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真相

 「黒幕……ですか」

 「そうだ。この事件は1人の男が考えたものだ」

 マテルボルン伯はアンスフィルの顔を無言で見つめた。アンスフィルは少し驚いたような顔をしていた。


 「アンスフィル、お前が黒幕だ」

 「やはり父上はごまかせませんでしたか」

 「大して隠すつもりもなかったのであろう」


 狩りを開催し、その狩りの場でアンスフィルに兄の暗殺未遂事件を起こさせる、という筋書きはアンスフィルが考えたものだった。この計画をダルンフィルに吹き込むために、謀将デルデボイテを利用した。デルデボイテは、アンスフィルの計画の全貌を知った上で協力していたのだ。

 不出来な兄と優秀な弟の共存は、兄に相当の度量がないと難しい。そうでない場合はいずれ家中に災いをもたらす。アンスフィルの策を用いればそれを回避できるとデルデボイテは判断した。犠牲を伴うため最良ではないが、有効ではあった。


 ヨーレントの注意を逸らす仕掛けも用意した。狩り場にいた「不審な男」はただの領民である。単に「不審に見えるように」立たせていただけだ。そして、ダルンフィルの家臣を使ってヨーレントらの注意を引きつける。これまたデルデボイテがダルンフィルに吹き込んだものだ。ダルンフィルの家臣は不審な男を調べると称して、領民に報酬の銀貨を渡して立ち去らせた。

 この間に、ダルンフィルの誘導という体でダルンフィルとアンスフィルは2人きりになる。デルデボイテ発案の謀略と信じ込んでいたダルンフィルは、言われた通りにアンスフィルを水場に誘い出し、腕に傷を付けて大騒ぎした。デルデボイテは、ダルンフィルへの嫌がらせとして「思いっきり矢を突き立てるべし」と指示していたが、土壇場で恐れをなしたダルンフィルにはできなかった。

 罠にはめられる当人が考えた計画なのだから、成功するのは当たり前だ。

 「出来の良い弟は兄の暗殺を謀って追放され、嫡男である兄はつつがなく爵位を継承して一件落着、か。この筋書きなら弟の家臣たちも反論の余地がない」

 ダルンフィルは、アンスフィルを害するような問題をいずれ引き起こす。この場合、家中が分裂する恐れがある。ダルンフィルが起こす問題は制御できるかどうかも分からない。であれば自分で制御可能な問題を起こしてしまった方が確実だ。

 「とはいえ完全な悪者になる覚悟もなかったようだな。ダルンフィルのこれまでの言動も計算に入れていたのだろう。『数々の嫌がらせに耐えてきた弟』には同情的な者も多い。暗殺未遂となれば重罪だが、自ら身を引くなら情状酌量の余地があると思わせることができる、と」

 「まあ、確かに。『石を投げられながら故郷を追われる』というのは避けたい、とは思いました」

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