷物の上に座る。

「こういうところで話す方が逆に安心なのさ。」

「そうだね。争い事こういう所じゃ御法度どころか、村八分にでもされかねないからね。」

分かってるじゃないか、白ウサギは。とリリスはグリグリとハクの頭を撫でる。

「みんな忙しいから、話に聞き耳立ててる余裕も無い。雑踏で声もかき消されるし、良いことづくめさ。逆に聞き耳立てたり、人と違う事をやってる奴は他の人からじろじろ見られる結果になる。」

あんたみたいにね。とリリスは手に持ったパンズをシズクに差し出した。

「……頂きます。」

シズクは、背中にひとしずくの汗をかきながら、そのパンズを受け取った。


「リリスは、あの遺跡の何を知ってるの?」

ハクは、パンズを3枚ほど頬張り終わった後、一息ついたのか漸く本題に入った。

「何を、も何も……いいかい。あそこは前の王政の時代の巫女が指定して作ったものなんだよ。」

「巫女?」

「巫女、というと女のようだけど、正確には男の神託者と言った方が正しいね。」

「神託者。」

ハクがシズクをちらりと見ると、シズクの表情は先ほどと同じで硬いままだ。勿論、手に持っているパンズは一口も口を付けられていない。

「当時、蠍と蛇は同じ一族だったんだ。」

「え?そうなの?」

「はい。それは……本当です。」

シズクはまだ、パンズとにらめっこをした状態のまま、ハクに言葉を追加する。

「その中で神に近い一族と、砂漠の中を遊牧する一族とに別れていった……と聞いています。」

シズクの言葉に、リリスははっと馬鹿にしたように言葉を返す。

「なーにが『神に近い一族』だよ。都を作って、勝手に巫女を囲って遊牧民を追い出した奴らだよ。こいつらは。」

「なっ!!!言葉を控えられよ、リリス殿!」

ぐっとパンズを握りしめてシズクがリリスを睨み付ける。

「シズク落ち着きなよ。部族間の歴史問題なんて、良くあることじゃん。」

ハクは、冷静に、冷徹に二人を諫める。

手には、サボテンで作られているのであろう、ゼリー状のデザートがあった。

「……申し訳ない、白銀様。」

中腰でリリスの前に行こうとしていたシズクは、自分より遙かに幼い筈のハクの言葉に大人しく座り直す。

「大体、口の利き方が汚いんだよ、リリスは。」

「おやおや、今度はあたしに説教かい?白いの。」

「説教っていうかさ、黙ってたらおとぎ話から飛び出したかのような美人さんなんだから、もっと綺麗な言葉遣いになればいいのに。」

「あらあら。お説教かと思ったらおべっかか。やるねぇ。白いのは。」

あははは!とリリスはセンの頭をなで回す。

「二人がけんか腰になってくれたから、逆にあたしは冷静になれたよ。」

なで回されてぐしゃぐしゃになった頭を治しながら、ハクは続ける。


「神託があってあのおかしな箱を建てた。そして、今、私が呼ばれてる。これも、神託なんだろ?」

「……はい。」

シズクが、リリスの顔色を伺うように頷く。それは、先ほどと同じ苦渋に満ちた顔だった。

「あたしらには、知られたくなかった、かい?」

「いえ……どの道、知られることでしたから。」

「なんで、蛇族には知られたくなかったの?それはあれが隠す、王族の遺産のせい?」

シズクとリリスがほぼ同時にハクを見やる。

「お二人さんさぁ。あたしにまだ喋ってない事、あんじゃない?」

空になったデザートの器を逆さにしながら、ハクはにやりと二人に笑った。


と言うわけで、『強気な女』のリリス登場。

ていうか、あれよね。あたし書いてる女性キャラ、みんな豪傑ばっかじゃね…?


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