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マテルボルン伯の家臣たち

 「大変よろしくない状態だ」


 マテルボルン伯の家臣の1人であるヴァル・カッドエイル・ソルターニエは、ぶどう酒を飲み干してからつぶやいた。

 「貴公の懸念はもっともだがな、下手なことはできまい」

 同じくマテルボルン伯の家臣に列するヴァル・ウレスペイル・ロローエドンは、カッドエイルの杯にぶどう酒を注ぎながらたしなめた。迂闊な行動が火種になって伯爵家を炎上させるきっかけになっては元も子もない。

 「ご兄弟を和解させることができればよいのだが」

 カッドエイルはそう言うが、あれはそもそも「和解」が成立する状態なのか。兄が一方的に弟を憎んでいるだけではないか。兄が嫌うから弟は兄に近づかないようにしているが、兄を厭うての行動ではない。会えば睨み付けられ、嫌みを言われるのだから、弟としては目を伏せて避けるしかないだろう。喧嘩なら仲裁のしようもあるが、これではどうにもならない。兄をたしなめて済む問題であれば、マテルボルン伯がとうに解決しているだろう。

 ウレスペイルは、ため息をつくとぶどう酒を飲んだ。少し渋みが強過ぎるな、と思った。


 何をやっても弟に後れを取り、母には冷遇される。その様子を見てきたウレスペイルは、ダルンフィルを責める気になれなかった。しかし、このままダルンフィルが家督を相続したらアンスフィルへの風当たりはさらに強まるだろう。今は2人の父であるケルノフィルが両者の均衡を取っているが、父という歯止めがなくなった後、ダルンフィルが何をするか予想できない。いや、悪い予想しかないと言うべきか。アンスフィルを守るものは何もない。

 母のリリスフィールが影響力を及ぼすとなると、さらに悪い結果になる恐れがある。リリスフィールにアンスフィルを守らせるのも得策ではない。


 思考を巡らしていたウレスペイルは、思わずつぶやいた。

 「大変よろしくない状態だ」

 ふと横を見ると、カッドエイルが眉をひそめて睨んでいる。

 「だから、私がそう言ったではないか」

 2人は苦笑して、改めて乾杯した。


 その頃、ダルンフィルの屋敷にヴァル・デルデボイテ・ピンザレンという男が訪ねていた。彼もマテルボルン伯の家臣の1人で、切れ者ゆえにマテルボルン伯家の謀将と評されている。ダルンフィルが招いたのか、デルデボイテの方から訪ったのか、それは分からない。

 これを見とがめた者が、わざわざアンスフィルに知らせてきた。何かある、用心されたし、と。

 「やれやれ、どこにでも目はあるものだな」と、アンスフィルは苦笑した。

 「兄君とデルデボイテ卿の密会とは、きな臭いですな」と、アンスフィルの家臣ヴァル・ヨーレント・イガレンスが顔をしかめた。だから注意すべしと、ヨーレントは続けた。

 「そう……だな。心得ておく」


 その10日後、アンスフィルの下にダルンフィルから招待状が届いた。

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