我、脱出を図るなり
雲一つない青空、太陽も笑顔な日曜日。
「ユイー、そっち持ってってー。」
「はーい、今行くー。」
学校も仕事も今日は休み。家族全員で準備をする。この日、本田家ではBBQが始まろうとしていた。
「お父さん、これもここ置いとくね。」
「ありがとうユイ。もう少しで火の準備ができるよ。」
どこか慌ただしくも楽しそうな雰囲気の様子を魔王は眺めていた。
(ユイもカケルも今日は休みだというのに朝からバタバタとどうしたんだ。まぁ、そんなことはどうでもいいとして、、、窓が開いてるじゃないか!!!)
そう、BBQは庭で行われるため、キッチンから物を運ぶ動線のリビングの窓は開いていた。魔王にとっては絶好のチャンスが訪れたのだ。
(この機を逃してはならん。早くいかねば。)
魔王は早速庭へ出た。
「まおも来たのー。お庭に来るの初めてだよね、どう結構広いでしょ。」
(うむ、予想より広いな。どこか抜け出せそうなところは、、)
庭中を見渡す魔王だが、その目に入ったのは思ったよりも高い塀だった。
(これはだいぶ高いがここを飛び越えるのが手っ取り早そうだな。)
塀の近くでジャンプをしている魔王をユイが眺めている。
「まお、ピョンピョンしてる。かわいい~。蝶々でもいた?」
(くそっ、この体ではこの塀を飛び越えられる高さまで跳ぶのは無理か。それにこの体、思っているより体力を持っていかれる。なにか他の方法を。)
魔王が跳び疲れ、別の手段を考えようとしていると本田家のBBQが始まった。
「久しぶりのBBQだからね、いっぱい食べてね。じゃあ、かんぱ~い!」
「お肉食べたーい。」
「こっちもう焼けてるわよ~。」
頭を悩ませる魔王だったが炭で焼いた食材の匂いが思考を一時停止させた。
(いつもとは違う良い匂いがする。そういえば今日はまだ何も食べていなかったな。)
「はい!まおが好きなお魚もあるよ。いっぱい食べてね。」
すっかり腹ペコな魔王もユイが用意した食べ物を食べ始めた。大好きな魚に満足げな様子の魔王だがなにか脱出の糸口は見つからないか、食事をしながらも頭を働かせた。
(塀の上を超えることは無理か。上は無理、上は、、、 !!! 上が無理なら下だ!穴を掘って塀の下から外に出ればいいじゃないか!)
名案を思い付いた魔王は食事を終えると、すぐにトンネル開通大作戦を開始した。
(地道な作戦だがこれが確実だろう。ユイよ、我に魚を与えたのが間違いだったな。魚を食べた後の我は先程までとはまるで別人だぞ!ははははははははははは!!!)
凄い勢いで穴を掘り進める魔王を本田家はにこやかに見守っていた。
「ふふ、まおったら穴掘り始めちゃった。」
「何か虫でもいたのかな。夢中になってるね。」
「まお、楽しそうだね。かわいいな~」
あくまで遊んでいるようにしか見えない本田家はいつもの夕食のように話に花を咲かせながら、その後もBBQを楽しんだ。
(ぜぇ、ぜぇ、、 だいぶ掘ったと思うが、外まであとどれぐらいだ、、)
魚を食べ終えたのもとうに昔の話、お腹は次の食事を求め始めたころ空模様は夕方を超え、すっかり暗くなっていた。穴掘りに夢中になっている魔王をよそに、本田家はBBQの片付けを進めていた。
「お家に入って二次会だね~」
「ユイ、ちゃんとデザートも用意してあるわよ。」
「やったー!早く片付けてデザート食べよ~」
(疲れた、、、ジャンプするよりもこっちのほうが遥かに体力を使った。だが、そのかいあってかもう少しで外に出れそうだ。あと一歩で、、)
魔王が必死に掘り続けたトンネルもいよいよ開通が見えたときだった。
「まお~お家入るよ。」
ガシッ
片付けを終えたユイが魔王の体を掴んで抱き上げた。
(おい!離せ!もう少しで外に出れるんだ、離せってば!)
「だーめ!今日はもうおしまい。また今度やろうね。」
ユイの腕の中で暴れる魔王だったが、穴掘りの疲れからその腕を抜け出せる力はなかった。
「ははっ それにしてもだいぶ掘ったな~、ありゃ埋めるのも大変だ。」
「ふふふ そうね。今日はもう暗いし、別の日にしましょ。」
「まお、泥だらけだから綺麗にしてあげなくちゃ。」
わしゃわしゃわしゃ
「しっかり洗わないとね。」
「どう、まお?シャンプー気持ちいい?」
魔王は母親に見守られながらユイと父親に泥だらけになった体を洗われていた。
にゃおーーーーーーん!!!(もう少しだったのに、もう少しだったのにーーー)
「ふふっ だいぶ気持ちいいみたいね。」
こうして、魔王の初めての本田家脱出作戦は失敗に終わった。