#6『機械仕掛けの』
〈正義と悪の街?、虚城前〉
道中、特にアクシデントに見舞われることも無くあっさり城まで辿り着いた。それは巨大な月をあっさり覆い隠すほど大きく、見上げてるだけで首を痛めそうだった。
「そういえば、火を消さずに来てしまいましたが、大丈夫だったんですか?」
『どの道目印にはなるだろう。とりあえず、さっさと終わらせるぞ。』
カーネリアンは不愛想なオブシディアンの考えがいまいち掴めずに居た。だが、自分だけでこの街を生き残れる自信も無い。2人は裏口と思われる場所から、この虚ろな城へと足を踏み入れた。
入る前に、外から窓を覗いてみたが、中は真っ暗で何も見えなかった。月の光でさえ、この城の中には入れなかった。
〈虚城、????〉
「うわ、ここ真っ暗ですね......」
城に入った瞬間、明暗の差で一瞬目眩を起こした。ここは地下牢で目を覚ます直前に見た、あの場所によく似ていた。
『何か目星を付けられるものがあればいいが、この闇の中だ。あのランタンまた点けられないか?』
「あぁ、はい。良かったら2本ありますので、オブシディアンさんも持ちますか?」
『いや、灯りはなるべく長く欲しい1本ずつ使おう。』
カーネリアンは一度入口まで戻り、ランタンに明かりを灯す。
「オブシディアンさん、まだそこに居ますか?」
『あぁ。さすがに道標が無いと面倒だな。壁を伝っていくのはどうだ?』
「確かにその方が良いかもしれませんが......もしあの化け物が出てきたらどうします?」
『物音で場所を特定するしかないな。なるべく静かに進もう。』
2人は入口から右側の壁に触れながら、ゆっくりと歩み始めた。
「いたっ、ここ壁みたいです。曲がりましょう。」
カーネリアンは壁に頭をぶつけ、手をやや前に出しながら進むことにした。
〈虚城、????????〉
広い廊下らしき場所に出た。手足の間隔ばかりを頼っていると、返って他の間隔が優れて来る。視覚、聴覚、味覚、嗅覚......
「なんか、変な匂いしません?」
『変?あぁ、確かに言われてみれば......』
悪臭とまでは言い切れないが、確かに形容しがたい匂いだ。酒でも肉でも、自然の匂いでもない。
「これは......まるで......なんというか.......血?」
『......何故血の匂いが?』
「さぁ......?この城に吸血鬼でも住んでるんでしょうか?」
『建物の匂いをまるごと血の匂いにする吸血鬼......』
「変な吸血鬼ですね」
『吸血鬼ってのは変なものじゃないのか?』
「まぁ、確かに。でも、今の街の惨状を見るに、吸血鬼が居てもおかしくは無いですね。吸血鬼は日光を浴びると体が灰になりますから、それなら永遠に太陽が昇らない事を願っても不思議じゃないですし」
『カーネリアン。』
「はい?」
カーネリアンは話に夢中で気付かなかったが、オブシディアンには確かに聞こえた。その音が。足音ではない。何かが、風を切る音だ。そして一瞬だけ、暗闇が少しだけ晴れたように感じた。
『!?』
(飛び道具。正面からだ。)
(どうします?よりによって遠距離の相手ですよ。)
(そこでじっとしていろ。俺が倒してくる。)
(待ってください!僕を一人にするんですか!?)
(敵はそう遠くない位置に居る。その明かりを目印に、場所を特定し倒すだけだ。)
カーネリアンはオブシディアンの提案に渋々同意し、その場でしゃがんだ。少しの静寂が流れる。
敵の動きは勿論視認できない。故に、聴覚で飛び道具を察知し、飛んで来た方向から場所を特定する。
(来た。)
暗闇の中に居るのを逆手に取り、オブシディアンは半身を溶かして壁を作る。やはり弾は正面から飛んできており、場所を移動してはいないらしい。
(特定した。殺してくる。そこで待っていろ。)
(早くないですか!?)
オブシディアンはランタンの光を背に、両腕に刃を形成する。敵が弾を飛ばす音を聞き逃さぬように、足音を立てずに前進する。
敵は再び弾を飛ばす。オブシディアンはその音と同時に、自身の正面に刃を持ってくる。刃先に微かな感触があった後、それは真っ二つに切れて無くなった。
オブシディアンは再び前進する。敵の弾を飛ばす速度が、少しずつ早くなっているような気がする。だがそれはただ1点を狙い続け、オブシディアンの刃に当たり消える。
(そこだな。)
オブシディアンはもう片方の腕を振りかぶると、その場で姿勢を低くし、敵を中心から真上に真っ直ぐと切り上げた。
ギャアアアアアアアアアアアアア!!!!
金切声の悲鳴が響く。それの身体は溶け出すと、カーペットのシミとなった。それと同時に、辺りに立ち込める霧と異臭が消えて行く。
「これは.......」
気が付くと窓の外から光が差し込み、城の中を視認できるようになった。
『どうやら、今倒したのが霧を出して、この城への光の侵入を妨げていたらしい。』
「なるほど......」
『ランタンの日は一応消しておけ。蝋燭を温存しておこう』
「そうですね......ですがそれよりも......」
『ん?』
カーネリアンはオブシディアンの両腕を見つめる。
『あ、』
「随分変わった神子石の武器ですね」
『え?』
「腕にはめる刃ですか......興味深いです。」
『あ、あぁ......』
何とか難を逃れたようだ。2人は敵の居た場所から奥へ進むことにした。
〈虚城、大広間〉
何やら開けた場所に出た。柱が何本も規則的に連なり、中央には開放的な空間が広がっている。
「あれは......!!?」
カーネリアンは広間の中央にあるものに、目を大きく見開いた。
そこには金属で出来た、巨大な機械人形があった。
「どうしてここに!?」
『これは?』
「僕が探していたものです!!これがあれば!僕も戦力として戦えます!!」
『なるほど。だが屋内で戦うには少し大きくないか?』
「あ、確かに.......あぁでも、あれの中にあるものなら使えるかもしれません。」
2人は機械人形に歩み寄ろうとした。だが、それから発せられた炉の燃える音を聞き取り、咄嗟にそれから距離を取る。予想通り、それは関節の軋む音と共に、自立してみせた。
「お前......そんな機能を付けた覚えはないぞ!!」
その巨体は無い頭部から赤い光を放ち、それは2人を見下ろす。気付けば関節の至る所から化け物の身体と同じ様な液体が滲み出し、人形の両腕にはあの文様が現れていた。
『壊すか?』
「......」
カーネリアンは人形を前に唖然とし、オブシディアンの問いなど耳に入ってすらいないようだった。
〈数年前......〉
あの2人とは違う道を歩み、僕は親の工場の後を継いだ。
親の工場はこの街で唯一、神子石の加工を行っている工場だ。その歴史は長く、この島が開拓されてからずっとあの場所にあり続けていた。その時代からの遺産がこの機械人形だ。これを動かせるのは、僕と血が繋がっている人だけ。
それは、神子と共に歩み、この島を守る、先代達の覚悟の表れだった。だが、大災害の時、これは使われなかったらしい。大災害が起こったのは僕が赤子の頃、この人形を使おうとした頃には、とっくに親は病死していた。
この血統は、僕だけになってしまった。
僕もこの血に流れる何があれを動かしているのかは分からない。親はこれの事を、教える前に逝ってしまったのだから。
「ごめんなさい。僕には......どうしたらいいか.......」
『......』
オブシディアンはカーネリアンを横目で見つめる。オブシディアンから見ても、その葛藤の心は一目瞭然だった。
『あれについてなるべく情報をくれ。傷付けない努力はする。』
「......!!」
『だがお前を守りながらは無理だ。なるべく遠くに離れてろ。』
「はい!!」
カーネリアンはそう言うと、無数にある柱の1つに身を隠した。オブシディアンは腕を溶かすと、刃ではなく大きな結晶の塊を形成した。
To be continued.




