我、まおなり
退院当日、やっと外に出れる嬉しさから魔王は一睡もしていなかった。
部屋の小窓の外から聞こえてくる鳥の鳴き声が魔王にはまるでファンファーレの様だった。
(今日だ!今日だろう! 早く我を外に出せ!)
ソワソワしっぱなしの魔王の元へ先生に連れられたユイと母親が顔を出した。2人は落ち着く様子のない魔王を見てケガの回復を実感し、安心感からホッと胸を撫でおろした。
「猫さん動けるようになってる! 良かった、元気になったみたい!」
「痛そうな様子もなさそうね。 よく頑張ったわ!」
嬉しそうな2人を見て先生も口を開く。
「ごらんのとおり動き回れるまで回復しました。退院が決まったときから落ち着きがない様子なのでこの子もよっぽど嬉しいんでしょうね。 私も元気な姿を見れて本当に嬉しいです。」
2人に喜びを告げ笑顔の先生だったが、すぐに真面目な表情に変わり、続けて話した。
「それでここからが本題なのですが、この猫ちゃんの今後についての考えは答えが出ましたでしょうか。」
「はい。家族全員で話をした結果……
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前日の夜、本田家では退院後の魔王について話がされていた。
「明日、猫ちゃん退院だけどその後はどうしようかしら。 やっぱり元居た場所に帰してあげるのがいいのかな。」
「僕も誰か飼える人がいないか会社で聞いてみたけど、みんな無理だって断られちゃった。 ユイはあれから考えてみたかい?」
「私は、、やっぱり猫さんにうちに来てほしい。 元の場所に帰してあげて、もしまた何かに襲われたりしてケガしたら嫌だなって思ったの。 猫さんの気持ちはまだ分からないけど、痛かったり辛い思いをするのは嫌って気持ちはみんな一緒だと思う。 私は猫さんの一生に混ぜてもらいたい。そして猫さんが一生でする痛い思いを少しでも少なくしてあげたい!」
自分なりに考えて出したユイの答えを聞いて両親は驚いた。 母親は、興味本位で飼いたいというわけではないどころか、そこまで他者を思える気持ちが芽生えていたことを知り嬉しさが込み上げ、目には涙が浮かんだ。 父親は自ら改めて考えるよう促したが、その答えが自分の予想を超えてきたこと、そして母親と同じく娘の優しい気持ちに触れ、娘の心の成長を実感し喜びが溢れた。
「まさかユイがそこまで考えられるようになっていたなんて、お父さん感動したよ。 わかった、その猫うちで飼おう! お母さんもいいかな?」
「もちろん。 精一杯、家族全員で幸せにしてあげましょう。」
「やったーー! 猫さん、新しい家族だー!」
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「はい。家族全員で話をした結果、この子をうちで迎え入れようと思います。」
「そうですか、それは私も嬉しく思います。一安心です。」
本田家の答えを聞き先生は笑顔を見せた。
だがその話を聞いていた魔王は自分の計画が早くも狂いそうになっていることに危機感を覚えた。
(なんだと!?ここを出たら元の場所へ戻れるのではないのか? 我は一刻も早くアニマ―王国への手がかりを探さなければならんのだ。 こいつらに連れられてしまったらここにいるのと何も変わらないではないか。)
そんな魔王の気持ちなど知らずユイは魔王が入ったケージを開けた。
「猫さん、一緒にお家に行こう。 今日から私たちの家族になろう。」
やっとケージから脱出できる瞬間が来たが魔王は足を踏み出さずにいた。
(誰が自ら進んで捕まりに行くか。)
なかなか出てこない魔王をみてユイが話かけた。
「猫さんうちに来るの嫌? うちに来たらケージから出て過ごせるよ? お庭もあるから広くのびのびできるよ?」
ユイの話を聞いたその時魔王は少し考えた。
(庭がある?ということは、抜け出すことも可能なのか? どのみちここにいても何も変わらないのなら、、 賭けてみるか。)
本田家に行ってからの方が自由になれる可能性が高いと考えた魔王は足を踏み出した。
とうとうケージから出てきた魔王をユイは笑顔で抱き上げ笑顔を見せた。
「良かったです。 可愛がってあげてくださいね。 ところでこの子のお名前は既にお決まりですか?」
そう先生に尋ねられると、ユイは一度母親と顔を見合わせた後また魔王の顔を見つめ微笑むように言った。
「まお、この子の名前はまお!」
どうやら病院にくる道中ユイと母親の2人で考えていたようだ。
(ふん、そんなものどうでもよい。早くここより広い場所へ連れていけ。)
「お世話になりました。本当にありがとうございました。」
魔王と先生に名前を教えた後、ユイと母親の2人は感謝の気持ちを告げ笑顔で病院を後にした。2人と1匹を見送った先生はその後ろ姿が見えなくなるまで眺めていた。