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我、怒っているなり

 ある平日の日の午後、魔王の視線はある一か所に静かに向いていた。


 数日前、初めての脱出作戦が失敗に終わった魔王は、庭で自分が掘った穴を埋めなおしている母親の姿をリビングから眺めていたのだ。次に庭に出れたときにトンネルを開通させようとしていた魔王だったが、あの日以降、庭に出れるチャンスは一度も訪れずあの日の魔王の努力は次に繋がれることはなかった。


 (我がせっかく掘った穴が埋められていく。あれ程苦労したのに、、、 あのときユイに捕まりさえしなければ。許すまじユイ。)


 悲しさでいっぱいだった魔王の気持ちは庭を眺めているうちに段々とユイに対する怒りに変わっていった。


 穴を埋め終え、庭から戻ってきた母親が一息つきながら魔王を撫で始めた。


「まお~ずっと見てたのね。そんなに穴掘りが楽しかったのね。でもあれぐらい深く掘っちゃうと雨が降ったときに大変だから、次掘るときはもう少し小さい穴にしてね。」


 (それは無理な話だな。開通させなければ外に出ることができん。お前らの都合など我の知ったことではないのだ。)


「でも一生懸命に穴掘りしてるまお、すごくかわいかったわ~。」


 母親が魔王に癒されていると学校を終えたユイが帰ってきた。


「ただいま~」


「お帰りなさい、おやつ用意してあるわよ。ユイの好きなお店のクッキー。」


 ユイはおやつ片手に宿題を早々に終わらせ、この日も魔王と遊ぼうと近づいてきた。


「まお、今日はこのネズミのおもちゃで遊ぼ!授業で作ってきたんだ~。」


 ユイはウキウキでこの日作ったばかりのおもちゃを魔王の顔の前に差し出すが、魔王はそっぽを向いていた。


 (断る。そんなものに興味はない。我と遊びたいのなら庭に出て穴掘りを手伝え。おまえのせいで我の苦労は水の泡になったのだからな。)


 魔王はプンプンだった。


「ん~、ねずみはお気に召さなかったかな?じゃあ今日もおままごとにしよっか。」


 (だからやらぬ。まずは謝罪が先だろう。)


 変わらずそっぽを向く魔王をユイは折れずに誘い続けた。


「まお~、一緒に遊ぼうよ~ ねぇえ~」


 いつまでも引かないユイに対する魔王の怒りはピークに達した。


 シャアーーーーーーー!!!(しつこいぞ!お前は我の脱出のチャンスを潰したんだ、誰がそんなやつと一緒に遊ぶか!)


「わ!まおがシャーした。今日はご機嫌斜めなのかな。」


「今日はずっと浮かない顔してたわよ。猫って気分屋な生き物だから、嫌がるときはそっとしておくのもその子のためよ。」


「わかった、ごめんねまお。気分が戻ったらまた遊んでね。」


 母親に諭されたユイは魔王と遊ぶのを諦めた。魔王はユイと距離をとって離れ、また1人で窓の外の庭を眺め始めた。


 (それにしても次の作戦を考えるしかないか。鍵になってくるのはやはりこの庭だ。まずはここに出れなければ話は始まらないのだが、基本的にこの窓はしまっているし、おまけに鍵もかかっている。他に庭に出れそうなところはないのか。)


 庭を見つめる魔王をユイは遊びながらも静かに観察していた。


 その日の夜、夕食を終えた後も窓の近くに向かい庭を見つめる魔王のもとにユイがやってきて話かけた。


「まお、さっきはごめんね。あの後ずっとまおのこと見てたんだけど、もしかしてまお、お庭で遊びたいの?ずーーーっとお庭を見てたから。」


 謝るユイの顔を魔王は覗き込んだ。


 (我が怒っている理由は違うが。あぁそうだ、我は庭に出たいのだ。)


 自分を見る魔王の顔を見て、ユイは何か感じ取ったような気がした。


「そうだよね、まおはずっとお外で生きてきたんだもんね。家の中よりお外で遊ぶ方が好きだよね。」


 魔王と話終えたユイは次は両親に向かって話始めた。


「ねぇ、もしかしたらまおはお外で遊ぶ方が好きみたい。この間も楽しそうにしてたし。」


「そうね、今日もずっと庭を見てたものね。」


「そっか、じゃあそこの窓は開けておくことにしようか。もちろん誰かが家にいるときの日中だけに限るけどね。」


「基本的に平日は私がいるし、まおが自由に出入りできるようにしてもいいわね。」


「じゃあ、けって~い!」


 家族の話に聞き耳を立てていた魔王は衝撃だった。


 (なんと!その話は本当か!そうなれば我のチャンスは格段に増えるぞ!)


「よかったねまお。お庭、自由に出入りできるようになるよ。1人で遊んでてもいいけど、私が帰ってきたらまた一緒に遊んでね。」


 (まぁ、こんな話になるならまた遊んでやってもいいだろう。)


 ユイへの怒りと共に今日一日を過ごした魔王だったが、そのユイがきっかけで脱出のチャンスが増えたことで魔王はユイを許すことにした。こうしてユイと仲直りした魔王は脱出に向けて一歩前進したのだった。



 









 









 

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