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我、歓迎されるなり

  「今日からここがまおのお家~」


 上機嫌で家のドアを開けるユイ。この日、魔王が本田家に降りたった。


「改めまして自己紹介から。本田ユイ、小学3年生です! 今日からまおのお姉ちゃんだよ~~。 そして」


「本田ミサキです。みんなのお母さんです、まお、今日からよろしくね。」


 黙って2人の顔を見つめる魔王。


 (ゆい、みさき、、 邪魔者は2人か。2人くらいなら目を盗んで抜け出すのも容易そうだ。)


 そんなことを考えていたようだ。


「では、まおに本田家を知ってもらうためにルームツアーをしまーす。」


 自己紹介を終えると、母親が夕食の準備をしてる間ユイの案内でルームツアーをすることになった。特に興味のない魔王だったが、脱出の算段を立てるためユイに付き合うことにした。


 (いざここを抜け出すときのため作りくらいは把握しておくか。)


「まず、ここがリビングです! ここでみんなでご飯を食べます。 その他にもソファに座ってテレビを見たり、みんなで遊んだり、ここにいる時間が1番長いと思う。」


 (我がいた城でいうところの広間か、まぁ、あれほど広くはないが。)


 魔王がリビングを見渡しているとユイがカーテンを開けて言った。


「そしてここがお庭! 良い香りのお花がいっぱい咲いてるの。天気のいい日はここでひなたぼっこすると気持ちいいよ!」


 ユイの話など上の空、魔王はこの庭こそが本田家脱出のカギだと考えていた。


 (ここだ、ここに出れさえすればここを脱出できる。まずはこの庭に降りたつことが最重要課題だ。)


 庭に興味がありそうな魔王の様子を見てユイは笑顔を見せた。


「今日はもう夜だから、また天気がいい日に遊ぼうね。」


 魔王とユイは目的こそ違ったが、お互い庭に出れるのを楽しみにしていた。


 庭の説明の後もルームツアーは続いた。キッチン、お風呂、寝室など そして最後の部屋の説明がちょうど終わったころ、父親が仕事を終えて帰宅した。


「ただいま~ おぉ!君が聞いていた猫さんか! 実際に会ってみるとやっぱりかわいいなぁ。」


「おかえりお父さん。 まおだよ!この子のお名前はまお!」


「まおか~。 本田カケル、お父さんです。仕事帰りの癒しが増えてまた明日から頑張れそうだよ。」


 父親は初対面で早くもデレデレの様子だった。


 (な、面倒なやつが他にもいたのか!? これは一筋縄ではいかなそうか。)


 予想外の父親の登場に魔王は脱出の難易度が1段階上がったように思えた。


 父親が早速魔王と距離を縮めようとしたときキッチンから声が聞こえてきた。


「できました~ さぁ、ご飯にしましょう。」


 すっかり腹ペコなユイと父親にとって待ち望んでいた知らせだった。2人は魔王を連れ母親が待っているリビングへ向かった。


「はい、まおもご飯だよ。」


 夕飯の席に着いたユイの足元に魔王のご飯が用意された。今日は魔王の歓迎会とのことで母親は普段より張り切ったようで、魔王のご飯もキャットフードではなくマグロなどのお魚の切り身だった。


「では、まお、ようこそ本田家へ! せ~のっ」


「いただきまーす!」


 ユイの一声で本田家の夕飯の時間が始まった。絶品の母親の手料理に箸が止まらないユイとは真逆で、食が進んでいない魔王の様子に父親が気が付いた。


「まお、食べてないみたい。退院したばかりだし、まだ本調子じゃないのかな。」


「どうだろう。先生が言うには入院中もまともに食べてなかったみたいなの。」


 (知らんやつが用意した訳の分からんものをそう簡単に口にする筈がなかろう。 そもそも、この姿は手が使えず食事などまともにできん。)


 人間界で出される食べ物はもちろん魔王が見たことのないものばかりで、魔王は警戒心から食事をせず顔をそむけていた。


 そんな魔王の口元に魚の切り身があらわれた。


「まお、お魚だよ。 嫌いかな?ご飯食べなきゃ倒れちゃうよ。」


 そう言って魚を差しだすユイだが魔王はまた顔をそむけた。だが5日も食べていないため空腹が限界まできていたことも事実だったため、魔王の脳内は食べてみたさと警戒心のせめぎ合いが行われていた。


 だがユイは懲りずに魔王の口元に魚を運び続けた。


 (あー鬱陶しい! わかった、一口だけだぞ。)


 ユイの粘りに負けた魔王は差しだされた魚をとうとう口に入れた。するとどうだろう、今まで味わったことのない旨味を魔王の舌は感じ取った。


 (!!! なんだこれは、これは初めての味だ。 うまい、うますぎるじゃないかぁぁぁ)


 一口でおいしさに負けた魔王は皿に用意された残りの魚にありついた。


 すごい勢いで食べ始めた魔王をみて本田家の3人は安心し、再度自分たちも食事を進めた。


 食事を終えた魔王は、同じく食事を終えたユイに抱かれソファに連れていかれた。ソファに座るとユイは魔王を撫でながら優しく声をかけた。


「まお、うちに来てくれてありがとう。これからいっぱい楽しく過ごそうね。」


 (あの魚という食べ物、大変うまかった。空腹に負けつい口にしてしまったが、あんなにうまいものが毒物なわけもないだろう。 さて腹も満たしたことだ、脱出の方法を考えるとするか。 あれ?でも瞼が重い、、、やはりあの食べ物、食してはならんものだったのk、、、)


 ユイの話を聞くこともなく脱出について頭を働かせようとする魔王だったが、久しぶりの満腹感とフカフカのソファの気持ちよさ、さらに退院が決まったときからテンションが上がりほとんど寝ていなかったため、この日の魔王の体力はここで底を尽きた。 決して魔王の食べた魚が体に悪いものではなかった。


 そして激しい睡魔に襲われていたのは魔王だけではなかった。魔王を撫でていたユイもこの日は、魔王が我が家に来る楽しみからいつも以上に体力を使っていた。


 気づけば2人は、ユイが魔王を抱きかかえるような形をしてソファの上で眠っていた。それに気づいた夫婦は毛布をかけてあげると、幸せそうな顔で眠る2人を優しく見守りながら食べ終わった食器をかたずけ始めた。


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