ヨークの遺産と白銀の少女■序章■神の子孫
1970年、ソ連の科学雑誌「スプートニク」に当時としては突飛としか言いようがない論文を載せた人物が居た。
ミハイル・ヴァシンとアレクサンドル・シュシェルバコフである。
彼らが提唱したものは「月は人工天体である。」という説。
『月は太陽系の起源より古い』『しかも、石ごとに年代が食い違う』『月の自転周期と公転周期が一致してるのはおかしい(地球から月の裏側が見えないのは変)』『クレーターの数が多すぎる』
ここから飛躍して、「異星人が作った飛行船が、巡り巡って色々ぶつかったりして、太陽系の起源の時に偶然遭遇してそのまま衛星になっちゃったんじゃないか。」と。
当時ソ連の最高責任者だったレオニード・ブレジネフも「あっちゃー。言っちゃった?そういう事言っちゃった?」なんて手を額に当てて嘆いた後、「この子はソ連の子じゃありません」と言っちゃいそうなほどびっくりする説である。
彼らが提唱したものは、当時「ソ連の馬鹿学者がまた阿呆な事を」と無碍にされたが、「いや…でも…」みたいな人がやっぱり何処にでも居て、その方々がまるで口述の伝承の如く語り継いじゃった為、未だにその説がしっかり根強く世界のアンダーグラウンド7不思議的な所に居座っていたりする。
細かい事を書くと、月物体の密度やら、地震がどーのこーのという話になるんだが、そういうのを全部ひっくり返す話を、太陽系とはえらく離れた惑星の方がつぶやいた。
「そういえば、ヨークが初期に作ったっていうさ、あの広告用の衛星はどうなったんだろうね。」
男がつぶやいたのを拾い上げるように、スピーカー越しの女……若い声の女性が返す。
「打ち上げに失敗した挙げ句、飛んで行っちゃった衛星のこと?」
言い得て妙だが、その通りとばかりに青年は頷く。
「あれなら、どっかの系統の衛星になっちゃったって。」
「あちゃー。文明進んでる所だったら何が来たか分かるだろうけど…多分分からないだろうなぁ。」
「ヨークの作品を舐めるな。一見してあれが衛星だって分かる星人はそうは居ないよ。」
それは、太陽系の地球に浮かぶ、月という衛星の事を指していた。
「そういえばうちのとこの何世代か前が、一応念のため探索したっぽいんだけど…。」
「おお。さすがヨークの一族は違うね。金あるなぁ。」
探索、と言っても何光年にもわたるものだ。しかも八方に探索を出すとなると、お金の額は計り知れない。
彼女はその言葉を無言で受け流して続ける。
「なんか、『ムーン』とか言って崇め奉られてたらしい。持ち帰るも忍びなくてそのままにしてきたそうだよ。」
「…打ち上げ失敗しただけの、広告惑星なのになぁ…。」
そして、深い溜息と闇がお互いの空間に訪れるのであった。
と言うわけで書き始めました。
SFといわれれば若干のSF。そして、Fantasyと言われればFantasy。
少し不思議なSF、とでも受け止めてください。
ちなみに、次からはぐだぐだな二人のやりとりが始まります(予定