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#1『加賀知トリカ』

〈???〉



息が出来ない


と言うより、する必要が無いのかもしれない


最初は確かにこの薄暗い場所が怖かった。だけど、今となってはこれが心地良い。


ここは微かに黒く濁った水の中のようで、私はその中を漂っている。見上げると、天から微かに光が漏れている。だが、ここにはそこが無く、あるのは永遠に広がる暗闇のみ。その闇は天から差し込む光すらも容易く呑み込んでしまう。

彼は自分がどうしてここに居るのか、自分が誰なのかすらわからないまま、ただ暗闇の中を漂う。しばらくすると、自分を包み込む暗闇の中に、自身の身体が存在している事に気付く。彼は手足を動かし、差し込む光に向かい真っ直ぐ泳いでみる。光に近付いて来ると、その中に、何か模様の様なものが浮かんできた。模様はだんだん鮮明になって行き、彼がその中に入ると、水溜まりから彼の上半身が飛び出した。


「ほぉ?こいつは驚いた。」


彼の背後から声がする。彼が振り返ると、埃を被ったスクラップの山の上に、何者かが鎮座しているのが見えた。彼が目を凝らすと、そこには全身を包めてしまうほどの、長い髪を持つ女性が居た。


「あんたもあのゲテモノの仲間か?」


女性は彼にいくつかの質問を並べた。彼は質問に答えようとしたが、肺が液体で満ちているからか、空気を吸った途端にむせてしまった。


「......あんた、まさか人間なのか?」


女性は彼に近付こうとした。女性が彼の前に立とうとした時、彼は女性に手を突き出し、その腕が溶け出すと、溶けた断面から刃が形成された。女性は瞬時にその刃を躱すと、再びスクラップの山に座した。


「へぇ.......なああんた、私の言ってる事分かるか?」


「......」


彼は肺から液体を吐き切り、思いっきり空気を吸い込む。呼吸を整えると、女性の目を見た。


「ふむ......もしかしたら使えるかもな。あんた、名前はあるのか?」


彼は首を横に振る。彼の腕に形成されていた刃は、木っ端微塵に砕け散り、断面から再び腕が生えてきた。


「あー、そうだな、おいあんた、ちょっとこいつの相手してくんねぇか。」


女性がそう言うと、日陰の中から大柄な男が出て来た。


「なあ姉貴、子供相手に俺はちと大人気無いんじゃないか?」


「あんたも見てたろ?こいつは多分あのバケモンと同類だ。なぁあんた、あんたは理性の街のもんか?」


彼は首をかしげる。当然だ。彼は今、地上に浮上したばかりなのだから。


「はぁ......一応言葉は通じてるらしい。あとは,,,,,,」


「あぁ。そうだな。いくぞ、がきんちょ」


大柄な男は女性を守るように、彼の前に出た。大柄な男は近くに落ちていた鉄パイプを拾い、それを構えた。


「まぁ、多少手加減はしてやるよ。この街で言葉以外で意思疎通を取るなら、これが一番だからな。」


そう言うと同時に、男はその身にそぐわぬ速度で彼に急接近した。男が鉄パイプを振り下ろすと、それは空を斬り、最終的に水溜まりに着地した。


「姉貴、こいつやっぱりあれと同類ですぜ」


そう言ったのも束の間、彼は男の背後から勢いよく飛び出し、右腕に刃を形成した。男の首目掛けて振るわれた彼の刃もまた、男には当たらず空を斬った。彼は着地と同時に初めて地に足を着く。


「ほぉ、お前足があるんだな。おもしろい、やっぱり相手を知るならこれが一番手っ取り早いな」


男は一定のトーンで淡々と述べる。彼が自信から距離を取ると、男は鉄パイプを投げ捨てた。


「俺もそこの姉貴も、喧嘩が好きでな。もう少し楽しませてくれや。」


そう言うと男は再び彼に殴りかかる。互いに1撃も与えられぬまま、数分が経った頃、男の頬に軽い切り傷が出来た。


「俺に先手を取るか、やるな。どうだ姉貴、こいつは」


「ああ。もう下がっていいぞ、プランツ」


プランツと呼ばれたその男は、何かをぶつぶつと呟きながら、日陰の中に消えて行った。


「さてと、改めて聞くぜ。あんた、名前無いのか?」


彼は女性に刃を向けようか考えたが、右腕の刃を砕き腕に戻した後、女性に向かい頷いた。


「そうか。やっぱ言葉通じるんだな、お前。まぁそんな事はどうだっていい。もう一つ聞く。あんた、ここに何しに来た?」


彼は首を振ろうとしたが、それが回答として成立しない事を悟る。少し考えた後、彼は口を開くことにした。


『......加賀知カイヤ』


「......」


女性は彼が言葉を発した事よりも、その内容に反応しているように見えた。


「あんた、本当に何しに来た。何故その名前を知ってる?」


『お前が、加賀知カイヤか?』


「......」


心なしか彼女は動揺しているようにも見える。彼女が答えるまでも無く、彼は続ける。


『俺を造った、加賀知カイヤは、お前か?』


「......!?お前、まさか!!!!」


彼女は目を見開く。鋭い眼差しで彼を見つめた後、彼女は目に手を当て突如爆笑し始めた。


「アッハッハッハ!!!!あいつホントに成功させやがったぜ!!おい聞いたかプランツ!!」


「あぁ、確かに聞いたさ。」


「はぁ、だったら自己紹介だ。私は本能の街の主、トリカだ。好きに呼んでくれていいぜ。そこにいるのはプランツ。私の右腕みたいなもんだ。」


先程までの敵意が嘘のように、2人は彼に友好的な態度を示した。


「あんた、1人でここに来たのか?さっき言ってたのを考えるに、カイヤは居ねぇみてぇだな。まぁいい。あんた名前が無いんだよな。だったら代わりに付けてやるよ。」


「いいのか姉貴、こいつは......」


「いいんだいいんだ。あいつが名前も付けずにここまで1人で実験体を送るか?普通。しかもこいつ多分脱走してんだぜぇ?」


「それもそうか。」


「よし決めた。『オブシディアン』なんてどうだ?」


『オブシディアン......』


彼はその名前を復唱した。彼もその名前が気に入ったらしく、あっさり受け止めた。


『俺は、オブシディアン』


「あぁ、そうだ。なぁオブシディアン、ニゲラって人見なかったか?」


『......?』


オブシディアンは首を横に振る。


「あー、その様子だと何も知らないみてぇだな。いいぜ、私の知る範囲で教えてやる。」



〈本能の街〉



結論から話そう、私はカイヤの母だ。

夫との間に生まれたあいつには、せめてこの本能の街の住人とは違い、理性の街でまともな人生を歩んで欲しかったんだ。だから、物心ついた辺りで夫に頼んであとは丸投げだ。

何せ私はこの街の主。離れたら仲間達が何しでかすか分かったもんじゃねぇ。

あー、どこまで話したか。あぁそうだ。カイヤが18になったくらいの頃か。ある日突然、1人でここまで来たんだ。この街では刃物や銃器の携行は当たり前。そんな所に理性の街の住人が1人でだ。一体どうやって来たんだろうな。

それであいつは私にこう言ったんだ。

『被検体を1人くれ』

おいおい、あろうことかマッドサイエンティストになってやがる。やっぱり血は争えねぇなって思ったよ。

私は全てを失ったカイヤと同年代くらいの青年を預けた。カイヤが何しようとしてんのか聞いたら、

『命を造る』

そう言って青年連れて帰ってったよ。これがどっちの意味なのかは、今あんたを見て悟ったよ。

ああっと、私の倫理観やら何やらについて問いたいなら、エリナの*スラング*野郎に言えよ?あいつさえ居なきゃ今の私は2人の娘と、夫と一緒に幸せに暮らしてたんだからなぁ。


「まぁ、そういう訳だ。だからカイヤについて知りたいなら、私の夫か本人に聞きな。ところで、なんでカイヤを探してるんだ?」


『俺が......』


オブシディアンが言葉を発そうとしたその時、頭に激痛が走る。気付けば下半身が水溜まりに浸かっていたはずが、地に足を着きうずくまっていた。頭痛が収まると、再びトリカの方を向く。


「そう無理すんな。あんたの様子を見るに、生まれたばっかなんだろう?初めての外の世界なんだ、もっと楽観的に行こうぜ。ところであんた、どっか行くあてはあんのか?」


『......』


オブシディアンは思考を巡らせる。だが問いの答えは見つからなかった。


「その様子だと無さそうだな。この街に住まわせてやってもいいと言いたいところだが、ちと問題があってな。それを解決してくれるんなら、考えてやらなくもないぜ。どうだ?」


オブシディアンは頷いた。


「よし、そうと決まればさっさと片しちまおう。プランツ、あんたも行くか?」


「俺はいい。鬼の居ぬ間になんとやら、愚か者が出入りするかもしれんからな。」


「ハッハッハ、あとで覚えてろよ」


トリカはプランツに乾いた笑いを送ると、オブシディアンを連れてその場を後にした。


     To be continued

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