#5『レジスタンス』
『煙に釣られて増えて来たな。いいだろう。全員まとめてかかって来い』
気付けば少数だった周囲の化け物の数が、増えて来ているように感じた。
「あの!もう一度聞きますけど!!これって何の意味があるんですか!!!」
『普通の夜だったらこんなことしても意味が無いだろう。だが上を見てみろ!あのバカでかい月だ!あれのおかげか光が当たる所は普通の夜と比べて一層明るくなる。なら煙を焚けばそれに俺らみたいなやつが気付くかもしれんだろ!!それにこいつら、光を嫌うんだろ!だったら火を大きくしちまえば!!少しは安全な場所が広がんだろ!!!!』
そう言いながらオブシディアンは絶えず化け物を1人1人葬る。
『チッ、雑魚ばっかとはいえさすがに数が多いな。だが潜ったらあらぬ疑いをかけられる......まぁ幸い、俺の身体は息切れするような気配はない。面倒だが、最悪の場合このまま皆殺しにするまであいつを守る必要が出て来るな。』
(もしかしたら、何かお前の興味を引くもんがあるかもな。)
ふと、頭の中にトリカの言葉がよぎる。
『あいつ、もしかしてこれの事知ってたのか......?だとしたらどうやって結界を抜けたんだ?』
敵の殲滅は単調な作業になりつつあり、やがてオブシディアンの頭の中には雑念が現れ始めた。
『あーもう!鬱陶しいな!!どんだけ出てくるんだ!!』
オブシディアンが化け物に怒鳴りつけた時、化け物達の数が少しずつ減っていくのを感じる。化け物が中庭から背を向けどこかへ消え始めた時、中庭の中心から声がした。
「オブシディアンさん!火すごい燃えてますよ!!」
カーネリアンの方を見ると、中庭には日陰、いや、月影になるような場所は消えてなくなり、大きな炎の灯りが周囲を照らした。
『これでここは一旦安全だろう。』
「はぁ......ところで、聞いても良いですか?」
『どうした?』
「もしかしてですけど、この街全てを燃やすつもりじゃないですよね?」
『さすがにそれはしない。お前にも、居場所ってのがあるんだろう。』
「居場所......確かにそれもそうですが、この街は......あれ、」
カーネリアンは体をふらつかせ、オブシディアンの方へ倒れこんだ。
「あはは......酸欠みたいです。」
『......』
オブシディアンは酸欠が何なのか聞こうとしたが、カーネリアンの呼吸が荒くなり、体の重心が傾いているのを感じ、急いでカーネリアンを抱え、火の元から距離を取った。
黒煙立ち昇る中庭の外側にある、少し高い屋根の上にカーネリアンを寝かせると同時に、オブシディアンは再び街を一望した。最初に街を見下ろした時に見えていた大きな城は、さらに大きく見えていた。
中庭から真っ直ぐ屋根に飛び乗ったが、幸いカーネリアンから怪しまれる事は無かった。
『この街は、もともとこうなのか?』
「これは......」
カーネリアンは上半身を起こし、変わり果てた街を目にする。その瞳には、街の中央にある城よりも、その中心のある1点があった。
「いえ、僕があそこに閉じ込められる前は、あそこには時計塔がありました。」
カーネリアンは城を指差す。
『さっき言ってた奴か』
「時の神子が時計塔の上で、街の皆を見守ってくれるおかげで、僕達は安心して暮らす事が出来ているんです。言ってしまえば、僕たちの命は時の神子と共にあるという事です。それが今や、あんな姿に......もしかしたら、時の神子もあそこに居るかもしれません。」
『とにかく、目的地は決まったな。』
「あー、それなんですが......」
『ん?どうした』
「良かったら、僕をある場所へ連れて行って欲しいんです。」
『どこだ?』
「この街の北の方に、僕が働いている工場があります。そこに行けば、僕も戦力になれるかもしれません。」
『そうか。ならまずそっちからだな』
「ありがとうございます!」
『礼は着いてからにしろ。』
カーネリアンが酸欠から回復すると、月の影に沈まぬように、屋根を飛び移りながら北へと向かった。
〈正義と悪の街?北部〉
途中躓きそうになりながらも、道のりは案外短いもので、あっという間に目的地に着いた。
『それで、目的の場所はどこだ?』
「えっと......」
カーネリアンは辺りを見渡す。やはり街そのものが完全に別のものになっている。カーネリアンの言う工場らしきものは無く、そこには少し見晴らしの良い塔があるのみだった。
「......はぁ......ごめんなさい、もしかしたらと思ったんですが、やっぱり悪い方の予感が当たりましたね」
『気にするな。お前は自分の命だけ考えてればいい。無理に使命感に駆られる必要はない。』
「オブシディアンさん、凄いですね。」
『......?』
「容姿は僕と同じくらいなのに、僕なんかより物事を客観視するのが得意みたいで。それは普通の人じゃ出来ない事です。少し、僕の友人とも似てる気がします」
『.....そうか。だが俺は褒められるような柄じゃない。ほら、目的のものがここにはないとしたら、後はあの城だけになるだろう』
「そうですね。早くこの異変をどうにかしないと......」
2人はその場を後にし、城へとまっすぐ進み始めた。
〈??????〉
街に妙な月が昇って、どれだけ経っただろう。あの子は無事なのだろうか。
「また考え事かい?」
私と同じく、夜の闇を彷徨う者がもう一人。彼女は深紅のマントをひらひらと揺らしながら、私の隣に腰掛ける。
「私達には友人が居た。彼だけじゃない。私達は事を収めた後、沢山の友人に囲まれた。だが、今ではこれだ。」
「まぁ、気が滅入るのも分かるよ。私も、不安を一切抱いていないと言えば嘘になる。」
2人は路地裏で焚火を焚いて、そこを拠点とする。幸い化け物はこの僅かな光でも、直視する事は出来ないらしい。そして......
「少し離れた所から、また数人抱えて来た。やっぱり目を覚まさない。」
2人が暖を取る焚火の奥、大きな布の上に、沢山の人々が仰向けになっている。皆、2人が交互に見張りながら、ここまで背負ってきたのだ。
「私達は医者でもなければ、薬剤師でもない。彼らを起こすには、どうすればいいのだろう。」
「暗闇の中、蠢く化け物達。あの呪いとよく似ている。」
「あんなのもう二度とごめんだよ。核を潰す時、結構痛かったからね」
「そこかよ......まぁ、こうして冗談に出来るだけいいか。」
2人は空に浮かぶ巨大な光源を見つめる。それは周りの星の光すら飲み込み、今にも地上に落ちて来そうなほどだった。
「私達が何か動かないといけないのは分かってるんだけどね......」
「がむしゃらにやっても駄目だろう。なにかきっかけがあれば......うん?」
路地裏の外、何かが蠢く音がした。2人は意思疎通を取るまでも無く、相手が居るであろう場所を推測しその死角へ隠れた。
蠢くものは街の大通りへと出た。それは水溜まりから姿を現すと、辺りを見渡す。彼女は物音1つ立てる事無く、蠢くものの頭部をレイピアで3度貫いてみせた。
蠢くものはあっさりと体の原形を保てなくなり、澄んだ水溜まりとなった。
「この辺には現れなかったんだけどな......ん?」
彼女はレイピアを鞘に納めると同時に、遠くの方で黒煙が上がっているのを見つける。
「ローズ、あれ。」
ローズと呼ばれた女性は路地裏から出て来ると、彼女と同じものを目にする。
「結構あっさり見つかったね」
「あぁ。ここ半月くらいの苦労は何だったんだ。」
2人は路地裏の眠っている人々を、テントの中に入れると、黒煙立ち昇る方角へと向かった。
To be continued.




